伊紀の話

終さよキャラ化の話

さよならの準備を始めよう(1)


 古彩町の住民もずいぶんと減ってきた。
 あの新人職員(いやもう新人ではないけど)がやってきたことで、この町の時間は大きく動き出したと言っていいだろう。
 元々住民の退去を目的として派遣されてきた職員たちだけど、事務的に処理しようとする丘添女史や、古彩町に思うところがありすぎて上手く立ち回れなかった大志では進められなかったところまで、彼は影響を及ぼしている。
 辿塚青年の献身は、住民たちの未練を少しずつ、けれど確実に晴らしてくれている。
 まあ、ほんと献身がすぎるから、手放しに褒められたことではないけど。
 丘添女史も大志も頑張ってるしな。君たちの頑張りは無駄ではないぞ。
 ……俺は何処から目線なんだ。
 しかし、職員さんたちがどれだけ頑張ってくれようとも、俺は退去に踏み切れず、この町に留まっている。
 俺はこの町の本来の住民ではない。移住する予定もなかった。
 ただ、あの日この町で死んで、何故かこの町縛り付けられてしまった。それだけなのだ。
 俺の未練はこの町にはない。
 けれど、俺はこの町の外へは行けない。
 にっちもさっちも行かないので、部屋に閉じこもっているか、町をブラブラするの二択になる。
 とは言っても、最近は神社跡で妙なものに出会ってしまったので、山の方には近付かないようにしている。できるだけアレには関わりたくない。
 学校の方に行くと子供たちに遭遇する(子供は苦手だ)し、町興しのグループのことは未だに遠目に見るばかり(また仲良くなったのにお別れになるのは寂しい)
 部屋に閉じこもっても娯楽はないし、鉛筆も削った(余談だがナイフで削っている。上手く削れてると思う)ばかりだし、あまりにもやることがない。元々やることないんだけど。
「どうしたもんかな……
 論文の下書きのような、日記のようなメモのような、もうなんだかよくわからなくなってるノートのページをめくる。
 このノートもそれなりの冊数になってしまった。
 けっこう重要資料になるのでは?とも思うけど、使い道があるのかはわからない。
 しばらく考え込んでいたけど、ノートと鉛筆をリュックに詰めて立ち上がる。
 役場の方にでも行ってみようか、何か手伝えることがあるかもしれないし。

 そうやって宿から出て役場に向かう途中で、こちらに向かってくる人影が見えた。
 たぶん大志、と……誰だあれ、職員じゃなさそうだけど、住民でもなさそう。
 今の古彩町を生きた人間が訪れる機会は滅多にないが、ゼロではない。遺族がやってくることも稀にある。
 万が一姿が見える相手だったりすると、話がややこしくなるので道を外れて隠れる。
 近付いてきた二人の様子をこっそり伺えば、一人はやっぱり大志で、もう一人は仏花の束を持ったスーツ姿の男。
 やっぱり遺族かその辺の……いや、待て。見覚えがある。
 足音を立てないように、なんて気をつけなくとも音を立てることはできないから、視線の向きにだけ気をつけて二人の後を追う。
 会話は距離があるから聞こえないが、向かう先は俺がさっき出てきた宿みたいだ。
 後ろ姿ではいまいちよくわからないので、こそこそと距離を縮めていく。
 近付いてきた俺に気付いた大志が、あっちに行けというジェスチャーをこっそりするが、それを無視して更に近づく。
「ここですか」
 宿の前に花を置き、手を合わせる男の顔を覗き見る。
 こいつ、もしかして、
「野島?」
 弾かれたように男が顔を上げる。
 ばっちり目が合った。
 記憶にあるより、確実に歳を重ねていて、ずいぶんと落ち着いた雰囲気になっている。
「立野……?」
 視界の隅で大志がサッと顔を青ざめさせるのが見えた。
「あ、見えるのか、お前」
「た……立野だー!!!」
 大絶叫に思わず耳を塞ぐ。
 ああ、間違いない。こいつ、野島だ、同じ大学だった。


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 続く。つもりだったけど、終さよ本編完結に伴い内容変更が決定したので一部書き直さねばならない。
 2025年9月4日現在まだ続きは書かれてない。

 2019/12/21