伊紀の話

終さよキャラ化の話

お盆の話


「公務員ってお盆休みあるもんじゃないの?」
 それは恐らく、深く考えずに口から出た言葉だったのだろう。
 眼鏡越しの彼の目には悪意も何も見えない。
 ふと疑問に思ったことが、そのまま口から出てしまった。それだけのこと。
 それだけのことなのだが問題が二つ。
 一つは、この町の住民たちこそが幽霊で、お盆だからといって休めなさそうなところ。
 もう一つは、その疑問を口にしたのが、当の住民の一人である伊紀なこと。
 うるさかったはずの蝉の声が、急に遠くなった気がした。
 お前がそれを言うのかと、言葉にはしないもの空気が重くなる。
 永遠のような一瞬の静寂を挟んで、問題の発言者はマズイことを言ってしまったと気付いたのか表情を変えた。が、後の祭り。
……精霊馬必要なら言って下さいね、そうしたら私達も早く帰れるかもしれませんし」
 伊紀が言い繕う前に、笑顔で丘添はそう告げた。
 ピシッと空気が凍りつく音が聞こえた。
 暑いのには変わりはないはずなのに、急激に背筋が寒くなる。
 苛立つ気持ちはわからなくもないけれど、お前もどうしてそこで毒を吐く!?
「帰れるもんなら帰ってるんだけどね」
 焦った戸里が何かしら言おうとするよりも早く、普段よりも低い声が吐き捨てた。
 丘添と伊紀の睨み合いは、一瞬だったかもしれないし、十分ぐらい経っていたかもしれない。
 遠くなっていた蝉の声が、今度はやけに大きく響き渡る。
……いやごめん、失言でした」
 ふっと、伊紀のまとう空気が緩む。
「こちらこそ失礼しました」
 丘添も頭を下げ、一触即発の危機は過ぎ去った。
 戸里が深々と息を吐き、伊紀は悪かったという目で苦笑して役場を出ていった。

 ………
 ……
 

……ということが、お前が来るよりも前の夏にあった」
「想像するのも怖いんですけどその空気……
 先輩が語るかつての出来事に辿塚は青ざめた。
「その年の末『普通年末年始って役場休みでしょ?』って同じ轍を踏んだからな、あの人」
「ひえっ」


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 ついったーで呟いてたネタの回収。
 辿塚君の「毎日がお盆」というフォローはめちゃくちゃ好きなんだけど、丘添さんの態度は辿塚君が来るよりも前っぽいなと思ったので……
 戸里さんほんっとごめんね。

 2020/03/01