
Μοῦσα
おたおめ2本目
どうも某さまのゲッター1と2漫画(1がスキスキキャッキャ🌸)みたいになりましてですね
……
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白が舞った
校庭が赤々としてきたと竜馬は思った
戦前からの私学、浅間学園の敷地は広い。山際と雑木林のまま残る辺り、遠く薄紅にけぶって見える木々はしかし目を凝らせば細い枝々まで見て取れる、花開く寸前の朱をひときわ色濃くした蕾に群れらているのだ。そういう木々なら花はまだ開いていない。
思うに赤の濃い花から咲き急ぐ気がした、河津桜や緋寒桜なら造花のような派手派手しい色を雪花の下、ぼんぼりを灯すように花開き、もう時は来たのだと告げている、その傍らで深紅の椿がおのれの時を終えて根雪の上に落ちる。ともあれ、春は目の前だった、休日の昼だった。二月末の風が白い雪片を空に舞わせた。
ゴールに蹴り込まれたきり忘れられたらしいサッカーボールを拾い上げて体育倉庫に向かおうとしていた彼は、校庭側出口に近いそこにひときわ強い赤を目にしたきがしておや、と思う。あそこには何が咲いていたのだったかと。
違った。それは人影だった。竜馬も一応持っている学園の詰襟ではなく色鮮やかな私服姿で背の高い細身の、しかし確かに彼と年のごく近そうな様子の男子だった。髪を最近の大学生のおしゃれかのように長くのばしているものの、大人ぶりたがった煙草の臭いなどもしないのは距離が近くなってわかった。
「やあ、雪宿りかい」
相手は答えなかったが目を伏せ小さく頷くように僅かに顔をそむけたのは、積極的でないだけの返礼にも見えた。だから竜馬はそのまま自分の用に戻り、倉庫に鍵を隠していってないかと覗き込み、掛け忘れてくれていないかと引き違い戸をがたがたとやってみて、あいにく施錠済みであるのを確認した。
「しょうがないな、あ、君、ちょっとすまない」
そこの、ガラスを入れ直してない窓から放り込むから
言いつつすぐそばまで来る竜馬に、不機嫌か警戒心が強いか臆病な相手なら、それ以上の接近に対して軒先から自ら出て歩き去ってしまってもいい距離だった。だが彼はそうしなかった。
スローインの要領で倉庫の一番上にぽかりと空いた窓枠から放り込むと、白黒のボールは汗と埃の臭いのする空気を一つかみ窓の外に返して薄暗がりの中に跳ね、埃の薄金色を舞い上げてからどこかに行った。それをよしと見送った後、
「ここの寮では見ないね、転校生かい、それとも来年からの子かい」
そう聞いた。
「は。」
間が空いた。上背があるのにほとんどテノールなんだなと竜馬はその第一声をつぶさに観察するようにして待った
「中坊に見られたのは初めてだよ」
「外れだったか、残念」
「ただの部外者さ」
久々にこっちに来たら、まだこんな格好でバイク乗る時期じゃないって忘れてた。でもねえさん
―――家族がお冠だからまだ帰らない
「帰れない」
「帰らない」
「ふふ」
「
……」
また沈黙
「だから喧嘩してきた後で、おしゃべりしたいと思えない気分なのさ、ごめんよ」
すまねえなおしゃべりくん、と言い足すまでは穏やかに言って、あとはつい、と雪空を仰ぐ。鮮やかな色の、はだけた広い襟ぐりから伸びた長い首は抜けるように白かった。昔静養地でもあったあの辺りに住む、一見そうと見えない病人だろうか、と思えば美術の教科書で見た肖像画を思い出した。小さく若い胸をはだけ、首飾りに黒い蛇を絡みつかせたまま荒涼とした野を背景にした、白鳥か蛇のように首の長い女
―――いや少女、二十歳を待たず没しあまたの芸術家のミューズとなったという幼い人妻。いや、いや、いやそれはだめだまだ死んでは駄目だ、そこまで考えたところで竜馬ははたと気付く、なんだこれは没入しすぎだ、と。なのに相手は上手なモデルのように微動だにせず白く輝く冬の終わりの空を遠く仰ぎ、構ってくれるなと言った。
「喧嘩して出てきたんなら、愚痴を吐き出したりはしたくないかい」
「しないよ」
「なるほどその人を他の誰かにぶっ叩いてほしくないわけだ、加勢はいらないんだな」
「なんだい、あんた子守りでもしたいのかい」
なんだって人の事を子供か赤ん坊かちっちゃい生き物見るみたいな目で追っかけ回すかね
「あ、いや、そんなつもりは、ないんだけどなぁ、あれ?」
うーん?と頭を掻く竜馬を相手はちらりと見た。モデルがその仕事から解放されたかのように、否、肖像画そがなにかの奇跡でこちらの視線に応えたような、ぶわりとした衝撃が来た。竜馬の中だけで。
別の言葉でいうなら運命とか、選ぶ前に落ちた恋とか、球技でならそう、サドン·デス(突然の死)。ピーッと審判のホイッスルが聞こえたような。
どこに使うのかとも知れなかった鍵に対し、やあここに違いないという鍵穴を見つけた喜びと安堵のよう。なぜこれに違いないと思うのか、竜馬自身にも見えない心の中の鍵とその鍵穴か扉か錠前とに揃いの刻印でもみとめたような、それは不思議な確信だった。
やっと見つけた、やっぱりあった
ここにこれを差し入れて回したらかちりと「そうだおまえだ」という応えがあって、そして、箱か扉か固く自身を抱きしめていた腕が開く
―――
「
……あんた、さ」
「君、名前を聞いてもいいかな、
ほぼ同時。
「いやぜひ聞かせてくれ。なんだか今後も会いそうな予感がすごくしてきた。俺は竜馬、流竜馬、きみは
―――」
「ストップ。
いきなりの話でどこに連れてくつもりだい、どこで放り出されるかも分かりやしねえ」
そんなの御免だね。
いきなり距離を詰めてきた竜馬の顔の前に白い手のひらを立ててみせて彼は制した。そして長い人差し指が、少し考えるような間の後で竜馬の唇に触れた。
東京の学校でまた面倒起こしたらこっちが放り込まれる候補になってるんだが、急にいいこにしてる気になってきちまった、ふん。だからこれっきりだよきっと。竜馬。
雪花の白が止んだ時、鮮やかな花の色を纏った真っ白い彼は消えていた、煙のように風のように消え失せていた、少なくとも、自分の口を押さえたきり固まっていた竜馬主観では。
その傍らには早咲きの桜よりはいくらか淡い紅の垂れ梅が、粒の大きなビーズかパールのような雫を抱いて震えているばかりだった。
その夜、寮のベッドに入る頃になっても竜馬は凛々しい眉とまなじりを上げてひとり言った。
本当に、まるで恋に落ちたみたいだ
神隼人はくすねてきた客用シェリー酒を嘗めつつ濡れ髪に指を差し入れひとりごちた。
なんだか変な奴に会ったなあ
根拠不明に好意的で、とっても勝手そうな奴。
それが最後の最後に手酷い咬み傷を残していくと、まだ知ることはなく
一九七四年二月二八日
(了)
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