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ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
Public
管理NO3250本丸
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【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】
2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。
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***
苦しげな寝息を立てる主と共に、彼の寝室へと再び一振り残った一文字則宗は、蜂須賀虎徹が運んできた昼食をただ胃袋へと詰め込むだけの作業を始めていた。人の身となってから食を覚え、楽しみの一つとしていた一文字則宗であったが、今朝からは食事がただの体力維持の作業と化している。
何を食べても味が解らぬ。解らぬものは楽しむ事も出来ぬ。
しかし、寄せ集めの記憶と知識だけが拠り所とはいえ、自分の為に用意された食事を粗末にする事は良くない事だという観念は彼の中に存在していた。自分を形成する概念と、それらを生み出した刀工が生まれ、生きた時代がそう思わせるのかも知れぬ。
進まぬ箸をどうにかこうにか動かして、膳の上の食物を消費する。幾許かの申し訳なさも感じてはいたが、今の一文字則宗の虚ろな胸中にはどうする事も出来なかった。
流石に今日は同胞である一文字の者らもここに顔を出す事は無かった。
寧ろそれこそが彼らの心配の表れとなっているという事実が、一文字則宗の心の虚ろに更に翳りを落とす。
理由があって、一文字則宗がこの部屋に籠り続けている訳ではなかった。
どちらかといえば、一文字則宗はこの場所に縛り付けられている理由を探していた。
自分でも何をしているのか、理解に苦しむ。
こうしている間にも他の刀剣男士達は本丸の復旧に尽力しているというのに、何を呆けているのか。
蜂須賀虎徹に主の具合を診ていて欲しい、と頼まれはしたが、彼が自分に対して気を遣った故の采配だという事くらい容易に理解出来る。
(情けない話だ)
一文字則宗の顔に、自嘲の笑みが微かに浮かぶ。
やっとの思いで完食した昼食の膳をせめてもと部屋の外へと出し、一文字則宗は再び目覚めぬ主の傍へと腰を下ろす。
そして昨夜の事と、これまでの事を頭の中で反芻する。
本丸へとやってきた自分の姿を見て、震える指先で触れられた事。
身に付けた菊の花の意味を聞き、その答えに彼がただ静かに涙を零した事。
静かに告げられた決意の、真摯な胡桃染の瞳。
本丸での暮らしが始まってから向けられるようになった、少し眩しそうな彼の眼差し。
突然に渡した遠征の土産に大袈裟なほど驚いた顔。
紙巻き煙草の匂い。
時々、それに混ざる火薬の香り。
昨夜、初めて触れた肌と肌の感触。体温。
甘く掠れる、剥き出しの想いを乗せた声。
真っ直ぐに向けられる、愛。
ぱた、と一文字則宗の手の甲に何かが落ちる。
驚いて視線を落とすと、自分の腿の上で握りしめる手がぐしゃぐしゃに歪んでいた。
人の身を与えられて、初めて流した涙であった。
戸惑いながらも、勝手に目から零れ落ちるそれを、一文字則宗は静かに受け入れた。
『彼にとって貴方は特別なんだ。責めないでやって欲しい』
蜂須賀虎徹の言葉が、一文字則宗の耳の奥で甦る。
「特別、か
……
」
誰にともなく呟いた一文字則宗の声は、か細く掠れて膝元へと零れ落ちた。
(それは、僕とて同じだ)
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