ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】

2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。


 
 
——主の容態は?」



昼食の膳を持って主の寝室へと訪れた蜂須賀虎徹を、浴衣姿に羽織を着込んだ一文字則宗は、神妙な面持ちで迎え入れた。

「熱が下がりきらない事にはどうにもならんようだな」

答えてすぐに目線を正面に落とした先には、ぐったりと布団に埋もれる主の姿があった。
冬布団の上からでも判るほど荒い呼吸を繰り返している。剥き出しの腕には初めて見る器具——点滴の事である——が繋がっている。
医者の話では薬と栄養をこれで摂取させるとの事であった。器具に吊るされた容器には透明の液体が並々と入っており、これが意識を失っている間の主の食事と服薬代わりらしい。

……則宗殿は?具合は大丈夫かい?」

昼食の膳を勧めながら蜂須賀虎徹は一文字則宗に問う。
朝食の膳もこうしてこの部屋に運んだが、綺麗に完食して空の膳を炊事場へと持って来ていた。
しかし、表情からいって進んで食べたとはとても思えなかった。残すと悪いから仕方なく食べたのだろうと——聞かずともそう判るような様子であった。

しかし、ここで多少無理にでも食べておいてもらわねば彼はきっと飲まず食わずで、主が起きるまでここを離れないだろうと蜂須賀虎徹は直感している。
気が引ける思いも多少はあったが、それでも蜂須賀虎徹は敢えて見て見ぬふりをして要らぬ世話を焼いていた。

「わざわざすまんな。僕のはほんのかすり傷だ。……この馬鹿が無茶をしでかしてくれたおかげでな」

礼を述べながらも、一文字則宗の表情は硬いままである。
整った正座の、膝元に置かれた拳に僅かに力が入るのが見える。

蜂須賀虎徹の胸に、ひりひりとした痛みが滲む。
彼はこのふたりの間にだけ存在する、目には映らぬ結びつきを敏感に感じ取っている。
自分や他の刀剣男士達が主に対して抱いている忠義や愛着とは違う、彼らが互いにしか抱いていない特別な想いを。

そしてそれを彼らが各々に自覚し受け入れる事が、ふたりにとっても自身にとっても幸福であると蜂須賀虎徹は信じていた。

……彼にとって貴方は特別なんだ。責めないでやって欲しい」

絞り出すような声で蜂須賀虎徹は一文字則宗へと、どうにかそれだけ口にした。
そして、また頃合いを見て膳を下げに来る事だけ告げて、静かに部屋を後にした。





広間へと引き返しかけて、蜂須賀虎徹は立ち止まった。
全員既に大広間へと移動したのだろう。修繕作業の途中で置き去られた資材などが、がらんとした本丸の敷地内のあちらこちらに点在しているだけで、誰の影も見えない。

蜂須賀虎徹は無事なままの柱に凭れ、虚空を見つめて溜息を吐く。




今日も冬の青空はどこまでも高く澄んでいる。
修繕作業にはもってこいの空模様だが、蜂須賀虎徹にとってはただ、その青は憂鬱でしかなかった。

 
 
(主、早く目を覚ましてくれ)


(俺はもう、こんな君達は見ていられない)