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ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
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管理NO3250本丸
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【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】
2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。
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***
————
静かだ。
思うと同時に、主の意識が浮上した。
重い瞼を持ち上げると、すっかりと夜も深け込んだ暗がりの中に、ぼやぼやと霞む天井板が見える。
明瞭としない泥濘のような意識。その中で、それでも今のこの状況に至るまでの経緯をゆるゆると反芻する。
歪な音。咆哮。喧噪。怒号。
電話。通信。機械音。
冬の青空。閃光。曇りのない白。赤。朱。紅。
菊花の花弁と、硝子の瞳。
虚ろに浮遊する断片的なイメージは、不意に襲った腹部の痛みによって中断を余儀なくされる。
じくじくとしたその感覚に、ああ、まだ生きているななどと主の胡乱な脳は悠長な感想を引き出した。
少しずつピントが合うように覚醒を始める。
きっと自分がここに寝かされているという事は、あの事態を乗り切ったという事だ。
他の本丸で同様の事態が発生した時は、明日は我が身と思いながらも、何処か別の世界の事のように思っていた事を自覚し、主は少しばかり反省した。
全くリスクマネジメントが出来ていなかったという訳ではないものの、もう少しやりようがあったのではないかという思いが拭えない。
動けるようになったら、早速今回の件の全てのデータを収集して根本的に有事の際について見直さなければ、などと根っからの仕事人間の彼は既にそんな事を考えている。
これはもう一種の病気みたいなもので、そうなると主の身体はままならぬ現状がもどかしくて仕方が無くなる。
だが、そうはいっても今は流石に動けそうもないので、納得しきれぬ己を宥めて主は思考の矛先を変える。
ようやく全ての段取りがついた頃、障子戸一枚隔てた先の音が気になって外に出た時の事を記憶の底から掘り返した。
あの後、一文字則宗を庇ってからの記憶が非常に曖昧である。というより、ほぼ記憶に無い。自分の手当てをする一文字則宗の深紅のストールの上で、目を刺すほど白々とした彼の指先がやけに印象に残っているだけだ。
その後、どうやってあの状況を収めたのか、応援部隊や結界修復部隊はいつやって来て、誰がどのように対応したかも分からずじまいである。もしかしたらその頃には既に気を失っていて、代わりに蜂須賀が対応してくれたのかもしれぬ。
恐らくそれが真相だろうと、主は一人己を納得させる。
いずれにせよここが自身の本丸であるのなら、状況は終了し、取り敢えずこの本丸は守られたという事なのだ。
そのうち誰か様子を見に来るであろうから、被害状況などは後で確認すればいい。
何だかんだと色々あったが、自分に仕えている刀剣男士達の事は信頼している。
『自分の身を守れ』という命令は、きっと守ってくれているだろうと、そう信じている。
一文字則宗は、彼はどうしているだろうか。
一見して酷く負傷しているようには見えなかった。ただ、西洋人形のような頬に一筋の血が滲んでいた事と、どちらかの二の腕に赤く汚れた衣服の裂け目を見たのだけははっきりと覚えている。
この本丸の一振りとなってから、何だかんだ殆ど無傷で本丸に戻ってきていた彼の姿を思い返すと、余程今回は彼にとっても厳しい局面であったのだろうという事は容易に想像出来る。
傷を負っている訳でもないの主の胸の奥がちり、と痛む。
その時。
ふ、と鼓膜を僅かな衣擦れの音が震わせる。
はっとして、主はかろうじて動かせる顔だけをそちらに向ける。てっきりこの部屋には自分一人だけが寝かされているのだと思い込んでいただけに、主の心臓は思わぬ刺激を受けてどくどくと耳の音で脈打つ。
そして、向けた視線の先、畳半分ほど離れたところに敷かれた布団から起き上がった夜着姿の一文字則宗の姿に、主の心臓は更に跳ね上がった。
純度の高い薄玻璃の瞳が、主の姿をを真っ直ぐに捉えている。
「
……
目が覚めたか」
「ああ
……
、
……
傷は、平気か?」
主の言葉を聞くや否や、一文字則宗は額を掌で覆い深々と溜息を吐く。
そして、このタイミングを見計らっていたかのように布団から這い出ると、静かに横たわる主の傍らへと正座した。
「僕より酷いなりで他人の心配をしている場合か。応援の連中も呆れていたぞ」
「はは
……
悪かったな、手間かけちまって」
一文字則宗のじっとりとした声に、主は苦笑を返しながら心中密かに安堵する。
「全くだ。
……
取り敢えず結界修復は問題なく済んだ。刀剣男士も中傷以上の負傷者は無し。全員無事だ。連中には分かっている限りの情報を蜂須賀と併せて報告しておいた。ひとまずそれで原因調査をするそうだ。怪我が治った頃にまた主にも改めて聞き取りに来ると言っていたぞ」
「そうか」
「連中と一緒に来たお前さんら専門の医者によるとその怪我は全治一ヶ月半。脇腹のぎりぎりの所に刺さって幸い内臓を傷付けずに済んだから、そのくらいで綺麗に治るだろうと言っていた。但し、絶対安静が条件でな」
全く、本丸内でお前さんが一番重傷だ
——
そう続けた一文字則宗の口調は変わりない。
再度へら、と苦笑いを向けようとした主だったが、目の当たりにした彼の表情に再び動悸を覚えた。
「僕は軽傷だが、負傷している事には違いないと一緒に療養するついでに、お前さんが若さ故の馬鹿をやらかさないかどうか見張っているという訳だ」
そう続けた一文字則宗の顔に、いつもの悠然とした笑みも、時たま見せる呆れ顔もなかった。
邂逅してから初めて見る表情だった。
まるで、泣きべそを我慢する子供のような。
気が付くと、主の身体は動いていた。
腕が鉛のように重い。どうにか力を込めて持ち上げたその腕を、一文字則宗の正座した腿の上に握られている拳へと伸ばした。
骨ばった手の甲に触れる。
一文字則宗の身体が僅かに震えたのが指先から伝わる。ひやりとはしていたが、それでも確かに体温を持つ人間の質感をしている。
更に腕を伸ばし、手首に指を絡める。少しだけ身を引かれたが、強請るように強めに力を込めて引く。
一文字則宗の瞳が戸惑うように揺れた。雪融け水のようだと主は思った。
思うように動かぬ身体で、それでも更に力を込めて引くと、彼の凛とした正座が崩れて前のめりになった。もう片方の腕も何とか伸ばして彼を完全に捕らえる。
主、と一文字則宗から縋るような声が零れる。それに言葉で応えず、主はそのまま自分の隣へ寝そべるように仕草だけで導いた。
意味を図りかねたまま、やむなしといった諦め交じりの一文字則宗の顔が、主の目の前に転がった。
障子越しにうっすらと射し込む月の光の中でさえ、金の絹糸のような彼の髪はきらきらと眩しい。
主がそっとその金糸に指を差し入れると、それはやはり思っていた通りに絹のような手触りであった。
瞳に湛えられた雪融け水は、今にも溢れ出しそうに潤んでいる。そんな風に見えた。
「
……
あんたは、綺麗だ」
主の溜息のような呟きに、一文字則宗が息を飲む。
「、急に何を
……
」
「どこもかしこも綺麗で
……
だから、誰にも手出しさせたくなかった」
主の胸中は静かであった。
自然と口から紡がれる言葉にも、今の自分の行為にも、何一つ惑う事などなかった。
ただ、目の前の彼が美しく、愛おしい。それだけだった。
「憧れだとか、あんたが何者だとか、そんなものどうでもいいくらい
……
俺はあんたに惚れてるんだ」
主は少しばかり掠れた声でそう告げると、一文字則宗の顔を両の掌で引き寄せる。
そして、自身の額と彼の額を合わせた。
自分よりも低いが、確かに体温を感じる。
皮膚の感触も、指に伝わる僅かな血液の脈動も、吐息も全てが彼の存在を明確にしている。
その全てが、何よりも愛おしかった。
主は、今までに感じた事の無い安堵に包まれていた。
これまでに歩んできた人生の一つの終着に辿り着いたような、そんな気分だ。
想像だにしていなかった事だが、それでも心のどこかでこの光景を探し求めてここまで来たのかも知れない。
そこまで考えて、主の視界と思考は朦朧とした何かに包まれていった。
「おい、主
……
」
自分が言葉を返す前に急激に脱力した主に、一文字則宗は恐る恐る声を掛ける。返答はない。
しん、とした部屋に、主の乱れ始めた呼吸だけが浸透する。
一文字則宗はそっと主の額に手をやった。
自分が人の身でありながらも等しい存在では無い事を差し引いたとしても、ぞっとするほどに彼の身体は熱を帯びていた。
「全く、世話の焼ける
……
」
苦々しくもそう溜息混じりに呟くと、一文字則宗は起き上がって主を寝かせ直した。
脱力しきった成人男性は細身であっても重さがある。少々乱暴な所作になってしまったが、主が意識を取り戻す様子はなかった。
搔き乱された心と夜着の裾の乱れもそのままに、一文字則宗は別室に控えている医者の元へと早足で向かった。
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