ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】

2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。




やがて、ざりざりと砂を踏んでいた足が執務室のある辺りまで辿り着いた。
武家屋敷のような造りの建物の、東側に面した角部屋が執務室である。

外に面した廊下の角をやや大きく回り込むようにして部屋の前へと進もうとする主の足が、少しばかり乱れて止まる。



「一休みは終わりかい?」

悠然とした笑みを浮かべるは、柔らかな陽射しにきらめく菊花の髪の美しき刀。
主とこの本丸の行く末を大きく変えた、美しき概念。
 
……ああ。で、あんたはそんな俺を妨害しに来たか?」

思わず止めてしまった足を再び進めて、主は執務室の前の縁側に落ち着いている彼――一文字則宗の隣へと腰を下ろした。

「今日はもう任務完了か」
「ああ。後はじじぃらしく日向ぼっこと洒落こんでいる訳さ」

内番姿の彼の物言いは正に好々爺そのもので、少し前に目の当たりにした戦刀の姿など微塵も感じられない。

「光合成だろ、それを言うなら」
「うはは、随分と気に入ってるな」

陽気に笑う一文字則宗の横顔は、午後の陽射しの中できらきらと光を散らす。


主は、そっとその光を零す髪に触れた。
きょと、と目を丸くする一文字則宗に、主は穏やかな瞳を向ける。





「菊」

柔らかな声に、一文字則宗はそのままの顔で呆け、そして、じわじわと言葉の意味を噛み締めて白磁の頬に朱を灯す。


「はは、あんたでも照れる事あるんだな」
「あ、あんまり年寄りを揶揄うんじゃない」

主はこの本丸にやって来てから、やっと初めて屈託なく笑った。
主の様子にじと、とした視線を寄越しながらも、一文字則宗の胸の内には満更でもない心地好さがあった。

「揶揄ってなんかないさ」
「信用ならんな」
「本気さ、菊。これが俺の愛の名だ」

胡桃染の瞳の中に、何とも形容し難い表情で固まる一文字則宗の姿が映っている。

「御前殿はお気に召さないか?」
……そんな事は、ない」

悪くない、と木々の騒めきに掻き消えそうな呟きが、一陣の風に乗って飛んでゆく。




春の色が混じる少し肌寒いその風の中、一足先に春爛漫のような二人の口付けが、人気のない本丸の片隅で密やかに交わされた。