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ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
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管理NO3250本丸
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【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】
2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。
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***
透き通る冬の空に、到底似つかわしくない血飛沫の朱が散る。
清々しい空気の中に禍々しい声が混ざり、時折きん、と鋭い鋼の悲鳴が響く。
一体どれくらい刀を振るい続けただろうか。
一文字則宗は今のところは傷らしい傷も負わず、何処からともなく湧いてくる時間遡行軍を容赦なく破壊し続けている。
支度の最中に部屋を訪れた蜂須賀虎徹の話によると、どうやらこういった事は他の本丸でも時々起きていたのだという。
偶にその援軍を頼まれて出陣する事もあったようだ。
今回はその他本丸の援軍と、この本丸を外敵から守る為の『結界』を修復する部隊の要請に主はかかりきりになっているらしい。
時折執務室の入口に近寄ると、頻りに何かを捲し立てる主の声が微かに聞こえた。
初めて聞く彼の真剣かつ懸命な声音に、一文字則宗の胸には何やら込み上げるものがあった。
(主、気張れよ)
(しかし、)
一文字則宗は、敵の攻勢の隙に乗じてちらりと遠くの空に目を向ける。
こじ開けられた時空の歪みから相も変わらず時間遡行軍が溢れ出ているのが見える。
「全く、キリが無いぞ
……
」
戦刀の本性剝き出しに呟き、澱んだ穴を睨め付ける。そして、飛び掛かる脇差の一撃をそれでも確実に受け止めて反撃する。
厭な声を上げながらぼたりと地面に落ちたその残骸を蹴りつけて、一文字則宗は自身の足元を確保した。
そろそろこの執務室前の敷地も、足の踏み場のないと言えるほどに屍が埋め尽くそうとしている。時間遡行軍とて、人の形を留めていない者もいるとはいえ血と肉と骨と臓腑で出来ているらしい。散らかったそれらが時として機動性を奪う。
もうこれ以上ひとところで戦うのは分が悪くなる。そうは解っていても、退けぬ理由がある。
他の刀剣男士達が一振りもこちらへ駆け付ける様子がないところを見ると、ここよりも他の方が手酷く攻められている事は容易に想像がつく。敵の出現位置があの空中の大穴だけとも限らない。自分の感覚の利く範囲内以上の敵が押し寄せているかも知れぬ。
時折木材が圧し折れるような音や瓦が割れるも聞こえてくる辺り、本丸自体にも被害が及び始めている。
まだ一文字則宗はこの本丸の一員になってから日は浅いが、監査官であった頃に目を通したこの本丸の戦闘実績、そしてここにやってきてから実際に目の当たりにした彼らの確かな強さを理解している。そんな彼らですら、本丸への攻撃を防ぎきれていないという事だ。
そしてそれは、己も然り。
「ちと骨が折れるな
……
」
呟く一文字則宗の顔に、苦々しく引き攣った笑みが張り付く。
後どれほどこの状態が続くのか図りかねる状況に、流石の一文字則宗も些か辟易を隠せない。
ひゅ、と鋭く風を切る音を感じた。
一文字則宗の身体はその感覚に考えるより先に身を翻していた。
「、
……
おいおい、こいつは一寸頂けないぞ」
切っ先が掠めた二の腕の眩しいほどの白に血の赤が滲むのも構わず、一文字則宗は眼前に現れた敵の姿に更に辟易した。
槍だ。
それも、機動力の高い個体特有の瘴気を纏っている。
それは、悍ましい有様で再び一文字則宗へと得物の切っ先を向けている。今にも飛び掛からんという気迫が押し寄せる。
暇無く、がきん、と耳障りな音が響く。真っ直ぐに突っ込んできた槍の柄が一文字則宗の刀に食い込む。
(相変わらず、何て馬鹿力だ)
重々しい体躯からは想像もつかぬほどの速さに、直撃を避けるのがやっとである。柄を受け止める刃が発する悲鳴のような耳障りな音と、少しでも気を抜けば押し負けそうな相手の衝力に、一文字則宗のこめかみや背中を厭な汗が伝う。
どうにか切っ先を逸らした先、今度は一文字則宗の白磁の頬に鮮血のひびが入る。
この個体の槍相手には、まず無傷では済まない事は一文字則宗自身嫌というほど解っている。
通常の任務時のように部隊を組んでの出陣時であれば、仲間との連携でそこまで苦戦する事なく破壊出来る相手ではあるが、現在の一文字則宗は謂わば単騎の状態である。一騎打ちであればまだ打開も容易ではあるが、他の敵もいる今の状況はかなり厳しい戦いを強いられるのが目に見えている。
中傷以上の傷を負う事になるのは避けられまい。
一文字則宗はうんざりしつつもそれを覚悟した。
しかし、それでもどうにか彼は善戦していた。
傷は最小限に、槍の攻撃をいなしつつ、隙あらば飛びかかってくる短刀や脇差共を確実に斬り落とす。
傷を負う事を恐れている訳ではない。
ただ、自分が傷を負えば、障子の向こう側にいる男がきっと辛そうな顔をするに違いない。
それは何だか、とても嫌だ。
そんな漠然とした想いが一文字則宗の中にはあった。
だが刀剣男士なる付喪神といえど、人の身である以上疲労は蓄積される。
もう随分な時間、身も心も休まらぬ戦闘を続けさせられている一文字則宗も、この世界にやってきてから初めて味わう自身の消耗をありありと感じていた。刀を握る手と腕は槍の猛攻も相俟って、次第にちりちりとした痺れが現れ始めている。
集中力が、鈍り始めている。
その事を実感した矢先、一文字則宗にほんの僅かな隙が生まれた。
一文字則宗の胸に目掛けて、鈍く光る刃先が一直線に迫るのが見える。
(、しまった)
まずい、これは避けられぬ。
まともに食らえば破壊すらあるかも知れぬ、と、せめて少しでも傷を浅く受け止める動きを一文字則宗は模索した。
しかし、その思考回路はぶっつりと途切れた。
それは正に刹那で、永遠の静止にも思えた。
別の衝撃が一文字則宗の身体を襲ったのだ。
突然の出来事に頭の中が白紙になった一文字則宗の視界の隅に、見覚えのあるくたびれた開襟シャツが映り、いよいよ一文字則宗の思考は停止した。
重い銃声が一発、空間を切り裂いて響き渡る。
対時間遡行軍用に誂られた大口径拳銃の銃弾に脳天を正確に撃ち抜かれ、槍が濁った咆哮を上げながら大きく仰け反る。
「人のモンに勝手に傷付けてんじゃねーよバケモン共」
一文字則宗を突き飛ばし、自らの腹に槍の切っ先を受け止めた草臥れた開襟シャツの男
——
主は、それが抜けぬようにしっかりと柄を掴んでいる。
もう一方の手に握られたリボルバーの銃口は、まだ槍の方へと油断なく向けられている。
一文字則宗が動揺を覚えるよりも先に、主は一文字則宗に向かって叫び、命じた。
「御前!あんたがとどめを刺せ!」
一文字則宗の頭の中は未だ真っ白なままであった。
しかしそれでも主の一声に考えるよりも先に、真っ直ぐに槍へと跳ぶように駆けた。
そして、それは美しいほどの横一文字を描き、一太刀の下に槍の首を刎飛ばす。
「全くだ。我が主に負わせた傷の代償は高いぞ」
そう吐き捨て、呆気なく崩れ落ちる胴体と、地面に弾んで転がり落ちる素っ首を見下す一文字則宗の瞳は、ぞっとするほどに冷ややかであった。まるで静かなる蒼い炎が奥に揺らめくようである。
しかしすぐに彼は振り返り、歯を食い縛りながらどうにか刺さったままの槍を体内から抜き取る主の傍へ従く。
「何をやっている、大馬鹿者。お前さんが駄目になれば本末転倒なんだぞ」
主が初めて聞く、一文字則宗の怒りに満ちた声だ。
しかし、ただ怒っている訳ではない、労りとやるせなさの入り混じった、叱咤の声だ。
そんな声音で自身の傷付いた身体を支えようとする一文字則宗を主はやんわりと制して、いつもの調子でへらりと苦笑してみせる。
「、ってぇ
……
。
……
しょうがねぇだろ、身体が勝手に動いちまったんだから」
「全く
……
とんだ若造だ」
少しの間敵の攻勢が緩んだのを確認し、一文字則宗は自身が袈裟掛けにして纏っている深紅の布をするりと解いた。
そして素人目にも仕立ての良いそれを、呆れの混じる溜息を洩らしながら何の躊躇いもなく、主の腹の傷口を一先ず塞ぐだけの簡単な応急処置として包帯の代わりにした。
「ありがたい説教は後でいくらでも聞いてやる
……
取り敢えず今はこの状況から悪化させない事が先決だ。あと三十分程で修復部隊と別本丸からの応援が来る」
主は大人しくされるがままになりながら、それでも辺りに気を配り、視認出来る範囲の雑魚へと照準を合わせ的確に破壊してゆく。
人間では太刀打ちが出来ぬとされていた時間遡行軍であるが、ただでさえ高威力の銃弾に更に改良を加えた大口径拳銃が放つ射撃の威力は、短刀や脇差程度であれば破壊する事は可能である。
更にそこに今までに静かに培ってきた射撃能力を上乗せして、本来は戦闘能力を最低限にしか求められぬ筈の審神者の中でも、この本丸の主の戦闘能力は限りなく実戦登用可能なレベルに達しているのである。
書類上では知っていたとはいえ、初めて目の当たりにした主の戦う姿に、一文字則宗の心の内に何かが灯る。
「主
……
踏ん張れよ」
「当たり前だ、今はまだ死ねねぇ」
一文字則宗はその言葉にひと時の信頼を置くと、主では手に負えない刀達に標的を絞り、再び刃を閃かせた。
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