ゑ/圓堂
2025-03-26 23:47:58
23375文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】その愛を何と呼ぶ・後編<web再録>【創作男審神者×一文字則宗】

2021年8月インテックス大阪開催の閃華の刻で頒布し現在は完売となったさにごぜ本のweb再録となります。こちらは後編となります。
再録にあたり(色々ととんでもなかったので)そこそこ加筆修正を行っています。
刀剣乱舞というジャンルにきて初めて出した、最初のさにごぜ長編です。前編のあと3250本丸が時間遡行軍の襲撃に遭い、それをきっかけにふたりが結ばれる話です。
本をお迎え下さった皆様本当にありがとうございました。



***


やっと、ほんの少しばかり陽の光に春の気配を感じ始める三月初旬の空。
そこには千切れた綿毛のような雲が一面の青に点在している。

ようやく元の姿を取り戻した本丸は、穏やかな静けさとささやかな喧噪に包まれている。





当本丸の主は、本日も相も変わらずよれよれの開襟シャツとスラックス、伸ばしっきりの髪を無造作に襟足で結い、下顎には無精髭の定番スタイルである。
咥えていた煙草を携帯灰皿へと放り込み、紫煙の残り香を纏いながら、執務室に戻ろうと敷地内を便所サンダルをぱたぱた鳴らしながら進む。

少し遠いところから、和泉守兼定と堀川国広の手合わせの竹光の音が聞こえる。時折堀川国広への文句の声が混ざるおかげで、今日の組み合わせが誰なのか知っていなくとも嫌でも判る。

更に別の方からは、畑当番の喚くような声が聞こえる。喚いているのは近侍の蜂須賀虎徹だ。何でもこなす彼だが、未だに畑当番と馬当番だけはやりはするものの、毎度文句と大騒ぎがついて回る。
豪快にそれを笑って受け流しているのは長曽祢虎徹だろう。まだまだ蜂須賀虎徹にとっては気に食わない部分もあるようだが、それを長曾祢虎徹も承知の上で上手くやっていてくれていると主は感じている。



「あ、主だ」
「やっほー、主」

斜め後方から呼びかけられて、主は振り返る。
振り向く前から察していた通り、沖田総司の愛刀コンビ・大和守安定と加州清光である。揃いの内番着に身を包み、肩を並べて主の元へと近付いてきた。

「おう、お前らは馬当番か」
「え、何で分かったの?」
「言っとくけどな、当番の順番決めてるのは俺だぞ」
「え!じゃあもうちょい馬当番と畑当番の比率どうにかしてくんない?俺畑当番やだ」
「お前だけ贔屓出来るか。ほら、今畑行ってみろ。もっと畑当番嫌がってる奴が四苦八苦しながら頑張ってるぞ」

主が畑のある方を指差した正にその時、蜂須賀虎徹の怒号が本丸中に響き渡る。

……主、鬼だね」
「たまたま被っただけだ。他意はねぇ」
「えー、ほんとかよー?」

声の内容に全てを察した二振りが、主へと呆れた視線を寄越す。主はその視線をすんなりと受け流してしれと腕を組む。

「俺はいつだって公平だぞ」
「そーれーはー、嘘だな」

更にしれと続いた主の言葉に、すかさずしたり顔を作って加州清光が食い付いた。
手入れの行き届いた赤い爪の指先が、主の鳩尾の辺りを小突く。

「ぐ、お前、今のは当たり所が」
「あのさぁ、主。適当言うならもうちょっと上手い事言いなよ」
「それは、どういう」
「何それ、自分が一番よく解ってるくせに」

生意気な笑みを浮かべて主を詰る加州清光の横で、くすくすと大和守安定が抑えきれない笑いを洩らしている。
質の悪いのに捕まってしまった、と主は隠す事もなく盛大に溜息を吐いた。

……別に、任務や当番の割り振りは公平だ」
「どうかなぁ、本当かなぁ」
「あー、もう、お前らまだ当番中だろ。さっさと片付けてこい」
「ハイハイ、終わったら色々聞かせろよなー」

ぞっとするような台詞を残して立ち去る二振りの背を見送って、主は、さてどう逃げようかと思案しながら再び自室へと歩を進めた。







しかし、と、細かい砂地の地面を踏みしめながら、主は思考を巡らせる。

特命調査以来、本当にがらりとこの本丸の雰囲気は変わった。
以前ならば、加州清光や大和守安定とこんな軽口を叩く事など想像だにしていなかった。
『菊一文字』という創作上の刀に現を抜かし、二振りの存在を、決して蔑ろにしていた訳ではないものの疎かにしてしまっていた自分には、二人を従える権利も使役する権利もないと、勝手にそう思い込んでいた。

今となっては、心底くだらない妄執に憑りつかれていたものだ、とただ失笑するばかりだ。



加州清光が特命調査の後修行に出たいと申し出、後を追うように大和守安定も修行の許可を請いに来て、今や二振りとも立派に極の姿となって本丸の為に尽力してくれている。
自分のどうしようもない感情だけで随分と他に遅れをとる形になってしまった事を詫びても、彼らは笑って許してくれた。

これから、少しずつでも報いていってやらねば。
そう考えると、少々揶揄いの種にされるくらいは我慢せねばなるまいか、と主は心の内で苦笑いを零す。