mishiadd
2024-11-17 18:56:00
50668文字
Public
 

Gothic.

生き血を啜りながら永遠の時を生きるセイバーといつか彼に仲間にしてもらうために後をついていく伊織くん(少年期~青年期)の時系列ぐちゃぐちゃ連作ゴシックホラーパロ。いつもの感じのろくでもない剣伊。【型月世界の『吸血鬼』概念ではなくもっと一般的な(村が死によって包囲されてたりギムナジウムに小鳥を迎えに行ったりニューオーリンズでフランス貴族に自分は与えられなかった選択肢を与えられたりする)所謂やつです】成仏できなかったハロウィンの亡霊とは私のことダヨォ!


《ある湖畔にて》




一、

息を呑むほどに美しい青年だった。



夏の間だけ避暑地として滞在している別荘だった。中古で売り出していた日本家屋を購入し、縁側を洋風のパティオに改装したりなどして自分好みに建て替えた。
を見つけたのは、開け放した座敷の奥から夕立の降る湖を眺めていたときだった。
さあさあと小気味のいい音を立てて湖の水面を小雨の粒が叩く中、白く霧のようにもやのかかった湖畔に、ひとりの和装の青年が佇んでいたのだ。

びっしょりとしとどに濡れた青緑色の着物は重く、髷のように高い位置でひとつに括った栗毛の髪もすっかり濡れそぼっていた。

その異様な姿にしばし目を奪われていると、青年がこちらを見た。――目が合う。



雨に冷え切って白く冴えわたる肌に、煌々と光る――透き通って深遠な、まるで月夜を写し取ったかのような瞳。



わざわざ関わり合いになろうなどと思い立ったのは、きっとその瞳があまりにも謎めいていたからなのだと思う。
私は小説家だった。我々のような稼業の輩は――本能的に、己の知的好奇心を刺激するものを求めている。知りたい、と思わせる何かを、常に欲している。

玄関に立てかけてあった赤い唐傘を手に取り、青年のもとへと向かう。自分で差している傘とは別に、もう一本を開いて青年に差し掛けた。
急に赤みがかった陰がかかったことに驚いたように、青年が頭上の傘を見上げる。それから、不思議そうに小首を傾げて私を見た。不必要に警戒されぬよう、なるべく人好きのするように微笑んでみせた。

「よければ、どうぞ。――夕立があがるまで、うちで雨宿りでもしませんか」

しばし考えたあと、ゆっくりと青年が頷く。目許にかかる、湿って豊かにうねる栗毛の先から、ぽたりと雫がこぼれた。それが、細く高い鼻梁を伝って、やがて血色の薄い唇をなぞり、かたちのよい顎を伝い落ちる。――ひどい色香を覚えて、なにか見てはいけないものを見てしまったかのような気になり、なんとなく目を逸らす。

青年を連れてパティオに改装した縁側へと案内する。張り出した雨避けパーゴラを雨粒が叩く音のする中、屋外用のテーブルセットの椅子に座らせた青年にタオルを差し出す。
濡れた頭を拭きながら、青年が遠くを眺めている。――先程まで畔に立っていた、あの湖。

「あそこに、なにか?」

尋ねると、青年が振り向いた。しばし考えるそぶりをして――彼には熟考する癖があるらしい――やがて、言った。

「恐らくは。なにか――とても重要なものが、あそこにいた気がするのです」

青年の声を初めて聴いた。凛として涼やかな、それでいて優しげな、耳に心地の良い響きだった。

「『いた』、とは。……それは、なにかの生き物?」
「わかりません。――わからない。そこに何がいたのか。――それどころか――

ふと――初めてそれに思い至ったように、青年がそのうっとりと重いような瞼をやや瞠って、自分でも驚いたような顔をして、私を見た。

「ああ、今気が付いた。……俺は、自分が誰なのか知らないのです。名前も、どこから来たのかも、――この『生』の目的も――



――遠くで、夏の雷の音が聞こえたような気がした。