mishiadd
2024-11-17 18:56:00
50668文字
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Gothic.

生き血を啜りながら永遠の時を生きるセイバーといつか彼に仲間にしてもらうために後をついていく伊織くん(少年期~青年期)の時系列ぐちゃぐちゃ連作ゴシックホラーパロ。いつもの感じのろくでもない剣伊。【型月世界の『吸血鬼』概念ではなくもっと一般的な(村が死によって包囲されてたりギムナジウムに小鳥を迎えに行ったりニューオーリンズでフランス貴族に自分は与えられなかった選択肢を与えられたりする)所謂やつです】成仏できなかったハロウィンの亡霊とは私のことダヨォ!


《ある寄宿学校にて》




一、

そこに伊織を預けよう、とセイバーが考えたのは、同年代の――今の時をちゃんと生きている、自分と同種の群れの中に放り込んでやれば、彼の妄執も少しは薄まるかと期待したからだった。うまくいけば、セイバーのことを忘れてくれるかも、とも。
その発想にちりりとしたかすかな胸の痛みを覚えつつ、気付かないふりをする。――ばかなことを考えずに、このまま――もしその環境で新しい『友』などを見つけて、そのままセイバーのことなど振り返らずに、生者と共に駆けていってくれるなら――それこそ、本望だとも。そう思った。

あわよくば――の目論見は伏せて、セイバーは伊織に提案した。

英国えげれすの制度を真似た寄宿学校というものがあるらしい。――きみも、たまには私と離れて、他の子供たちに触れてみてはどうだ」
おまえと俺は同年代のようなものだろう。であるならば、特にその必要性を感じない」

けんもほろろだった。
革張りの椅子に座って大きな仔豚のぬいぐるみを両腕に抱え込んだ、齢十四歳頃の少年にしてはやや幼い仕草に――セイバーが肩で大きく溜息をつく。これが、伊織がセイバーしか知らずに育ったゆえの弊害なのか、はたまた彼がセイバーの歓心を買おうとしてわざと幼く振る舞っているゆえの結果なのか、セイバーにはわからなかった。
どちらにせよ、伊織の情操教育によいわけがなかった。

……きみは、もっと広い世界を知る必要がある。人生の価値は、きみが思い込んでいるものの他にもきっとたくさんあるのだ。そういう新しいものに触れたら、きみの考え方も変わるかもしれないし――
「変わらない」

断言する変声期前の高い声に、セイバーが閉口する。それから、子供をあやすように言った。

「では、きみと私で勝負をしよう。――寄宿学校に入って、きみが私のことを一時でも忘れたら、きみはもう私についてくるのをやめる。そのまま寄宿学校に残って、生者と共に人生を歩むのだ」
「勝負か。なら、おまえにもなにか条件が必要だな? 俺ばかりが試されるのでは不公平だものな?」

ふん、と幼さを残しつつも整った顔を挑発的に歪め、伊織が言った。

「なら、おまえも一緒に寄宿学校に来い。そして、俺には一度も話しかけるな――だって、そういうことだろう? おまえは、おまえの前から俺がいなくなっても平気だというのだから、手始めにそのくらいできなくてはな」

ぐ、とセイバーが苦々しく奥歯を噛みしめる。――言うではないか、と腹立たしさを覚えながらも、なかば売り言葉に買い言葉のような勢いで、「いいだろう」と頷いた。

「きみと私、共に入学して、他人のふり。きみが一度でも私のことを忘れたら、きみの負けだ」
「そして、おまえが一度でも俺に話しかけたら、おまえの負け。――もう二度と、俺に『どこか遠くへ行ってしまえ』などと言うなよ」

ん、とセイバーが言葉に詰まる。そんなふうに言ったつもりはなかったが、そのように聞こえたということなのだろう。「イオリ、」と言いさして、首を左右に振る。――きっとこれも伊織の手口なのだと、悟る。
伊織は、セイバーしか知らない。だが、セイバーのことはよく知っている。理解している。どのように心を揺さぶれば、セイバーに折れてもらえて、自分の言うことをなんでも聞いてもらえるか

仔豚のぬいぐるみを傍らに置いて、伊織が立ち上がる。
殆ど背丈の変わらないセイバーと向かい合って睨み合い、やがて、「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

はあ、とセイバーが頭を掻いた。――反抗期というやつかな、などと思う。






二、

ほぼ洋館に近いような外観の建物であったが、実際中に入ってみると、畳の間があったり土足厳禁の大広間があったり、はたまた銭湯のような大浴場が併設されていたりなどして、和洋折衷の風情のある宿舎だった。
監督生にあたる上級生に施設を案内してもらいながら、セイバーがきょろきょろと興味深げに周囲を見渡す。普段なにかと伊織に対して大人ぶった態度を示したがるセイバーの落ち着きのない行動に、伊織がフンと鼻を鳴らして笑った。

「なんだ。おまえの方こそ俺のことなど一瞬で忘れ去ってしまいそうではないか。まるで子供みたいに」

咄嗟に反論しようとして、セイバーがはっと思い留まる。見れば、伊織が意地の悪い笑みを浮かべていた。―― 一体どこの誰に似たのだ、と思う。

「おまえが俺に話しかければ即座におまえの負けだが、俺がおまえに話しかける分にはなんの制限もないからな。……言われっぱなしで悔しいな? セイバー」

付き合っていられないとばかりにセイバーがそっぽを向く。
思惑通りにうまく引っ掛けられはしなかったが、それでも揶揄えただけでも充分だったのか、伊織もセイバーから目を離した。

こそこそと背後で話しているふたりを見咎めて監督生が振り返り、「私語は慎むように」と軽く注意したあと、「ふたりは知り合いかい?」と気さくに尋ねた。

「ああ、私たちは――」と言いさしたセイバーを遮って、伊織が「他人です。赤の他人。今日初めて会いました。仲良くもなれないと思います」と悠然と答えた。
ばっとセイバーが勢いをつけて伊織を見る。つん、とどこ吹く風で、伊織がわざとらしくセイバーから顔を背けた。

それを真に受けたのかいないのか、監督生が曖昧に笑い、「仲良くなる努力はするように」とだけ言って、再び前を向いた。

叱りつけるような目で伊織を睨みつけたセイバーに、「なんだ? その方がおまえにとって都合がいいだろう? 忘れるな、俺に話しかけたらおまえの負けだからな」と涼しい顔で告げた。







四人部屋が基本の寮生活において、伊織とセイバーはそれぞれ別々の部屋に組み入れられた。ふたりは同室ではない、と聞かされたときのセイバーの狼狽はひどいものであったが、伊織が嘲弄するような表情を浮かべて横目で見遣った。

「なんだその顔は? おまえにとってはますます都合がいいだろう。――俺のいないところでせいぜい羽を伸ばすといい。俺などいらないのだろう、おまえは?」

言葉を封じられてただひとりでかっかしていたセイバーが、ふと真顔になって伊織を見る。じっと自分の顔を見つめてくるセイバーに、伊織も意地の悪い笑みを引っ込めて「なんだ」と尋ねる。
そのまましばし見つめ合い――やがて、伊織がセイバーそっくりの表情で「なんだというのだ」と動揺したのを誤魔化すようにわざとらしく怒ってみせたあと、ぷい、と顔を背けた。

その、かたちのよいまるい後頭部を見ながら、セイバーは思う。――あまりにも、当てこすられるので。



もしかしたら、『手口』ばかりでもないのかもしれないな、などと。――詮無いことを、思う。






三、

季節外れの新入生であり新しい同居人ルームメイトである伊織を、四人部屋の仲間たちは殊の外歓迎してくれた。

「宮本は、ここに来る前はどこか別の学校にいたの? それとも、どこかつ国にいたとか」

大きな白い枕を抱いてそれぞれの寝台ベッドの上に寝転がり、ひそひそと――見廻りの監督生に声を聞き咎められぬよう、小声で話す。
仔豚のぬいぐるみが随分味気ないものに置き換わったな、などと思いながら、伊織も貸与されたばかりの新品の枕を抱いて、「いや」と言葉を濁した。

「兄のような――保護者のような人と一緒に、いろんなところを点々としていた。ずっとその人とふたりきりでいたから、こういった集団生活の場は初めてだ」
「『兄のような』? その人は、お兄さんではないの?」

柔らかい口調の、おっとりした小太りの少年が尋ねる。少し小首を傾げて考えたあと、伊織が言った。

「違うのだと思う。なんだか俺の前ではやけに年上ぶりたがるが、全体的に落ち着きがなくて子供っぽいし」
「そういう意味の質問ではなかったのだけど――まあいいや。そうなんだ?」
「ああ。それに、あいつは意地悪だ。昔から、ずっと同じことを頼んでいるのに、いまだに叶えてくれない。たったひとつ、あいつにとっては至極簡単なことなのに」

「ふうん、」と傍で聞いていたそばかすの少年があくびをする。うとうとと会話から脱落していく中、小太りの少年が「そうなんだ?」と相槌を打った。
幼い顔立ちの中で殊更に目立つ長い睫毛をしぱしぱと瞬き、伊織がぽつりと言った。枕を抱く腕にかすかに力がこもった。

「あいつは意地悪だし――何かにつけて、すぐ俺に出ていくように言うのだ。
俺は――あいつに俺の願いを叶えてもらうまでは、あいつの傍を離れるわけにはいかない。あいつに願いを叶えてもらえないのなら、きっと俺には生きている意味がない。
だから、もしあいつが俺を邪魔に思うのなら、さっさと願いを叶えてくれればいいのだと、俺は何度もあいつに言っている。でも、それもだめだと言う。
――あいつはもしかしたら、ただ単に俺が嫌いなのかもしれないな。実際、『俺のことなどいらないのだろう』と言ったら、あいつは否定しなかった」
「ふうん」

そばかすの少年がすっかり寝息を立てている。小太りの少年が、わずかに身を乗り出して、気遣わしげに伊織の顔を覗き込んだ。

「宮本は――その人がもし君のことを嫌いだったら、どう思うの」
「どうもしないし、どうもできない。……考えてみれば、あいつは一度だって俺のことを好きとも嫌いとも言ったことがない。だから俺は、本当にあいつが俺のことをどう思っているか知らないのだ。
――俺も、我儘なのかもしれないな。ただ願いを叶えてほしくてあいつの傍にいるのに、俺がここにいることを、あいつに拒絶されたくないだなんて」

ころん、と伊織が寝台の上に寝転がる。「宮本」と労わるような小太りの少年の声にかぶさって、「ねえ、よかったらさ」と別の声がかかる。
伊織と小太りの少年が同時に頭上を見上げる。二段ベッドの上の段から、赤みがかった髪の少年が、下を覗き込んできた。

「あのおまじないの会、宮本も参加してみたらどうだろう」
「おまじないの会?」

伊織が訊き返すと、ああ、と小太りの少年がぽんと手のひらをこぶしで叩いた。

「確かに! ――上級生に許可を貰わないといけないけど、きっと宮本なら大丈夫だよ」
「話が見えんのだが」

するすると上の段から降りてきた赤毛の少年と小太りの少年が顔を見合わせる。人のよさそうに互いに頷き合って、伊織に言った。

「実は、僕らは参加できないから、噂話しか知らないのだけど。―― 一部の上級生だけが知っている、秘密のおまじないの会があるんだよ」
「それは、会の主催者に特別に許された、ほんの一握りの人しか参加できないのだけれど。でも、参加さえできれば、絶対に願いが叶うんだ」
「願いが、叶う」

伊織が我知らず復唱する。うんうん、と伊織の両手をとって、赤毛の少年が言った。

「といっても、叶う願いはたったひとつだけ。――『永遠の恋』。ただそれだけ」

伊織が、軽く首を傾げる。さらりと、白い額の上で栗色の癖毛が揺れた。

好きな人との永遠の恋を手に入れることができるんだ。おまじないの会の参加者として許可を貰うには、いくつか条件があって――その中でも、『綺麗なこと』、が一番大切なんだ」
「宮本ならきっと大丈夫。この通り、君はすごく綺麗だし――それに、今の君のお兄さんとの話、とても綺麗だった。きっと上級生が気にいるよ」
「お兄さんとの『永遠の恋』、きっと叶えてもらえる。――どうかな?」

伊織は逡巡する。やがて――その月夜を映し込んだような瞳の奥底が、ぎらりと光ったようだった。顔をあげて、言った。

「『永遠の恋』――ということは、『永遠の命』、も手に入るということだろうか?」
「え? どうだろう。考えたこともなかったけど――でも、確かにそうだね? 永遠に恋をするなら、永遠に生きなきゃならないよね」

――願いが、叶う。



セイバーに頼らなくても願いが叶う



……その、上級生。もし心当たりがあるなら、俺に紹介してくれないか?」
「いいよ! 明日にでも、すぐに。……すごい、ついにあのおまじないの会に、僕らの部屋から参加者が出るんだ!」

興奮した様子で小さく歓声をあげ、「そうと決まったら今日はもう寝よう! 明日寝坊したら大変だもの」とふたりともいそいそと自分の寝台へと戻っていく。

残された伊織は、ぽすん、と寝台に沈みこみ――そして、ふと思う。






――今、セイバーあいつのことを忘れたら、自分は『負け』だろうかと、思う。