〈前編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

16000字ほど〈前編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


「では、しゅっぱぁーつ」
 変に固くなってしまった空気を崩すように、とりなすように僕は可愛い、ゆるく笑った声を出した。
 しかしそれは、突拍子もない感じで響いて、二人のあいだにやんわりと気まずい感じが漂う。
 もう仕方ないので、歩き出したあと僕はくるっと振り返り、同世代の同性に声をかける調子で「行きましょう」と言った。
 歩くリズム、歩幅を観察して、合わせる。
 そうして歩き始めてから、僕はまた言い忘れたことを思い出した。
 これは言っておかないと。事前に。
 何度も足を留めさせて悪いなと思いながら僕は、歩くのをやめ、目を上げ、じっと見つめて言った。
……チップとか要らないので。僕はそういうの何にも受け取りません。一切」
 今日までの経験から、これについては、真剣に言わないと伝わらないことだった。チップをくれというフリではないのだとわかってもらうために真剣なトーンで言う。
 櫂人は驚いた表情にはならなかったが、まんじりと僕を見下ろして一瞬、何か冷静に考えるように眼鏡のうちで視線がそらされた。そのあとに、よくわかった、というような重たいようなうなずきで答えてくれた。
 誠実なうなずきに僕は微笑んで、あらめて言った。
……では」

 まず、目的地への移動である。今日のプランは本当に僕の行きたい場所をいくつか回る行動だけだ。
 休日の混んだ歩道を、駅へ歩いていく。
 僕は携帯をちらりと見て、『櫂人』のプロフィールを読み返した。
 いくら、こちらの行きたい場所に向かうだけの道中とはいっても、会話を、リラックスして、これから楽しいことがある、みたいな気分になってほしかったから、僕は会話がはずむように話題を選ぶ。信号待ちで、横顔の表情をうかがう。
 おもむろに、見上げて昨夜は楽しみでそわそわしたけど、すやすやよく眠れたという話をする。
 だが、櫂人は不機嫌、というかんじじゃないけど、退屈そうでも無いけど、視線がこっちに来ない。
 ……せっかく、けっして安くない額を払ったのだから、そっぽ向かないでこっちを向いてほしい。

 シャイなのかな。
 この様子だと……こういうサービスは初めて?
 そう思うと、急に俄然、こっちがリードしてあげなきゃという気になってくる。年上のお兄さんめいた気持ちになる。連れ回し可愛い子ぶるよりそのほうが合っている。まだ本日のキャラ変更はきくだろう。
 僕はデート自体は慣れているんだから。
 当サービスのガイドライン――手をつなぐ 腕を組むなどの行為まではしてもいい――に則り、僕は携帯を左手に持ち直して、右手を萌え袖のしたに隠して、優しく伸ばした。

 するっと、大きな手にさわると、相手の身体がぎょっとしているのがわかった。
 そんなに驚かなくても……と緩い隙間をつくって握ったら、そのままに、された。
 嫌そうな空気はまったくない。
 シャツの裾が当たる。
 
 そして信号が変わるまえに、骨太そうな長い指が、僕の手をしっかりと掴んで、全体が、少し熱くなった。