〈前編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

16000字ほど〈前編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 送ったときには反応が読めなかった、でも櫂人かいとくんはおもしろがってくれたらしい、自分の行きたいところへ行く今日のプランのしおりの画像を作っているあいだに得たのが、僕は誰とも付き合ったことがないから、デート自体は何人もとしてきたが、好きな人とデートをしたことが一度も無いという気づきだった。
 どんなかんじなんだろうと思った。
 好きな人とデートするというのは。

 馬車馬のように働いていた頃はもう仕事以外の何にも、プライベート、恋愛など考えられる状況じゃなかったし、学生時代はうっすら好きになっても、告白できなくて、何も起こらなかった。
 ひとときの楽しい夢を、ただそれだけを魅せる相手とのデートでは、僕は、言ってしまえば一抹いちまつの儚い存在だ。記憶も残さずに消える。それが、魔法使いのようで、向いていると感じた。
 限定的な泡沫うたかたの夢を操るのではなく、恋人として交際する相手とのデートはどんな、感覚なんだろう、と僕は想像して、あまり想像できなかった。
 自分が誰かとお付き合いする、というのもあまりイメージできなかった。
 好む分野も性格もやや変わっているという自覚はあって、でも他人の楽しい時間に合わせるのは得意だったので、自分の好みは一人で抱え、表に出さないで生きてきた。
 なんとなく昔から、きっと、ずっと一人でいるんだろうと思っていた。
 いつでも……夢の中で人々の頼みを時々叶えて、森深くで独り住んでいる魔法使いの姿を想った。

 金縁に花びらの模様の印刷された皿のうえで香ばしいパイ生地はサクサクして、大きく切るとソースがとろりと流れる。
 この美術館で扱っている古典作家の著書に出てくるモチーフのメニューだった。人気の定番メニューでいつか食べてみたかった。
 向かい合って食べて、フォークが皿に当たり、擦れる。
 本来のデートならもっと互いを知り合う、ゆったりとこの時間ごと味わうように会話をして「あーん」とかするのが最善の振る舞いなのに、僕は率先してこのメニューを楽しみ、櫂人にはメニューの元とになっている著作を知っているかなんて訊ねてしまった。
 「知っている」という答えに僕は嬉しくなった。「これが、あの場面に出てきていた」と話しつつ、小皿に盛られた副菜を食べる。
 パンが美味しいと、櫂人はおかわりしていた。
 メニューをたいらげて最後、デザートと、僕が選んだのは、カラメルの飾りのかかったティーカップのホットの飲み物で、携帯スマホで撮ってから、スプーンでカチカチと割る。
 湯気の内から落ちて、割れたカラメルが熱い液体に溶けていく。
 それをじっと見つめていると、視線を感じた。
 顔を上げると、目が合った。
 この飲み物とデザートが運ばれてきてからティーセットに夢中で、何ひとつ話を振っていないと気づいて、僕は申し訳なくなった。
 何か言おうとした。
 だが櫂人もホットの飲み物のカップに口をつけて、テラスに目をやった。
 無言でもいい、みたいにほんのわずかに、眼鏡のレンズの向こうから目線をこっちを送って、櫂人はカップを置いた。
 僕は、その、話さなくてもいい、という空気に甘えてしまう。
 カラメルの溶けていったカップをまた見つめ、そっと持ち上げた。