〈前編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

16000字ほど〈前編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 着きましたと送って、胸元で携帯をきつく握りしめているのも、と意識してラフに腕を下げる。
 でもふるえた通知に画面をのぞいて、顔を上げて、手のひらに携帯を握って待っていると、通りの大勢の賑わいから一人、こちらに向かって歩いてきた。


 遠目からでも目立つほど、背が高い。スタイルが良い。
 清潔感のある、羽織ったシャツ。脚の長さがよくわかる服装。
 さらりとした短い髪、太縁の眼鏡。


 近くに、そばに来たその人を見上げて
……
 携帯を掴み何か言いたげな顔のその人から、僕はふるえた携帯に目を落とした。

 あっている?

 とメッセージが画面に表示されていた。
 僕はそれを見て、もう一度その人を見上げ、黙って携帯を見下ろしてから、はっとして、あわててうなずいた。
 微妙な、怪訝そうな空気から、安心したように、彼は肯き返すようにわずかに首を縦に振った。
 もっと安心させたくて、ゆったりと僕は自分からも歩み寄って、距離を縮めてから、聞き取れるように顔を上げて、口を開いた。
「透萌歌です」
 ハンドルネームを名乗った。
 言ってしまってから、内心、かなり引き攣っていた。
 何の、キャラも、振る舞いも、計画していた可愛い子ぶった愛嬌のある名乗りもできなかった。
 挨拶は基本、第一印象は大切。何もかも、第一声のキャラ付けは大事。
 今朝まで鏡を相手に練習した言葉は、どうしてこの場で出てこない。
 胸の内ではうう、とうなり、僕は目の前の彼に微笑みかけた。きっと、ぎこちない笑みになっているだろう。
 余裕がない。
 今日は魔法が使えないかもしれない。
 僕の名乗りを聞いて、また、眉をひそめでもしそうな、訝かしむ表情を浮かべ、そして、いくらか迷ったような間があった。
 一瞬、何か考えるように顎に指をやり、下ろし
……櫂人かいと、です」
 低く硬質な、あまり愛想のない声音で『彼』のハンドルネームを言った。
 櫂人くん。
 ぎこちないであろう微笑みのまま、僕は心のなかでつぶやいた。
 なんというか、予想外に、目を惹く、格好良い青年が歩いてきたなと思うほど、ぼくは彼にちょっとどきっとしてしまい、今この瞬間、簡単に初手、くん付けで呼ぶかも困っている。

 腹を括るしかない。魔法が使えなくとも。
 カウントダウンは終わったのだ。
 僕は今度こそ、彼に、にっこりと笑った。
 しかしさっきから周囲から、人の視線をばしばしと感じ、不躾なそれらを振り払うように、僕はすぅっと横目を細めて、腕を動かし、彼をうながすようにして歩き出した。