〈前編〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

16000字ほど〈前編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。


 建物と大きな森のような庭のある、門の入り口のまえまで来て、本当にいいのかと訊ねかけて、僕は
……
 かわりに、勇気を出して、手をぎゅ、と掴んだ。
 力の入れ具合の違いを感じたのか、櫂人は、今度は「……?」というようにこっちを見下ろした。
 僕は櫂人を引っぱって、門を通った。
 繁った森の奥へと入っていく、水路が見える小径だった。
 木洩れ日に、庭の景色がくっきりと浮かび、僕はじっくりと風景を楽しんで見回して歩いた。風に木々の枝をおおう葉がそよいでいるのが見えた。
 森の小径から、好みの雰囲気たっぷりだったので僕は喜びの気持ちでいっぱいになったが、櫂人の反応をちらりとうかがう。
 しげしげと、見渡していた櫂人は、一瞬の視線に気づいたように、僕を見た。
 この場に、興味を持っておもしろそうだ、というような表情では無かった。退屈だとか、特に何も……というかんじでもなく、「へぇ……」というような顔が、こちらを見下ろすと、なんだか、わずかに嬉しそうにはにかむように変化した。
 その姿にまた、僕はキュンとした。

 庭のポーチから古めかしい建物に入館して、本来のデートという話ならここの施設の展示物について案内ガイドをしたかったけど、僕は絶対に来たら見たいと思っていたものがあって、つないだ手をひいた。
 館内には観光客、カップルとおぼしき人たち、家族連れがいた。
 建屋の端の一室には、荘厳なステンドグラスの並ぶ壁があって、この昼前の時間帯には光が射しこんでいちばん美しく映し出されるのだと観光記事には書いてあった。
 だから、その時間に来られるように、待ち合わせた。
 僕はその一室で感嘆の声を上げかけた。
 ファンタジーの物語のオープニングに、画面一杯に広がる光景のようだった。
 目の前にあるその光景に、入っていって、まるで僕の歩調に合わせたように建屋の外から鐘の音が聞こえた。
 突っ立って、魅入っていた。
 それから、僕は、案内もしないで、どんどん進んだ。壁伝いの吹き抜けの階段を上がり、大きな時計盤の内に入るような扉がある。その扉を抜けると隣の建屋に続く通路で、不思議な市松模様の通路は、別世界に迷いこむようで僕はたいそう興奮した。おもわず振り返ってしまった。展示物に嬉しくなって保護者に教える小さな子どものように、櫂人くんを見てしまう。
 その眼鏡のレンズに反射したような、自分の姿に、この歳であまりにはしゃいでしまっていると自覚し、急に恥ずかしくなって、俯きそうになった。 
 そうしたら、櫂人はそうだなというふうに首を縦に動かし、「おもしろいな」という感想を言ってくれるから僕は優しいなと思った。気遣いができる。


 見たいところを堪能したあとに、テラスに近いカフェで昼食を、テーブル席で向かい合った。
 テーブル上の可愛い置物を携帯で撮った。
 僕はこれまで、ガイドラインに制限はないにも関わらず、デート中は自分からは、相手とツーショットを撮らないようにしていた。撮ろうと言ったことは一回もない。
 ひととき魅せた夢の記録を、楽しい思い出の記憶を残さない、魔法使いみたいに。
 注文したメニューが運ばれてくるまでに、外のテラスで人々が携帯で撮っているのが見えて、考えていた。
 撮影可のアートがロビーにもある。

 いっしょに撮りたいな、と思ってしまった。
 この日だけの、一時いっときの夢を魅せるはずなのに、今日しかない、この瞬間を残したくなる。
 僕はテーブルに配置されるメニューの皿と飾りを撮りつつ、食べ終えたら、言おうと思った。