16000字ほど〈前編〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。一日デートと後日談。
憧れは他にあったのに、就職活動では「おそらく可も無く不可も無く人生を送れる一般企業」と思われる会社を受けてしまった結果、僕はまるで、おとぎ話に出てくる丈夫なモップ人形みたいに社員を酷くこき使う、最悪な会社に新卒入社してしまった。
とても人使いが荒く、馬車馬みたいに働かされて数年、なんと会社はいきなり社長が失踪したのをきっかけに、潰れてしまった。個人で多額の借金をしていたらしい。そこからわずかに残った会社の金目の物を不法に手に入れた副社長や専務たちは警察沙汰になって、社員たちは放り出された。最後、遅れていた給料は、振り込まれなかった。
僕は二十代半ばで、途方に暮れ、過労の反動でぐったりとしばらく無職のままでいた。もう、ずっとそうしていたかったが、生活のためには稼がなければならないと思って、仕事を探した。さんざん酷使されてきたから、とにかく、会社の都合でいいように使われるのではない、自分のペースで働ける自由な職場を心から求めた。
だから、自由そうな――女性向けの『レンタル彼氏』サービス業を選んだ。僕は学生時代から自他共に認めるくらいに、そう、自覚があるくらいに、ルックスは悪くなくて、そこそこモテた。そして誰とも付き合いはしなかったが、人とでかけたり、何かどこかを案内したりするのは好きだった。
裁量も何もかも自分のペースでという理由で選んだ『レンタル彼氏』サービス業は、想像以上に僕に向いていた。
手酷く扱われて路傍に使い捨てられるモップ人形のような労働ではない、美しい時間を演出して楽しくうっとりと夢を魅せるみたい魔法使いみたいな仕事だった。女性を丁寧にエスコートする王子様キャラ彼氏、またあるときはおっとりと優しいキャラの彼氏、またあるときは元気にはしゃいだ可愛気のあるキャラの彼氏。
無理をしない、スローペースで、ある程度の稼ぎを得られた。
だが、僕は結局、『レンタル彼氏』サービス業を辞めた。
たくさんの素敵な「彼氏」を演じることに、だんだん、疲れてきてしまった。
また無職となり、そして思い出した。本当に、就職したかった、憧れを。
都会に一軒しかない、巨大な店舗の、アンティーク品も取り扱っている雑貨セレクトショップだった。
倍率は高いが、中途でも、アルバイトからの採用もあるようだと僕はやっと、動き始めた。
『レンタル彼氏』での稼ぎ、その貯えでまず、引っ越した。
いつでもキラキラな「彼氏」が住んでいたのは、古くて寒くて壁が薄い、まわりの騒音がうるさいアパート、和室二間だった。
すぐには雇ってもらえないかもしれないけど、とりあえず、雑貨セレクトショップの通勤圏内で、和室二間の住まいよりマシな物件を見つけて、僕は貯えを引っ越し費用に、無事に、引っ越すことができた。
そうして、貯えはかなり減って、転職活動をするにあたって、当座の資金を得たいと考えて、てっとりばやく一度の「楽しくスローに稼げた」という成功体験からまた『レンタル彼氏』を検索した。
ただ今度は、数少ない有名大手の『同性向けのレンタル彼氏』業を選んだ。
もう女性相手にはうまく「彼氏」をできそうにないと思ったからだ。
しかし、僕はひとつ懸念して迷い、やってみてだめそうだったらすぐやめようという気持ちで、登録した。
懸念、それは僕は恋愛対象が男性で、ちょっとだけ惚れっぽい気質なのだ。これは誰にも話したことはないし、想いを告げたこともないし、男性と付き合ったこともない。でも、すぐにどきっとしてしまう、容易く、うっすらと恋してしまう、というのが心配材料だった。
どストライクのタイプに会ったら、レンタルされる方なのに、デートしているうちにときめいて、もしかしたら本気になるなんて可能性もある。
だから、『同性向けのレンタル彼氏』は自分には向いてないやもしれぬ……と登録を迷い、思った。一回してみて、これは向いてないと感じたら、それきりで辞めよう、と。
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