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鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白
凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。
このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。
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別れを切り出したのは斎藤の方からだった。理由を尋ねると、いつにも増してヘラヘラした顔で答えた。
「なんでしょうねえ、優しいだけの恋人に物足りなくなったからかな」
言われた土方はただ、
「そうか」
と答えた。
みるみるうちに激昂したのも斎藤の方だった。捨てる方が怒るというのもおかしな話だが、仕方がない。土方には本当に、一切怒るべきことなどなかったのだから。
「あんたあんなに僕のこと好きだとか言ったくせに、こんな捨てられ方されて何にも思わないんですか⁉︎」
「お前のことが好きだから、縛ることはしたくない」
もとより斎藤一は自由の剣である。その魂をいつまでも手元に留めておけるとは、はなからあまり考えてはいなかった。
「俺に従ってくれるからお前のことが好きなわけじゃない。俺を捨てても嫌いになったりもしない」
「わかんねえよ、おかしいだろ、俺がそこまでされる理由はなんなんだよ」
もう既に、返し切れぬほど尽くしてもらったことを、自分だけ知っているのが申し訳なかった。
「一体、俺が何したら俺のこと見限るんだよ、なあ」
「どこかで生きている限り、全部許してやる」
斎藤は、望みを全て断たれたかのような顔で泣いた。
この男が笑うのも怒るのも泣くのも、全てが愛おしく喜ばしいのに、自分はそれに対して返せてやれるものが何もない。だからすまないな、と呟いたら、どうして謝るんだとまた泣かれた。
今生での別れはそんなものだったが、土方自身は今までそれを辛く思ったりしなかった。
一度目の生でもう面白くないと突き放されても、もういいと突き放しても、斎藤と自分の間にあるものが揺らぐことはなかった。だから二度目の生でも変わらぬ信頼を寄せたし、あいつもそれに応えてくれた。
それなのに、今生では恋人という繋がりを失っただけで、相手の幸せを祈ることさえ許されなくなり、挙句に知らぬ間に死なれてしまった。
自分で言った言葉を反芻する。どこかで生きている限り、というなら、死んでしまった斎藤一のことは許せないか?
そんなことを考えながら仕事をして、まともにやれているのかは自分でもよくわからない。しかし、絶対に死なないはず斎藤一が死んだのに、土方歳三がまともに生きているのも不自然なので、本当は何も手についていないかもしれない。
早く帰るように促されたのが、自分がひどい顔をしているせいなのか、今接近しているという台風のせいなのかもよくわからなかった。
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