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鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白
凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。
このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。
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「どうした? マリッジブルーか?」
今の職場で働いた年月は、一度目の生で新選組をやっていた時間よりずっと長い。心はついていかなくても身体は勝手に仕事をしていたし、食事もせず煙を吸うでもなく喫煙室でぼんやりしていれば、声をかける同僚もいる。
「ああ
……
関係あるといえばあるな」
「なんだ? まあ上司の勧めで会った人だし、気を使うこともあるか」
自分に気を遣っているのか、持ったタバコに火をつけもせず、話くらい聞くぞと言ってくれる。善良な人間だ。土方の気持ちがわからないのも無理はない。
「結婚式に昔の恋人を招待したかったんだがな、できなかった」
「当たり前だ馬鹿⁉︎」
「なんでだ?」
「なんでってお前ほら
……
いや、確かに円満に別れてて、今はなんでもないなら理屈としては呼んでもいいんだろうけど
……
」
ごにょごょ呟くのを何も言わずに眺める。正直なところ、喋るのは億劫だった。
「ていうか、自分の立場なら呼ばれて嬉しいのか? 昔の恋人の結婚式」
「嬉しいさ。あいつの幸せを祝えてたら、どんなに嬉しかったか」
「呼んでもらえなかったのか
……
」
同僚に、なぜ普通は呼ばないのかと問うてみた。彼は唸りながらも答えた。
「結婚ってのはさ、人生の門出って言うだろ? これから伴侶になる人と、新しい人生をスタートすることを祝う式なわけだ。そこに昔の関係を持ち込むのは良くないだろ、な?」
「今までの人生に感謝する場でもあるだろ。昔があって今があるんじゃねえのか?」
「すごい食い下がってくるな⁉︎あんまこだわるとまだ未練があると思われるだろ、やっぱりやめとけって!」
同僚は実に真剣に俺の悩みに答えてくれたが、かえって気持ちは落ち込んでいくばかりだった。
新しく人生を始めるのなら、前の人生は捨てるべきなのか。土方歳三としての記憶も、そうだというのか。
「まあその、誰を招待するかってのは相手と話し合って決めることだし、ここで悩んでもしょうがないだろ
……
でも昔付き合ってた相手だから呼びたいとか言うなよ⁉︎」
「言わねえよ、さすがに」
「なんか不安になるんだよな
……
たまにズレてるからな、──は」
同僚はこの三十年余りにおける俺の名前を呼んだ。当然土方歳三ではない。さらに言えば、斎藤だっていくつもあった別名でさえない、聞き覚えのない名前になっていた。
土方は、己がいる限り、新選組は不滅だと信じていた。だが一体、今の自分の、どこがあの土方歳三だと言えるのだろう。
二度目の生には斎藤も、沖田も山南もいた。人理保障機関カルデアで戦うことは、土方歳三の、新選組の歴史の保障でもあった。
今の自分はどうだ。戦を捨て、名を失い、三度出会ってくれた斎藤も失った。前世の記憶だって、誰にも話したことはないのだから、荒唐無稽な妄想と変わりはしない。
ここにいるのが単なる奇妙な悪夢に取り憑かれた男でしかないのだとしたら、あれほど残したかった新選組は、どこに行ってしまったのだろう。
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