鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白

凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。

このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。

 
 目を覚ました土方は呆然として、しばらく動けもしなかった。夢の内容よりも、最近は前世をほとんど思い出さなくなっていたことに、そしてそのことに気づいてもいなかったことに。
 なんとか顔を洗おうと覗いた鏡の中には、とても伊達男を自負できそうもない男がいる。顔立ちは変わっていないはずなのに、かつてのような気迫が感じられない。気に入っていたはずの自分の顔なのに、見ているとうんざりして朝食をとる気力さえわかない。たくあんだけはなんとか水で流し込むように食べた。

 土方歳三には、幼いころより前世の記憶があった。もっとも、幕末人斬りサークルの副長から人理保障機関所属のサーヴァントになり、かつての仲間や織田信長らと肩を並べて邪馬台国や昭和維新後のSAITAMAで戦った、などという話、前世というものを信じる者にも信じない者にも、話そうとは思わなかった。
『習ってみたいの? いいけど、先生の言うことちゃんと聞きなさいね?』
『お前はどうも妙な癖があるな。やる気があっても、握り方を間違えたままだと上達しないぞ』
 記憶に影響されて剣道をやってみたりもしたが、染み付いたクソ握りは矯正するのに苦労した。十年続けてそれなりの腕にはなったが、就職を機に道場からは足が遠のき、最近は竹刀をクローゼットから出すこともない。
 ──俺が、新選組だ……
 土方は自問する。前世の自分はただ一人の新選組として、燃え尽きるまで戦うことだけを望んで走り続けていた人間だった。では、今ここにいる、ごく普通の会社員として安穏とした日々を送っているのは一体誰なのだろう。
『これが、お前のやりたいことなのか?』
 高校時代に進路志望に書いた内容を見て、今生の父はそう言った。それは親としてごく当たり前の問いでしかない。
だが警察官だとか自衛官だとか書いてみても、それは前世の仕事に少しでも近いことをしたいという理由でしかない土方には、上手く答えることができなかった。
 結局周囲の人間を真似るように進学し、就活をし、商社から内定を得ると、父母はたいそう喜んでくれた。
 しかし、そうやって今生の両親が喜ぶような道を選ぶ度に、土方の中の違和感は強くなっていく。
 ──副長、いや土方さんよ──
 ──もういいんじゃねえのか──
 ──もう終わってんだよ! どこに新選組が残ってるってんだ……
 自分を思って引き留めるものがあろうと、ただ意地のために死地に向かうのが土方歳三ではなかったか? 自分が前世の記憶を持って生まれてきたのは、何のためだ? 少なくとも、生温い人生の下に押し込めて、腐らせていくためではないのではないか?
 そんな疑問を胸に抱きながら日々を送っていた時、斎藤一に出会った。前世で見知った顔を見つけたのは、これが初めてのことだった。