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鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白
凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。
このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。
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「違う、違うだろ、なんで俺が辛かったと思ってんだよ、畜生、あんた俺の気持ち、昔っから何にもわかってくれてねえよ!」
目の前に、ぼろぼろと涙を流す斎藤の姿があった。しかし咄嗟に手を伸ばした途端、その姿はかき消えてしまう。代わりに割れた窓に手をついてしまい、視界にはいっぱいにエアバッグが広がっていた。
斎藤はどこに消えたのかと視線をずらすと、身体に痛みが走る。それでもなんとか状況を把握すると、どうやら車のフロントはすっかり潰れているらしい。窓ガラスの破片が飛んだのか、額から血も流れている。全身を強かに打ち付けたため、どこを怪我しているのか判別できない。
だが、生きている。
車も崖下に落ちていない。ドアは片方だけギリギリ動くようで、そこから外に出られそうだった。
「ねえ、ほら、ボロボロでも意外と死なないもんでしょう?」
お前今回はあっさり死んだじゃねえか、と言ってやりたいのだが、どうやら車外から聞こえているようだ。文句を言うにもまずはここから出なくては。
右腕は折れているらしく、ドアを開けるだけでひと苦労だ。なんとか這いずるように外に出て、やっとの思いで顔を上げる。
台風が過ぎた後の空は冗談のように晴れていて、満点の星が光っていた。
「俺らが生きてようと死んでようと、星はああして輝いてるんですよ。だから、ほら」
また一瞬だけ、斎藤の姿が見え、すぐにかき消えてしまった。今生の姿をしていたか、それとも前世での姿をしていたか。
だが、どんな姿で、どの生の斎藤だろうと、何を言いたいのかは鈍い土方にも理解できた。
生きよう。痛かろうと、辛かろうと、まだ死んでいないのだから。きっとあの男も、そんな風に生きたのだから。
「ふ
……
はは
……………
」
それにしても本当に美しい夜空だ。俳句の一つもひねってやりたいが、あいにく痛みで頭が回らない。とにかく病院に、せめて電話のできるところまで行かなければ。
「ははは、ははははは!!」
とにかくあちこち痛くて仕方がないが、思わず笑い出してしまうくらいには気分は良い。痛みを感じるのは、生きている証拠だ。
あの斎藤が本物の幽霊だったとしても、あるいは土方の幻覚に過ぎなかったとしても、やはり斎藤一は土方のよく知る、生きることを諦めるなと言う男だった。
それだけで、迷うことなく歩んでいける。あの男は決して、俺を裏切りはしない。
その後、奇跡的にその場に通りがかった車の主は、一一九番より先に一一〇番をした。夜中にひとりゲラゲラ笑う血まみれの男を見たのだから、無理もない。
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