鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白

凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。

このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。

 
 とにかく北に行かねばと思う。
 今持っているものは全て土方歳三らしくない、全て捨て去るべきだと思ったので、携帯も持っていない。ひたすら車を走らせる。
 スピードが出過ぎているが別に構わない。ちまちま安全を気にして生きるような人間が人斬りサークル活動なんかやるものか。
 徐々に山道に入ってきているがそれでいい。会津も仙台も函館も、厳しい土地だった。
 ブレーキの効きが良くないのもどうだっていい。いっそ北に着いたら乗り捨ててしまおう。
 ああしかし、北へ着いたとて何をすればいいだろう? 幕府や薩長という枠組みもなくなってしまい、人理を脅かすものもいない。
 
『これで、終わりなんですねえ。あの子が家に帰れてほっとしました』
『俺たちもお役御免ってわけだ』
『まあでも、なかなか愉快なところでしたよ、カルデアってのは。クリスマスだのハロウィンだの夏のバカンスだの、まさかあんたと一緒にそんなことする日が来るとは』
『ああ……そうだな』
 二度目の生の別れを思い出す。戦うために呼び出されるだけのサーヴァントとしては、色々とあり得ない状況だった。
『もしまたあんたや沖田ちゃんたちと会うことがあっても、どっかの聖杯戦争とかなんですかね?』
 ああ、やはりダメだ、土方歳三らしからぬ生き方をしていたせいなのか。唯一保っていたはずの記憶さえあやふやになっている。
 あの時、寂しさを隠せていないあの男に、自分が何を言ってやったのか思い出せない。
 
 土方は気が焦ったままハンドルを切った。その時既に雨は止んでいたが、当然道路の状況は良くなかった。加えて視界の悪い夜、慣れぬ山道。
 カーブを曲がり損ねる条件は、揃いすぎるほど揃っていた。
 
 ガードレールに突っ込むことになるのはわかったが、衝撃が来るまでがやたらと長く感じられる。
 ああ、死の直前に周りの景色がスローモーションになるというやつだろうか。
 死?
 死ぬのか?
 だが別にそれで良い気もする。俺が土方歳三だと言うのなら、三十五を超えて生きている方がおかしいのだ。
 なるほど、納得がいったと、土方はゆっくりと目を閉じていく────
 
「馬鹿野郎が! 何やってんだ!!」
 
 どこからか、懐かしく、愛おしい声がした。