鹿
2023-10-07 22:53:16
10468文字
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ある狂人の独白

凄烈鬼と自由の剣、開催誠にありがとうございます。

このお話は土斎と思って書いておりますが、斎藤は最初から最後までずっと死んでいて、土斎はお互いモブ女性と結婚しています。
予めご了承ください。

 
「あんた一体、僕の何がそんなに好きなんですか?」
 知り合ってすぐに熱烈に口説いてきた男に、斎藤はそう言って笑った。その困ったような笑顔がやはり記憶にあるものと同じで、それだけで欠けたものが満たされるようだった。
「全部だよ。目の隈の染みついた顔も、ヘラヘラしてても良く響く声も、体温があることも、息をしてることも」
「なんですかそれ。生きてるだけで偉い、みたいな」
「わからなくたっていい。お前は、俺に出会ってくれた。それだけでいい」
 そう言って顔を寄せると、斎藤はわずかに戸惑いながらも、土方の背に腕を回して口付けを受け入れる。
 一度目の生において、土方歳三と斎藤一は新選組副長とその最も信頼する副長助勤であり、それ以上でも以下でもなかった。しかし二度目の生で、ひょんなことからそこに情を交わす関係が増えた。単なる勢いだったようにも、一度目の生から願っていたことのようにも思えたが、その在り方には互いに落ち着くものがあったように思う。
「僕、あんたに何にもしてあげられてないですよ。ないんですか、なんかこう、恋人とこういうことしたい! みたいなの」
「何かしてもらいたいとは思ってねえ、お前がお前であれば、それで十分だ」
 今生の斎藤には前世の記憶などまるで無かった。自分も平凡な会社員に過ぎない。自分の命を預けることも、他人の命を奪うように命じることもあるはずがない。それならば、恋人になるのが一番適切であるように思われた。
「お前がやりたいことは全部叶えてやりたい。行きたいところに連れてってやりてえし、お前が食いたいもん食わしてやりたい。何がいい? 蕎麦でもラーメンでも、ナポリタンでも言ってみろ」
「麺類ばっかじゃないですか、いや好きですけど!」
 今生には組織をまとめねばならない責務も、世界が終わるかもしれない危機感もない。罪を犯させる後ろ暗さもなく、ただひたすらに愛情を注ぐのは、幸福だった。
 斎藤にとっては、そうでもなかったのかもしれないが。