kurotera
2024-01-20 10:46:27
78477文字
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惜別にもならない

2022年12月に発行したイノセントブレス世界線のザドギエル(ラビ)×サマエル(リュカ)本です
前半は人死に有りのイノブレ時代のお話、後半は彼らが転生した現代のお話。
若干のゴア表現あります。


薫風

 ドラムとベースのリズムが重なりあって、三つの音色を支えていく。
 某所、すっかり馴染みになったライブハウスは、春の穏やかさとは色の違う熱気に包まれていた。
「まだまだ盛り上がっていくよ!」
 ノアの声に歓声が沸き立つ。
 バスドラムが空気を揺らし、次の曲への布石を敷いていく。身を巡る血潮を煽らんばかりの響きに、来い、と呼ばれている気がして、リュカは熱を帯びた紅い双眸をステージ中央の男へ向けた。
 かち合った青い目も、同じような熱を帯びている。それをみとめた瞬間、かっと体温が上がるような心地がして、思わず、にやりと笑んだ。
 燃えるように熱い指先で、弦をつま弾く。
 心地よい熱だった。いつまでも浸っていたいとさえ、思えた。


「すっきりした顔しちゃって」
 非常口階段の踊り場で涼んでいると、やってきたレオンにぐいぐいと肘でつつかれてやめろ、と押し戻す。おっと、と身を引いたレオンをじろりと睨んだものの、ベイビーブルーの瞳はどこか嬉しそうだ。
「何か用なら言え」
「吹っ切れたっぽいのは分かるんだけど、一応聞いておいて良い? 答えは出た?」
……ああ」
 ケータリングから取ってきたらしいペットボトルのジュースを一口飲みながら問いかけられた言葉に、短く頷く。
 リュカの返答に、そっか、と仲間は満足げに笑みを浮かべた。
「結局のところ……何も変わらない。いい意味でだ」
「ふーん?」
「ラビの中には確かにザドギエルの面影がある。名残と言うべきか……お前にはラジエルが、オレには……サマエルが。ただその記憶があってもなくても、オレは今、リュカとして生きているのには変わらない。違うか」
「哲学っぽい」
「馬鹿みたいな感想だな」
「へいへい。ま、つまり……簡単に言うとリュカはうじうじ悩まなくなって、ラビもヤキモチを妬かなくなって、仲直りってことね。最高じゃん」
……お前はどうなんだ」
 リュカがレオンに視線を向ける。もう一口、飲み物を口にしながら眼前に広がる町並みと青空を眺め、オレ? と首を傾げた。
「オレは……やっぱ居場所はここだよなあって思ってるよ。ずっとさ」
…………そうか」
 レオンの答えにどこかほっと安堵した様子でリュカが肩を揺らす。当たり前じゃん、とにやりと笑って、レオンはベイビーブルーの双眸を細めた。
 背後で、扉の開く音がした。
「あ、いた。二人とも、そろそろ夜公演のミーティング、始めるってさ」
 開かれた扉から、ラビがひょっこりと顔を出す。
 オッケー、とレオンが答え、リュカも頷いた。何事かをラビに語りながら、レオンが先に中へと入っていく。すぐにラビの笑い声が聞こえてきた。
 重たい鉄の扉を閉じる前、初夏の気配を孕んだ陽気と、街路樹から薫る新緑の瑞々しさを運ぶ風が頬を撫でるのを感じる。
 澄み切った空の青に柘榴色の眼差しを向けて数秒のち、リュカは静かに扉を引いた。
 


                                      了