ツキシキ
2023-07-01 22:03:50
117641文字
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★天使のうつわ・おばけと魔法とまとめ

13作品。「空想地球儀」作品の二次創作。


眠らないあの子におはよう(セラとあの子)


セラと名前のわからない彼女。彼女の名前やセラの記憶のネタバレあり。
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 ボクらの惑星が静かに息をついて、そのか細い輝きが途絶える前の話。
 ボクは確かに彼女に言った。なくなってしまう、どうしようもないもののことは、もう、思い出さないようにしたいんだって。
 だから、彼女はボクのああいう不用意な言葉を取り上げて、わざとボクのメモリから彼女を含むすべてをごっそり引き上げてしまったのかもしれなかった。彼女にはそういうちょっと強引な優しさがあった。
 でも、ボクがこの推測を言ったら彼女はきっと笑って否定するんだろうと思う。

「いつもの、人間らしいセラ君が見たかったし、見せたかったの」

 ────だってそのほうが面白いじゃない?
 そうやって彼女は、ボクが何も言えなくなるのを知っていて、にこにこ笑うに決まってるんだ。



 今、ぎゅうと抱きしめる彼女の身体は冷たい。それを、人間ではないのだからと割り切ってしまえるほどの演算機能はボクの中に組み込まれていない。
 航路の微調整も有害空気の排出も、過ぎ去った時間の計測機能も、持っているのは全部彼女のほうだった。そしてそれらの機能を全てこの船が引き継いで、彼女の中で刻まれていた針は、とっくに止まっているのだろう。

 そういえばボクは彼女の起きるところを見たことが無かった。
 旧型の機械と違ってボクらは充電を必要としない。動力部に繋がる熱量循環装置は、ボクらから定期的な休息という行為を奪っていた。感覚を切断してメンテナンスに入ることはあったけれど、それでも意識は継続し続けていて────つまりボクらにとっては眠るという行い自体、初めてなのかもしれなかった。
 だから、彼女も慣れない睡眠で、寝過ごしてしまっているだけなんだろう。



 ガラスに触れるように指先を動かして、肩にかかる彼女の髪を掻き分けて、首筋の後ろを探る。皮膚センサーが、知らなければ気づけもしなかっただろう僅かな継ぎ目を感知する。カバーは掠るだけでスライドした。彼女はいつも滑らかな態度で自然にボクを受け入れてくれていた。

 爪の先で差し込めるほどの小さなボタン。
 ボクらのおはようとおやすみの合図。
 そっと押し込めば答えはすぐにわかる。
 彼女がただ寝て ・・いるだけなのか。

 ボクはもう答えを握ってここまで来たはずなのに、それでもボクは、ただ君に一言言いたい一心で、指を押し込める。

 ────もう、思い出したんだ。
 ────だから、なくなってしまうだなんて、思わせないで。


 ピピッ、と電子音。


「おはよう、テラ」


 耳が痛くなるくらいに静かな宇宙で、ボクだけの声が溶けていく。





<END>