ツキシキ
2023-07-01 22:03:50
117641文字
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★天使のうつわ・おばけと魔法とまとめ

13作品。「空想地球儀」作品の二次創作。


婚約指輪を渡す


シルバー×グリン。アルヴァの計らいで婚約することになり、シルバーが婚約指輪を渡す話。「熱いことをする」のお題で執筆。
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 何てことない世間話のついで。そういう体を装ってしまったのは否定しない。

「グリンさま。これどうぞ」
「まあ、ありが……とう?」

 グリンさまの掌の上で輪っかが鈍く光を反射した。オレと同じ名前の金属の指輪。魔力も効力も何もない、ただのリングだ。それでも二人の関係を示すくらいの力はある。
 模様も刻印もないつるりとした表面を、グリンさまは丸い瞳で見つめている。
 捨てたければそれでも、と、言いかけて口を噤んだ。さすがにそれはいくらなんでも、不誠実が過ぎるので。

「えっと、」

 おそるおそるオレを見上げるグリンさまの瞳には、なんとも、言わんとしがたいことを言いたげな戸惑いがあった。オレはそれら全てを無理やり除けてしまうように、はっきりと口にする。

「婚約指輪です。どうぞ」
……ど、」

 声が震えていた。オレではなく、グリンさまのほうの。剥き身の指輪が、ぎゅっと握り込まれる。

「どどど、っ、どうしてこんな、渡し方っ」
……ちょうど会ったので。今のうちに渡してしまっておこうかと」
「そんなのってないわ!」

 身を乗り出されたぶん、こちらが半歩引いた。それでも足りないとばかりに詰め寄られ、じわじわと踵を後退させる。当然廊下には果てがあるわけで、逃げ場を失ったオレは改めてグリンさまと向き合うしかなかった。頭からぽこぽこ湯気を出しているその姿に覇気があるとはとても言い難かったけれども、涙が零れ落ちそうな大きな瞳にはなんとも、言葉を失った。最終手段の空間転移魔術を使いたくなるくらいには。

「せ、説明してっ!」
「だから、良い機会だったので、今のうちに」
「シルバーさんは、女の子にとって、結婚がどれだけ大事なことかわかってないでしょっ!?」
「いや男としても一大事ですけども」
「そういう大事じゃないの!」
「はあ……

 自覚はしている。ちょっとまあ、確かに、夢見がちなこの方に対して風情も何もあったもんじゃない渡し方ではあった、とは思う。けれども晩婚すら過ぎ去るオレにロマンを求められても、と言いたい気持ちは理解して欲しい。
 それに特別な理由だって有ることには有る……喉につっかえるだけで。
 代わりに言い訳めいたことを言おうとして、

「シラフでキザなことを言える自信がなかったので……?」
「お酒を飲み過ぎないところは素敵だと思うけどね! 違うの!」

 火に油を注いでしまった。

「シ、シルバーさんなんてっ、きら……
 ………………うう、ちょこっとだけ好きじゃなくなっちゃったんだから!」
「いやそこは嫌いって言う流れじゃないんスか」
「ばかぁ!!」

 余計な一言にはっと口元を押さえた時はすでに遅く、グリンさまは駆け出していた。あまり俊敏とは言えない速さで、ぱたぱたと。
 追いつくのは容易いだろうが同じ諍いの焼き直しになっては意味が無い。
 それより前にオレが反省すべきなのだろう。大いに。確かに渡すシチュエーションもまずかったろうけれども、それ以上に、オレが素直に言えばグリンさまだって聞いてくれたはずなのだから。



 言うべきことを胸中で反芻する。

 ────箱も包装も無いのは、その場ですぐ身に着けて欲しかったから、

 考えるだけで半眼になった。言えるか。
 改めてこんな青臭い想いを出すにはやはり酒だのなんだのの勢いがいる。少なくともグリンさまから指輪を突っ返されたわけではないし、“嫌い”ではないようなので。

「とりあえず、酒でも煽るっスかねぇ……

 気づけば声になっていたその言葉に、返ってきたのは部下の蝙蝠やらその親戚の蝙蝠やら犬やら女男やらシェフやらのざわめきだった。
「酒に逃げたぞ!」「駄目男だ!」「甲斐性なし!」「とっとと追っかけろ!」「ねーぼくお腹すいたー」うんぬんかんぬん。
 いつの間に集まってきたのやら、気づかないオレもとんとどうかしている。どうやら酒よりもゴシップの粛清のほうが先になるらしい。



 身体を動かす勢いで、想う気持ちも耐えがたいほど熱されてはくれないだろうか、と。
 柄にもないことを考える一方、ギャラリーに向ける視線は冷え冷えと鋭くなっていくのだった。





~END~