ツキシキ
2023-06-29 23:12:46
60921文字
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★ムラサキ・ムラサキ劍まとめ

13作品。二次創作。


ささがき剣士、肆空くん!(咎森とヨゾササ)


※ギャグです。頭のネジを数十本抜いて原作から離れて見てね!
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 僕はよくない病気なのかもしれない、と、薄々感じていた。

 それでも黙っていたのは、あまり言いふらすようなものではないと察していたからだ。
 これを何と言うかは知らない。ただ、これがあんまりよくない気持ちだということはきちんと理解していた。うっかり零れだしたら、ハのみんなが僕を指さして大声で叱りつけてくるんだろう、という予想もついていた。
 だから、人を選んだ。
 知識があって、口が堅くて、信頼できて僕の下手な言葉だって解してくれるであろう、おとなのひと。


◇◇◇


 呼び出しに応じてくれた相手は、既に待ち合わせ場所に居た。

「咎森、……様」

 うっかり忘れかけて、慌てて付け加える。けど、咎森はゆるく首を横に振り、仮面を外してくれた。ここからは、大人と子どもの、ちょっとした人生相談だと教えてくれるように。

「呼び捨てで結構、敬語も不要。人払いは済ませてあります。そういった相談事をしに来たのでしょう?」

 まだ何も言っていないのにわかる咎森は本当に、本当にすごい。僕はほっと息を吐く。そして、とても自然な気持ちで────素直に口を滑らせた。



「僕は、紗々羅様を見てるとなんだかおかしな気持ちになるんだ」



 一瞬、風が止む。あれ、と思う。なんとなく怖くなって咎森を上目で見れば、いつも通りの温容な顔があった。今の凪は錯覚かもしれない。

……………………具体的には」
「ええと、」

 普段を思い返す。

 例えば、紗々羅様を見ていると頭がぼんやりする。胸が苦しくなる。なんだかむしょうに走り回りたくなる。でもじっと留まって紗々羅様のことをずっと見つめていたくもなる。紗々羅様の髪がふわふわと風に揺れているのを見た時とかは、特に。

「僕はどうしたらいい? 教えてくれ、咎森」

 知恵を借りるというよりは、信頼できる大人にすがるような気持ちだった。一通り告白して顔を上げる。


 咎森は天を仰いでいた。

「と、咎森」

 あの咎森ですらどうにもできないものなんだろうか!?
 だが、その戸惑いも数秒。咎森は深く息をつき、もう一度僕と視線が合う。

「その感情を抑えようと思ったのですか」
「ああ」
「それは何故」
……だって…………

 それは、例え咎森相手でも素直に言えないことだった。気まずさに目を逸らす。でも、咎森の言葉は途切れたままだ。僕がきちんと説明しないと進まないってことだ。だってこれは、僕の中にある僕だけの気持ちだから。
 僕はこの気持ちを抑えたい。だって、このままだと僕はこらえきれなくて、どうしようもなくて、無かったことにしないときっと、

「爆発する…………

 ぶふっと声がした。
 

 慌てて咎森に目をやる。いつも通りの落ち着いた表情だ。やっぱり何か気のせいだったのかもしれない。

「それは難儀な」
「うん、たいへんだ」

 途方に暮れる想いで頷く。すると咎森の声音は、いくぶんか優しくなった。

「心とは厄介なものです。無理に抑えようとすればするほど、懊悩は深く大きくなってしまう」
……じゃあ、どうすれば…………

 我慢しようしても出来ない。でもこのままだとどうにもならない。
 いっそ自爆するしかないのか。
 僕の行き詰まりを見透かすように、咎森も一度頷いた。静かに理知をたたえた瞳が、頼もしく輝く。
 そうだ、咎森なら、こんな気持ちもなんとか────

「これを」
「ああ……うん?」


 ごぼうだった。


 渡されたのはごぼうだった。
 とれたてな感じの。なかなか立派な長さの。
 なんかしかも今、咎森の袖から出てきた気がする。


「えっ、」
「牛蒡のささがきはご存じで」
「一応……えっなんで」
「迷いと悩みは根本を断ち切らねば延々と付きまとう亡霊のようなもの。だがどうにもならないことは往々にしてあるこの世の中。別の手段で発散しなければきっと、お前の言う通り、爆発が起こる」
「あっはい」
「すなわち、発散する場が必要ということ」
「発散…………

 僕は思わず渡されたごぼうをしげしげと見つめる。
 そうだ、紗々羅様を見ていると走り回りたいような気持ちにもなるんだと、僕は今咎森に言ったばかりじゃないか。むやみやたらと走るだけなら疲れるけれど、それで何か成果が出れば満足になって、このもやもやした気持ちだって治まってくれるのかもしれない。


 そのための、最適の手段が、ごぼうのささがき。


「そして」
「うん」
「ちょうど、厨の調理担当の人手が足りず」
「うん?」
「さらに言えば紗々羅様は明日の朝食にキンピラゴボウをご所望とのこと。存分に腕を振るうと良い」
………………わかった!」

 実はよくわかってないけど。たぶん、咎森がそう言うからにはそれが一番なんだろう。
 僕はぎゅっとごぼうを握りしめる。そして腰に差した恩寵の剣を

「肆空」
「えっ?」
「什宝を本気で得物に使うつもりであればこちらにも考えが」
「えっ、あっ、そうだな」

 慌てて納刀する。そうだ、恩寵の剣はあんまり前みたいに使っちゃダメなんだった。昔はよくカブを切ったりしてたけど内緒にしておかなきゃ。
 代わりに、刃先が鈍いからうまくいくか不安だけど、従僕の

「肆空」
「うん」
「初の作業は先達あればこそ。まずは厨へ行きなさい。私の名を出せば説明は後でも受け入れてくれるはずです」
「あっ、そうか。ありがとう、咎森!」

 それもそうだ。とりあえず、上手い人に教わろう!


 僕は従僕の剣も鞘に納め、とにかくごぼうを片手にぐっと足を踏み込む。ここから宮廷ならたぶん秒で着く。ばさっと翼を広げれば、思いのほか速度が出た。
 待ちきれない、我慢できない。このもやもやを、ごぼうに叩きつけてやる!


◇◇◇


 料理には包丁なるものを使うのだと知った、後日。
 今度は咎森のほうから呼び出された。

「紗々羅様から伝言を賜りました」
「何て……?」
「近頃の食事が華やかで良いと」
「ほんとうか!」

 思わず身体が一寸くらい浮いた。飾り切りまで教わったかいがあった。
 僕の技で、紗々羅様が喜んでくれた!
 噛み締めるだけでは耐えられず、つい勢いに任せて中空で半回転する。咎森の前だけどかまっていられない。咎森も僕の落ち着きのなさにはすっかり慣れたもので、止めることは無く話を続ける。

「それで肆空。例の煩悶はどうなりましたか」
……あ」

 墜落するように気分が落ちた。大人しく地面へ着地する。だって、せっかく咎森が教えてくれたのに成果が出せていないからだ。
 初めの頃はごぼうを一心不乱にささがいてささがいてささがきまくってなんとかなっていたけど、やっぱり紗々羅様を見るとそれだけでブワァッと気持ちが溢れてしまう。なんかもう宮廷の壁とか突き抜けて禁じられている天まで貫けるんじゃないかってくらい込み上げてきて頭がぐるんぐるんなる。
 僕の奮闘は叶っていないことを咎森も察したらしい。でも、咎森はがっかりなんて雰囲気じゃなくて、むしろわかっていたと言わんばかりに頷いてみせた。

「そう簡単に無くなってくれるのであれば、人の悩みなどは起こり得ないもの。であればこれを」
「ああ……うん?」


 大根だった。

 けっこう立派な感じの。
 そしてやっぱり袖から出てきた気がする。ずるっと。


「対象が大きければ迷いもより薄れることでしょう」
「なあ咎森の袖にはなんで野菜が」
「職人は大根で絹を作ると聞きます」
「なんで野菜が」
「その高みまで行けば見えるものもあるかもしれません」
「野菜…………

 咎森は黙ってうなずいた。
 うーん教えてもらえない。なんかたぶん、何でも出てくる袖なんだろう。咎森だから。
 僕が疑問を横に置くことにしたのも伝わったのか、また咎森は口を開く。

「懊悩を無くす必要こそありませんが、適度な付き合いもまた肝要。であるならば新たな発散の手段を試みてもよいのではと。
 なんなら剣で岩を穿ってみてもよいかもしれない」
「あっ、それはできる」
「できるのか……

 ちょっと自慢だった。ふふん。

「ともあれ。これを託そう」

 そっと大根を渡された。
 託されたからには何かとりあえず一生懸命がんばってみようと思う。

「僕、行ってくる!」
「竹や人にぶつからぬよう」
「はーい!」

 翼を広げ、飛び立つ。
 大根が終わったら次はどうすればいいんだろう。竹の千本切りでもしてみようか。怒られるかな。
 なんにせよ、一人でうんうん悩むよりは人に話す方がずっと楽になった。それだけでもありがたかったし、沈んだ気持ちやもやもやした気持ちは、どこか遠くへ飛んでいた。咎森のおかげだった。


◇◇◇


 意気揚々と飛び立つ肆空を見届け、咎森は静かに目を伏せる。

 ────さすがに三度目は通じまい。

 次なる手を匂わせたがすでに肆空は習得済みだった。さすがは天才剣士である。

 むしろ、そろそろ彼の気持ちの正しい発散の仕方を────
 ────それを恋と人が呼ぶのだと伝えるべきか。



 否、と首を振る。
 尚早だ。時期尚早だ。

 肆空であれば紗々羅様を任せるとて異論は、ない。ひとまずはない。
 紗々羅様の恩寵がある以上、私に口を差し挟むべくもない。だが、だからといって思うままに突っ走らせることほど肝が冷えるものもない。

 あの勢いでは紗々羅様に突進し押し倒しかねないのだから。

 眼を開け、こめかみを揉む。いっそ肆空に整体でも仕込ませてやろうかと思うがしかし、それは大人の悪ふざけがすぎる。今でこそ素直な肆空への罪悪感が込み上げているのは確か。であれば、早々に次を考えなければならない。

 咎森は改めて軽くなった袖を翻し、立ち去った。
 ひとまずの場繋ぎとなる、次なる試練を編み出すために。


 <おしまい>