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ツキシキ
2023-06-29 23:12:46
60921文字
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★ムラサキ・ムラサキ劍まとめ
13作品。二次創作。
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コワモテ仮面、咎森さん!(咎森とヨゾササ)
※ギャグです。頭のネジを数十本抜いて原作から離れて見てね!
_____________________
よもやま話である。
イとの戦を前にして、武器を集め戦術を練り、攻の要となる剣士もすっかり宮廷に馴染んだ頃。濃厚な敗色を調和のまだらに染め変える算段をつけ、咎森はようやっと一息をついた。
玉石混交の妄言から珠を拾いあげ、埋もれた鬼才を掘り起こす────最中は疲労を感じる暇すらなかったものだが、整ってみれば今度はどうにも手持無沙汰な有様である。
咎森は深く椅子に腰かけ、予測可能な艱難を洗い出す。
相手の資源は何より潤沢。些細な懸念もこちらには大打撃となりうる。
些細な────葉末のことであっても。
そこでふいに浮かんだのは、言ってしまえば、“もののついで”の発想だったのだろう。
なにせ大局である。
咎森と言えども鉄面皮とはいかない。
であれば、そう、単純に。
面を作ればよい。
思い立てば次々と発想を裏付ける思考が湧いた。
壱、戦場に立つイの者が咎森の顔を見知っている可能性は大いに高い。転、背信の誹りは敵を煽り自軍を委縮させかねない。
弐、指揮官が冷や汗を垂らすは愚策の骨頂である。転、覆えば面は事足りる。
参、咎森は自らの顔の造りが存外覇気に欠けることを自覚している。転、相対するが異形の面の者とあらば僅かなりとも相手に二の足を踏ませるのではあるまいか。
それらはこじつけと呼ぶに値する粗雑さであり、尤もらしい言いぐさをしておきながらその実、手持無沙汰の解消を目的とする思考であった。だが少なくとも、暇を侍らすよりはましと結論付けた。
思い立つが吉日。咎森は姿勢よく滑らかに立ち上がり、竹林へと足を向けた。
◇◇◇
自らは自ら助くしかない生い立ちから当然と言うべきか、咎森は器用な性質だった。
竹のしなりを利用し湾曲を最適の位置にあてがう。角を取り付けたはいいが鬼は単純に過ぎると思い直し、牙替わりに嘴をこさえてみればこれがなかなか悪くない。いや実に。職人への転職もうっかり視野に入れかける。
表皮を丹念に磨き上げ、艶美な表面に気迫の足りなさを感じ、噛み合わせの歯を縫い付けてみると意外にもこれがどうして猛禽類。拍子よく動く手つきは興も乗り乗り、鼓でも叩けば一躍楽師もよいかもしらん。眼光鋭い意匠など思いついたが天才的。勢いで三つ目にすればそりゃもう異形がここに見参。手間をかけたからには瞳の部分を洞にするのも惜しく、然らば位置でもずらしてみるかと鷹の目を正中に寄せればこれが良い、いや実に良い。
咎森はすらりと伸びた指で生き生きと小刀を操り、
ふと、冷静になる。
――
自ら作らずとも腕の良い職人はごまんといるのでは?
だがその頃にはもはや着色を残すのみとなっていた。
もとより策だのなんだの弄す時点で裏方仕事は大の得意である。率直ノリノリだった。今になって冷静になってもしようがない。
結局仮面は独りで完成までこぎつけた。
咎森は凝り性でもあった。
◇◇◇
できたからには試用である。凄みを利かせる番になって面が割れてしまうようであれば笑い話にもならない。視界の確保も肝要だった。
となればひとまずは歩き慣れた場から慣らすべきである。宮廷の外周を囲うように繋がれている廊下を選んだのは、屋内より開けており人の通りが少ない、という単純な理由からだった。
装飾の類は視線を阻まないよう気を遣っただけあって、仮面の穴は小さいながらも想像より視界は良好だった。狭まることは如何ともしがたいが、先の見通しにおいては遠くの木の葉までしかと見て取れる。軽く辺りを見回してから、咎森は姿勢よく歩を進めることとした。
しかし、狭まるものは狭まるのである。
特に仮面の視界は側面に弱い。
秘する影が身を縮こめていてはなおさらである。
つまるところ、曲がり角にて。
ぽすん、と、
咎森の腹にも届かぬ小さなものが、当たった。
「っ、失礼」
謝罪は反射のように口から転び、この時点ではぶつかったものの全貌すら感じていなかった。しかし脳は連想を瞬時に行う。宮廷、同時にぶつかった、置物ではない、軽き小さき動くもの、覚えのある背丈とまるで絹のような柔らかさ。
「!」
総毛だつ、ザッと引く血の気、息を呑んでもなお足らず窒息めいた心地。
仮面を外すという行為すら埒外に、咎森は現状の把握を求めた。自然、鋭い鷹の目が床を睨みつける形となる。
ひいては、そこに弱弱しく転がる、少女の姿を。
「さ」「お」
互いに一音零れた。
続けるべき言葉が止まる。即座に平伏すべき身が凝固し動かない。面越しに見える相手の瞳がいっそ哀れなほどに震えていたためである。
恐れと畏れが交錯する中、口を動かせたのは相手のほうだった。
「おばけ
……
?」
微かすぎて傾聴せねば聞き逃すほどだった。
それでようやく、咎森は不敬以上に致命的な誤解が起こっていることを悟る。
違います、と、否定すべきか仮面を外すべきか地に頭を擦り付けるべきか、尻餅をつく相手をひとまず起こすべきか? 平時の頭脳と比べ今の頭は死骸の如き鈍さである。
そうこうしている間にも誤解は加速する。少女は震え、腰が抜けたのだろう、立つに立てない身体の背筋をせめてピンと張り、いたいけな威厳を取り直して言葉を紡ぐ。
「ふ、不浄の者よ
……
! 去りなさい!」
声を張れば力が篭る。そして堪えはたやすく決壊してしまう。
「我が民に、狼藉を働くことは、ゆっ、許しま
……
許しません
……
!!」
少女の愛らしい瞳から、ぼろぼろっ、と涙が垂れた。
毅然と言うには哀れを誘う口調が、もはや泣き声と変わるのを止められぬまま途切れに途切れてしまう。元より恐怖にめっぽう弱い少女が、能ある男の全力による異形の姿と向き合っているからには当然の姿でもあった。
故に咎森は言葉を失う。
震えても凛を為そうとするその御身、情けなくも脳を空転させてばかりの己。
いっそ、
────いっそ腹を切りたい。
余りある絶望が最も恥ずべき思考停止という行為を弾き出しかけた瞬間、ひゅぅお、という鋭い音がした。
「
……
様を
…………
」
音のみならず声がする。
遠く遠くもはや近く。測る距離すら消失させる疾風の姿は早、目前。
一瀉千里の影はまさに突貫の勢いで、咎森と少女の間へ割り入る。
姿を見せるは恩寵の剣士、迅雷よりも速き者。
「紗々羅様を泣かせる者は、お前か!!」
開口一番放つは怒号。剣の構えは凌駕須らく、技量は一見悟るべし。
何より咎森は知っている、なにせ自ら連れてきた天才剣士である。
紗々羅の瞳が涙ではない由縁によって煌いた。
「肆空
……
!」
肆空と呼ばれた少年は信頼を背で受け止め頷く。そして敵意を前面に押し出し、怒気の溢れる声で問いただす。いざや断罪、悪人御覚悟、印籠ならぬ恩寵のお時間である。
「名を名乗れ!」
咎森は死期を悟った。
「
……………………
咎森と申します」
「えっ」「えっ?」
自然、重なる少年少女の声。
遠くで呑気に鳥が鳴いた。
◇◇◇
大の男が少年少女に向かって土下座している様は端的に述べて異様である。
「咎森
……
顔を上げてください」
「僕もすまなかった。勘違いをして
……
」
「いいえ肆空、私が早とちりをしたのがいけないの」
「いや紗々羅様は悪くない」
「肆空が悪いことなんて」
「
――――
腹を切らせてください」
「「待って」」
再び重なる二人の幼声。
無垢の心に咎森の心境は伝わるまい。諸悪の根源が諸悪であることを突かれないまま、いいやいいやと遠慮問答が発生するのは実に居たたまれないものなのである。
咎森は未だ顔を伏せたまま、脇に除けた仮面のことを思う。
作る間は楽しかった。鼻歌と竹を削る音の一人合奏は雅楽も然りの趣であった。熱中している時というのは後先を考えられない時であるとつくづく感じるものである。
それでも少年達は健気に励ましの声を上げる。
「ほら! よく見るとあの仮面かっこよかったし!」
「そうね、こわ
………………
つよそうだったから」
ガチ泣きした女王の声が今も震えているのは否が応でも伝わった。
「仮面は割ります」
咎森は即決した。
「だっ、駄目よ!」
「紗々羅様を脅かすものを生み出した罪をせめて僅かなりとも清算せねばなりません」
「大丈夫です。ちっとも、おびやかされていませんから。どうか顔をあげて」
少女の命はたとえ気遣いであっても絶対である。
咎森は顔をあげた。
吹いた。
傍らで肆空が平然と仮面をつけていた。
「肆空」
咎森は思わず指摘し、紗々羅が自然と横を向く。息をのんだ。未だ怯えていらせられた。指摘すべきではなかったと咎森は再び自らの愚を呪ったが後の祭りである。
肆空はというと平然と仮面を顔にあてがい、ああでもないこうでもないと良い位置を探すようにずらしては首を傾げていた。
「僕には合わないみたいだけど、やっぱり強そうでかっこいいと思う」
平然と言う肆空に思わず咎森は眉間へ手をやった。しかし、苦言を呈する前に口を動かしたのは紗々羅だった。
「大丈夫。驚きは、したけれど
……
肆空や咎森だと思えば怖くはありません」
「そうそう。せっかく作ったのにもったいないよ」
「ええ。それに咎森、この面も何か策の一つなのでしょう?」
こう問われてまさか主へ空言を言う訳にもいかない。
「
……………………
策になり得ないことも無いかとは」
咎森は素直に答え、紗々羅はしっかと頷く。
「この面がよく役立つよう、祈っています」
こうなっては流石に咎森も固辞するわけにはいかない。腹を切る代わりに腹を括る。
「必ずや、ご満足にたる結果を出しましょう」
紗々羅様の祈りを無駄にするなどあってはならないこと。
早急にこの面の活用を思考すべきである。
先の思い付きではなく、姦計に絡む要として。
背筋を伸ばし、咎森は立ち上がる。
完成形の策を一度崩さねばならない。思い付きの異物を知略の核へと召し上げるために。
そのための、第一歩として。
「肆空、そろそろ面をこちらへ
……
肆空?」
半分思索にふけっていた咎森はここでふと、肆空の不在に気づいた。
紗々羅が物言いたげに外を指す。大きく広がるかの翼。
外では今まさに、異形の仮面をつけた少年が宮廷から飛び発ち、きりもみ回転をしながら地上へ降り立とうとしていた。
「何故」
「『仮面をみんなに褒めてもらえば咎森も元気が出ると思う』と言って
……
」
「
…………
止めてきます」
言うは易く行うは難し。
疾風迅雷に文官が追いつけるはずもない。
故に、『天狗仮面』の噂がハの小世界中へ広まり切るのも時間の内。
かくして何ら実の無いよもやま話は、幕を閉じるのであった。
さていざ拝唱、めでたしめでたし!
<おしまい>
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