お芋さん太郎
2022-06-03 21:08:54
21068文字
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ドキッ! 護衛なしでお友達と初めてのお泊り花火大会 in 熱砂の国

※ツイステ
※ディアソムニア寮
※オリキャラ
※アリアーブ・ナーリヤ

以前pixivに投稿していた作品です。





「無理」
「ちょ、お前、何帰ってきてんだよ」
「何かあったのか? まだ10分くらいしか撮ってないだろ」

順調にマレウスらの様子を磁気テープに収めていた三年の寮生と糸巻きの寮生の元に、カメラの寮生が早々に帰ってきた。
別れたのは10分かそこら前。

もっとたくさん撮らなければリリアに合わせる顔が無いと2人が焦るも、カメラの寮生は深いため息を吐きながら眉間に皺を寄せている。

「水を浴びた」
「「は!!?」」

確かに、先程の噴水の彫刻に夢中になるマレウスを撮影したのであろう彼は、バケツの水を被ったかのようにずぶ濡れで、髪の毛の束から水が滴るほどだった。
しかし熱砂の国の晴天しかも真昼間という環境においては『気持ちよさそう』としか言いようも無く、ビデオカメラも防水防塵仕様だったはずだ。
撮影を止めて戻ってくる意味が2人には分からなかった。

「OK、二人の言いたいことは分かってる。だがまずは何も言わずにこれを観てくれ」

仕事をほっぽり出した癖にやけに落ち着いているカメラの寮生にグチグチと文句をこぼす2人に対し、両手を挙げて参ったと言わんばかりのポーズをとりながらカメラをスっと差し出した。

カメラの寮生が濡れた前髪を掻きあげる仕草が妙に鼻につき、糸巻きの寮生はカメラを受け取りながらカメラの寮生のスネを力いっぱい蹴りつけた。
カエルの潰れるような声をあげて痛みに悶えるカメラの寮生をざまぁみろと見下ろし、ニヤニヤと笑う三年の寮生と共に映像を確認する。

「こ、これはッ!」

2人は驚愕で目を見開いた。

「美しいクジャクの彫刻に目を奪われる寮長と」
「寮長にかかることなく絶妙に宙に舞う水しぶき!」
「口元に手を当ててほほ笑んでいる様は国宝級!」
「見てください、背後に虹までかかっている!」
「ローアングルからの撮影で青空に寮長の漆黒の御髪が重なり
「いい感じに吹く風でふわりと揺らぎ輝いて見える」
「「お前が神か?」」

カメラから顔を上げてそれを撮影した彼に振り向く2人に、ウンウンと頷きながらカメラの寮生は口を開いた。

「そして至近距離でそれを直視しながら寮長の魔力を帯びた水を浴びた俺の心境やいかに」
「さてはお前もう死んでるな?」
「惜しいやつを亡くした」
「俺、来世は茨の谷に生れるよ」

軽口をたたきながらアハアハと三人で笑っていると、インカムから仕事をしろとの檄が飛ぶ。
しかしイヤホンの向こうのリリアの声も少し震えており、笑いをこらえるのに必死であることは明らかだ。

『高尚』をモットーとするディアソムニア寮は妖精族の者も多く属しており、他寮からはお高くとまっていると思われたり遠巻きにされることが多い。
しかし蓋を開ければこんなものだ。
種族も、魂の素質なんてものも関係ない。
お年頃の若者が数人集まればバカみたいなことをしながらバカみたいに笑いが生まれると相場は決まっている。

特にディアソムニア寮は、寮長であるマレウスが出自も能力もずば抜けているために寮長の座を巡っての決闘はそうそう起きることも無く、年齢は不詳であるが確実に年長者であろうマレウスとリリアを中心に実によくまとまった集団だ。
統率がとれているということは、実に分かりやすくシンプルな構造であるということで、そのシンプルさが心地よいと感じる者も多い。

要するに、みんな寮が、寮生が、寮長が好きなのだ。少なくとも、それぞれの休みを返上してマレウスの後を付け回すほどには。

「すまなかった副寮長、作戦を続行する」
『っクク……いや、お主らも楽しみながらやるとよい』

目の尻に涙を浮かべながら悪びれもなくリリアに報告を入れる三年の寮生だったが、彼らの様子はなかなかにリリアのツボを突いたらしい。
小さく聞こえる笑い声に、木々のざわめきさえも楽し気に聞こえた。

カメラの寮生が小さく敬礼しながら再び姿を消し、三年の寮生と糸巻きの寮生も作業に移った。
三年の寮生が静かに目を閉じると、瞼の裏には動物を見ながら楽しそうに談笑するマレウスの姿が映る。
2人の足元に転がる糸巻きはもうすでに5つを超え、マレウスたちの旅の楽しさを物語っていた。