お芋さん太郎
2022-06-03 21:08:54
21068文字
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ドキッ! 護衛なしでお友達と初めてのお泊り花火大会 in 熱砂の国

※ツイステ
※ディアソムニア寮
※オリキャラ
※アリアーブ・ナーリヤ

以前pixivに投稿していた作品です。

新しい朝が来た。
希望の朝だ。

喜びに胸をひらき大空を仰いだマレウスは、自室の窓を開け朝露の香りを思い切り吸い込んで談話室へと向かった。
寮の廊下に差し込む薄暗い朝日は実にすがすがしくマレウスの心までをも照らす。

ぎゃあぎゃあと愛らしく鳴く怪鳥の声を聞き流しながらウキウキと進める歩幅はいつもよりもやや大きい。
緩む頬は桃色に染まり、これから始まるであろう素晴らしい一日を想像した。

今日は『アリアーブ・ナーリヤ』。
熱砂の国で行われる有名な花火大会『ヤーサミーナ河 花火大会』の日だ。

なんの因果かカリムがリリアを誘い、マレウスはそのリリアに共に行こうと誘われたのがつい昨日のこと。
マレウスやリリアの故郷『茨の谷』はなかなかに閉鎖的な風潮の土地であり、実際マレウスも学園に通うために賢者の島に来たのが初めての国外渡航。

熱砂の国など話でしか聞いたことがない。
未知の土地で行われるという文化的な行事にムクムクと興味が湧いた。

しかも、リリアを挟んだとはいえ『誘われた』ということに嬉しさを隠しえない。

招待状はなんらかのトラブルで届かない、招待されても不測の事態で参加不可。
そんな星のもとに生まれてしまったマレウスは『誘われた』ただそれだけで心がフワフワと浮雲のようになってしまうのだ。

リリアの誘いを肯定で返したマレウスは、誘われた嬉しさと明日への希望を時おり思い返しながら、その日はたっぷり5時間かけて旅の支度をした。

しかしそんなマレウスの浮ついた気持ちは、談話室に入ったところですぐにしぼんでしまった。

「うぅぅ、ぐぁっがっ!」
「親父殿!」
「薬をお持ちしました!!」

上等なソファに横になり、苦しそうにうめき声をあげるリリアと、その周りであたふたと動くシルバーにセベク。
寮生はそれを遠巻きに眺め、心配そうな顔をしている。

「どうした」
「あっ! おはようございます寮長! それが、副寮長が
「朝になって腹痛に襲われたらしいのです」

そばにいた寮生に事情を聴き、リリアに近づく。
マレウスに気が付いたシルバーとセベクが身を引いてリリアの横を空けた。

日の光が苦手なリリアの肌は今は白を通り越して青白く、その肌に珠のように浮かぶ汗が状況の悪さを感じさせた。
しゃがみこんでリリア目線の高さを合わせ、優しく語りかける。
先ほどまでの気持ちのいい空とは一転、雷がかすかにピシャリと音を立てた。

「どうした。お前ともあろう者が腹痛などと、冗談にもなりはしない」
「ああマレウスか、ぐっ……食のあたりが悪かったらしい。歳はとりたくないものじゃ……うっ……すまんが……
「ああ。旅は欠席だ。シルバー、アジーム……いや、バイパーに連絡を入れてくれ」
「いや、マレウス。お主がひとりで行くがよい」

リリアの発した一言に、マレウスの心がザワと波打った。

「では僕がお供いたします!!」
「セベク、マレウスは子供ではない。今回は護衛は不要じゃ」
「しかし……!!」
「ただ学友の家に遊びに行くだけのこと、何も起こるまい。いや、何も『起こさせまい』。客人に何かありでもしたらアジーム家の名折れよ」

先ほどまで苦しみに喘いでいたリリアの深みのある紅の瞳がマレウスを射ぬく。
かすかにほほ笑んだその表情は、どこか悪戯を成功させた子供のようだ。

その瞳を見たマレウスは一瞬にしてリリアの粋な計らいを覚る。

どこに行くにも護衛付きで、気ままな国外旅行など夢のまた夢のこの身。
見聞を広めるためにこの学園に入学しそれなりに楽しく2年ちょっと過ごしてきたが、それももう1年と少しで終わりだ。
国における自分の役割は理解し納得してはいるが、名残惜しくないと言えば嘘になる。
そこでリリアの腹痛という『予想外のハプニング』を利用しここらでもうひと体験しておけということか。

長い付き合いだ。これが解らぬわけが無い。

「よいのだな、リリア」
「行ってまいれ、マレウス」

キラリと鋭い視線を交わし少しの愉悦を顔に浮かべながら、マレウスは2mの背丈を起こした。

心は快晴有頂天。

「見送りはいらん」

そう一言だけ呟いて談話室を後にした。