お芋さん太郎
2022-06-03 21:08:54
21068文字
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ドキッ! 護衛なしでお友達と初めてのお泊り花火大会 in 熱砂の国

※ツイステ
※ディアソムニア寮
※オリキャラ
※アリアーブ・ナーリヤ

以前pixivに投稿していた作品です。





砂漠の冬は夜、とよく言われる。

昼間は太陽に照らされてたいそう暑いが、水分の少ないカラリとした空気は昼間の熱を保持できずに夜になると放出される。
ゆえに凍えるほどの気温になってしまうのだ。

だからこそ熱砂の夕暮れは夏の終わりの哀愁を感じさせる。
しかし人は暑さのやわらぐ今が活動のピーク。
特に今日はこれから国を挙げての大イベントが待っているのだ。

通りはさらなる人混みで賑やかに。
店の呼び込みがあたりに響く。
軽食の屋台は忙しく、それでいて稼ぎ時とばかりにセカセカと動いていた。

しかし、楽しい時に限って予想外のハプニングとは起こりうるものだ。
まさかメインの花火の危機とは、誰も予想だにしていなかった。

『総員に告ぐ。メインイベントが無いなどお話にならん。USBは確実に取り返す。周囲に怪しい人物がいないか捜索にあたれ。油断するでないぞ!』
「『「了解!」』」

といっても、この人混みだぜ」
「見つかるのか?」
「『見つかるか』じゃない、『見つける』んだ!」
「ここまで来て台無しにされてたまるか!」

「こちらラクダ組、怪しい男を発見」
「キョロキョロと周りを見回しているな」
『確かか?』
『実行犯でなければ意味がない。動くまで見張っておくのじゃ』
「了解」
「ア、子供と合流した。迷子を捜していたようだ」
『違ったか』
『捜索を再開してくれ』

「キリン組! 通りを何度も行き来している女性がいる!!!」
「ちょっと不自然な動きだ。オレ、確認してくる!」
『くれぐれも気を付けよ』
アー」
『どうした?』
「どうやらフルーツ屋の男に気があるらしい。手紙を渡してくれと頼まれた」
『よし、燃やそう』
「手紙を?」
『男を』

「こちらクジャク組、学生と思われる一団に絡まれた。ぶちのめした。以上!」
『『『よくやった!』』』

「こちらゾウさん組、怪しい動きをしている男を発見。ああ、なるほどな。黒だ」
「サルを使っているぞ。曲芸師だ」
『ふむ、あいつか
「北に逃走中。なんとかバイパーに伝えられないか」
『こちらクジャク組。バイパー一行が近くにいる。伝達は任せろ!」

学生とはいえ力のある魔法士がこれだけそろっているのだ。
犯人の確保は実に容易だった。

ゾウさん組が上空から後をつけて全員に犯人の居場所を伝えた。
その居場所をクジャク組の一人が擬態して静かにジャミルに近づき、こっそりとメモに書いて渡す。
はじめは驚いたジャミルだったが、アジーム公園の件もあり彼のユニーク魔法には察しがついていたらしい、メモを頼りに犯人を追いかけた。
キリン組とラクダ組は犯人の逃走経路を絞るために、魔法で路地に認識阻害魔法をかけて徐々に袋のネズミ状態に追い込む。

あとは土地勘のあるジャミルらが追い詰め、ジ・エンド。

「ご苦労じゃった、皆の衆!」
「ハァ、やっと花火の時間か」
「長い一日だった~」
「でも楽しかったよな!」

花火会場から少し離れた建物の屋上、は人がたくさんいるから、その屋上の貯水槽の上。
リリアも含めて全員で陣取り、今か今かと花火を待つ。

買い食いはしていたとはいえ育ち盛りの高校生、新たに屋台で買った食料と飲み物を広げて、まるでスカラビアの宴のようだ。

「待てお前ら呆けている場合じゃないぞ、寮長らが乾杯するみたいだ」

虫と視界を共有させて特別席を見守っていた寮生が一同に告げる。
しかし彼らの疲れ切った足は動く様子がなかった。

「俺たちは特等席には入れないんだ! クジャク組、頼んだ!」
「おいおい、俺たちだってブロットが
「早く行けよ! お前のブロットよりも寮長の乾杯だろーが!」
「ていうかついでに俺らにもミントレモネード買ってきてくれよ」
「あ、確かに飲みたい。よろしく~」
「ちくしょう! お前らのは胡椒マシマシにしてやる! せいぜいド派手に咽るんだな!」

徐々に暗がりが増し、星がひとつ、またひとつと夜空に顔を見せる。

満を持してかき鳴らされる伝統のミュージックと色鮮やかな大輪の花は、観客のお喋りを歓声へと変えさせた。
ふとあたりを見回すと、太陽に向かうヒマワリのように皆一様にポカンと大きな口を開けて同じ場所に顔を向けている。
貯水槽の上だけではない、建物の上でも、道でも、会場でも、そして特別席でも、その時ばかりはみんなが『同じ顔』をしていた。
それがなんだかおかしくて、一人の寮生はクスっと笑った。

マレウスは次期に妖精族の王になる。
それはもうずっと前から決まっている事実だ。
そしてそうなってしまえば一般寮生だった者たち、特に種族さえも違う者たちにとってはなおさら、手の届かない存在になってしまうのだ。
言葉も、視線さえも交わすことは二度と無く、人間族とは違う時の流れを彼は生き続けていくのだろう。

だからこそ、寮生らは今回の作戦に参加した。

熱砂の国のスパイスの香りのように強烈に。
色とりどりの刺繍のように鮮烈に。
夜空に咲き乱れる花火のように艶やかに。
マレウスの心にいつまでも色褪せることなく刻み込まれるであろうこの旅を映像でいつでも思い出せるように。
そしてその映像を撮影した我々を糸を紡いでいくように芋づる式に思い出してもらえるように。
そんなささやかで謙虚な下心が彼らを行動させたのだ。

願わくは彼の生きる長い時の中で、テープに収められたこのすべての瞬間がどんな金銀財宝よりも特別なものになりますように。
なんでも願いをかなえてくれるランプの魔人が伝承として残るこの地で願えば、なんだか不思議と叶うような気がしてくるのだ。

異国の地で西へ東へと奔走した寮生らは、顔を見合わせニヤリと笑い合った。
お互いの顔が花火に照らされて赤や緑に彩られ、とても滑稽に見えたからだ。

ある寮生は肩を組み、
またある寮生は歌をうたう。

眠ったシルバーに肩を貸し、
いくつ目かのシャーワルマーを口いっぱいに頬張る。

箒にぶら下がった寮生はカメラを回し続け、
土産の入った大きな袋を分け合った。

目線の先のマレウスをうっとりと見つめるセベクに悪戯をし、
そして生れた大爆笑はフィナーレの歓声にかき消えた。

寮に帰るか」

誰ともなく呟かれた一言に全員が何も言わずに会場に背を向けた。

彼らの長い一日が、終わった。