この者を毒として、愛と成す(Dom/Subユニバース うちよそパロ)

うちよそオスラッテ、またパロった。リクエスト多かったDom/Subユニバース初めて書きました。



 それから2人によって屋敷に運ばれてきたのは、白い毛並みをした若いミコッテの男性だった。黒いスーツからでも分かるくらいに砂がついて汚れていて、耳や尻尾は力なく垂れ下がっていた。顔色は青白く、目元にははっきりと隈が付いている。
「布団のほうへ寝かせる前に、まずは汚れてしまっている服を着替えさせましょう。兄さん、以前シェイの分として買っていた寝間着がいくつかあるので、そちらからこの方の着替えを用意してください。それからおふたりのどちらか、手の空いている方が手ぬぐいと桶に入れた適温のお湯を持ってきていただけないでしょうか」
「ああ、なら俺が持ってくるよ。シンはその子をそのまま抱えてて」
「了解した」
 俺は言われた通り、今は不在にしている弟のシェイの部屋から未だに使われたことのない寝間着用の浴衣を持ち出した。そして部屋に戻ってくると、ミコッテ男性はシンさんに抱えられたまま、ヴァスクさんに顔や首回りをお湯で濡らして絞った手ぬぐいで拭かれているところだった。
「ウゲツ、着替えを持ってきたぞ」
「ありがとうございます兄さん、ではそちらに着替えさせたら布団に寝かせて安静にさせてください。私はその間に改めて診察に必要な道具をとってきます」
 そうしてウゲツが一旦退室したところで、ミコッテ男性を着替えさせる作業と並行して2人からこれまでの状況について話を聞いた。
「彼が第二波止場に着いてからしばらく距離をとって様子見をしてたんだけど、突然望海楼へ行く方向とは違う建物の影に隠れたんだ。それからすぐに出てきたものの、足元がおぼつかなくてね。こちらが尾行していることどころか、目の前に他人が歩いていることも気が付いていない様子だった。それからも目的地とは違う三条花街の方向へと歩いていくし、流石にこれはおかしいと思って試しに声をかけてみたんだ。そうしたら糸が切れたみたいに倒れちゃったから、シンが間一髪抱きとめてここまで連れてきたんだ」
……彼が隠れる少し前に、第二波止場に停泊していた商船の方から強いGlareの気配がした。もしかしたら、それに当てられた可能性がある」
「ああ、やっぱりそうだよね。俺たちも今はDomだからまだよかったけど、あんなにむやみやたらに振りまいて品性の欠片も感じなかったよ、あの船の奴」
 師匠たち2人は互いに珍しいSwitchというダイナミクスであり、パートナーでもある。状況に応じてDomとSubを入れ替えることが出来る彼らだからこそ、当てられたという推測も出来たのだろう。
「でも、仮にSub dropだとしてもここまで酷いのを見るのは滅多にないね。もしかしたら他にもこうなった要因はあるかもしれないし、まずはウゲツさんに診てもらってからどうするか考えようか」
「そうだな。ああ、このスーツと彼が持っていた荷物は一旦預かるぞ。身元を調べるにはちょうどいい」
「見せてもらうために交渉する手間が省けて助かったね」
 着替えが済んでミコッテ男性を布団に寝かせてから2人はスーツと荷物を手に退室し、入れ替わる様にウゲツが診察道具を手に戻ってきた。



 それからすぐにウゲツがミコッテ男性の診察を行った。聴診器を当てたり、脈拍や熱を測ったり、念のためにと採血も行っていた。俺からも改めてこれまでの状況を説明したが、やはり師匠たちの見立て通りSub dropによる体調不良である可能性が高いということだった。それは、診察の途中でシンさんが持ち込んできたある物からほぼ確信になった。
「彼のスーツのポケットからこれが出てきた。ウゲツから見てこれがどういった効能があるものなのか聞きたい」
 それは、白い包み紙の中に入っていた黒い丸薬だった。ウゲツがそれを受け取って観察したり匂いを嗅いだりすると、すぐに顔をしかめた。
「これは……Subの抑制剤の材料として使う薬草の匂いがしますね。でも、通常はここまで強い匂いがするものではありません。恐らくは相当な量が入っていると思われます。このまま飲んでしまえば抑制の効果よりも副作用のほうが強く出てもおかしくないでしょう」
「そうか、ならば彼がこれを飲んだ可能性もあるか」
「ええ、あると思います。この薬の副作用と慢性的なダイナミクスによる欲求不満、あとは推測になりますが過度なストレスによる心身への負荷、そしてGlareを受けたことによる体調の悪化が重なってこのような状況になったと考えると辻褄が合います。こんなに濃い隈もあって、この方はずっと前から具合が悪くてあまり眠れていないと思います……
「そうか、分かった。忙しい中答えてくれて感謝する」
 シンさんはそう淡泊に返事をして去っていったが、部屋を出ていく前には眠る男性のほうを見て僅かに心配そうにしていた。
「正直に申し上げると、次に同じような発作が起こった場合は命の保証がありません。それくらい今の状態はギリギリなんです。だから兄さん、この方については細心の注意を払って接してください」
「分かった」
 寝ている彼の呼吸は未だに弱々しく、間隔も不安定。今にも消えてしまいそうなくらいに弱った状態で、とてもじゃないが奴や密輸について情報を聞き出そうという気にはなれなかった。



 それから日が沈んで、夜になっても男性が目を覚ますことはなかった。時折脂汗を額に浮かべながら苦しそうに呻く声はするが、意識が戻る様子はない。予断を許さない状態が続いているので、ウゲツと俺でつきっきりで看病することになった。それでも、ウゲツに一晩中看てもらっては可愛い妹の負担が大きすぎる。
「何かあればすぐに呼びに行くから、ウゲツは一度睡眠をとって身体を休ませてくれ」
「でも……
「何かあった時にきちんとした対応ができるように、休める時に休んでおいた方がいいだろう? 俺はまだしも、専門の知識を持ってるのはウゲツだけなんだからさ」
……わかりました、では少し席を外します。あとはお願いしますね」
 俺はこうしてウゲツを説得して一旦休ませた。幸い仕事の関係で俺自身は夜に活動することも多い。一晩寝なくとも明日にはそれほど支障はないだろう。
 そうして1人で彼の看病をし始めてから数時間ほど経過して、夜更けもそろそろ過ぎようかという頃合いだった。何度目かの呻き声と共に、彼が薄っすらと瞼を上げていることに気がついた。もしかして意識が戻ったのか、そう思って声をかけようとした時。
……ぅ、ぐっ」
 尋常じゃないほどに彼が苦しみだした。呼吸が上手く出来ないようで、何とか酸素を取り込もうとはくはくと口を開いている。眉間にしわを寄せ顔色は更に白くなり、僅かに開いた目からボロボロと涙が零れ落ちていく。このままではマズいと瞬時に判断したが、今からウゲツを呼びに行くほどの猶予があるだろうか。もし、呼びに行っている間に呼吸が止まってしまえば、先程言われた通りに彼に命が残されているのか分からない。今まで命が断たれる瞬間は幾度となく見てきたし、いくら国のためとはいえ、この手で斬った人も少なくない。でも、彼がこのまま死んでしまうことを考えると、今までにないくらいの罪悪感に襲われた。
「が、あっ、ぐぅ……!」
 涙の溜まった瞳は天井を見ているようで、暗く濁っている。意識はほぼないと思われる。一刻も早くなんとかしないといけない。そう思ったら、無意識に彼の顔へと手が伸びた。
「ぐ……っ、ん……ぅ?」
 彼の視界を遮るように、目の上に手を軽く乗せる。そうすると苦しんでいた彼がほんの少しだけ落ち着いた。今なら、俺の声が届くかもしれない。
「聞こえるか?」
 ビクンと身体が僅かに跳ねるような感触がして、乗せていた手に顔が一瞬だけ押し当てられた。白い耳がピンと少しだけ張っていることからも、こちらの声は聞こえてるのだと判断する。これなら、誘導ができるかもしれない。
「聞こえるなら、俺の声に合わせて呼吸してほしい」
「は、あ……ふぅ」
 何度も息を吸おうとして過呼吸になっていたため、まずは息を吐かせることを意識させる。それから再度過呼吸にならないように様子を見ながらゆっくりと深呼吸をしてもらう。それをしばらく繰り返していけば、表情が和らいで顔色が少し良くなってきていた。
「もうよさそうだな、偉いぞ」
……ぁ」
 まるで返事をするかのようなか細い声が聞こえた。ひとまずは最悪の状態にはならなかったようで心底安心した。
「その呼吸を忘れずに、今はゆっくり身体を休めてくれ」
 そう言ってからも彼は先程の指示通りに深呼吸を繰り返していた。しばらく様子見をしていると呼吸の間隔は変わらないまま音が小さくなったので、そっと手を除けて確認をすると彼は目を閉じて完全に眠っているようだった。涙や汗で顔は濡れてしまっているが、寝顔は今までよりもかなり穏やかだった。
……ほんとうに、生きてて良かった」
 思わず口に出してしまった本心は、目の前で眠る彼以外に聞く人はいなかった。