この者を毒として、愛と成す(Dom/Subユニバース うちよそパロ)

うちよそオスラッテ、またパロった。リクエスト多かったDom/Subユニバース初めて書きました。



 どこかで寝ているような気がする。暖かい布団の感覚が心地よい。
 随分と長く眠っていたような感覚から、やっと覚醒する。目を開けると全く知らない木目の天井が見えた。
「うぅ、あれ……?」
 身体にはまだ上手く力が入らず、仰向けのまま首を少し動かして部屋の状況を確認する。畳の床と青空が見える丸い窓に障子の扉、木造の家具が所々に置かれている。寝ていた布団もベッドではなく、床にそのまま敷かれている状態。どれも東方地域における特徴的なものばかりだ。つまり、自分は今もまだクガネにいるのだろうか。しかしこの部屋は一体……? どうやってここまで来たのだろうか。記憶を辿ってみても、室内に入った覚えはない。しかも自分の服装もよく見たらぶかぶかで、いわゆる浴衣? というのだろうか。あの黒いスーツとはまるっきり違う恰好になっていた。
「どこだ、ここ……
 とりあえず起き上がろうとしてみたが、少し体勢を変えようとしただけで息が上がってしまい、仰向けから横向きになるだけでかなり疲れてしまい再び目を閉じてしまう。今までこんなに酷い状態にはならなかった。
「う……はあ、はっ……
 やはり、港で怒鳴り声を受けてしまったことが運の尽きだったのだろう。ああ、そうだ声といえば。夢うつつに男性の声を聞いたような気がする。
「お、目が覚めたのか」
 そうそう、こんな感じの声だった。今もはっきりと聞こえてくる。
「まだ随分と辛そうだが、具合はどうだ?」
「ぐあい……って、え?」
 聞いたことのある声に驚いて目を開けると、自分の寝ているすぐ傍に人の気配がした。
 青色の東方様式のゆったりとした服装からでも分かる大きな足で、ストンと自分の顔の前に胡坐を掻いて座り込む。黒い鱗を纏った尻尾がチラリと見えて、それだけで彼がアウラであることが分かった。
「ひとまず、こちらの言っていることは分かるようだな。悪いが少し身体を動かすぞ」
 そう言ってから、尻尾と同じような黒い鱗が所々にある手が伸びてくる。そのままゆっくりと先程の仰向けの状態に戻されたところで、やっと声の主の顔を見ることが出来た。少し暗いけど艶のある青いミディアムヘア、両目は綺麗な緑色、そしてアウラの特徴でもある2本の立派な角、顔にも鱗が何か所かある。アウラの顔をじっくり見るのは初めてだが、こうしてみると、人のようでドラゴンのような……なんとも不思議な感じがする。
「俺のことも見えてるようだな、声は出せるか?」
「こえ……、あ、あー……。たぶん、大丈夫、です」
 まだ息苦しさが完全に消えたわけではないが、会話はなんとかできそうだった。
「よし、なら少し待っててくれ。今治療師を呼んでくる」
 彼はそう言って立ち上がって俺から離れ、障子の扉を開けて室外へと出ていってしまった。俺はそこから起き上がることもなく、言われた通りに布団の中で待っていた。それからしばらく経った頃に、部屋の外からパタパタと足音が聞こえてきて、障子の扉が再び開いた時には2人の人間が立っていた。
「失礼します。起きてすぐで申し訳ございませんが、診察をさせていただきますね」
 柔らかな女性の声。声のした方を見れば、アウラの男性の隣にかなり背の低いミッドランダーの女性がいた。薄紫のボブヘアの彼女は清潔そうな白衣を着ていて、如何にも治療師といった風貌だった。
 それから彼女は俺の身体を起こすのを手伝ってくれて、俺にいくつか質問をしたり、手首で脈を測ったり、口の開けて喉の様子を見たり、聴診器を胸に当てたり……とにかく身体の細かな様子まで丁寧に診られた。アウラの男性は何も言わず、ただ俺と彼女の様子をジッと観察しているようだった。
 ある程度の診察が済んで、最後に彼女から一つ質問をされた。
「あの、失礼を承知で申し上げます。貴方様のダイナミクスは……Sub、ですよね?」
 ああ、やっぱり。そこまで分かるんだな。そうしてやっと自分の身に起こっていることの全てに納得して、答えた。
「はい。俺は、Subで間違いないです……っ」
「なら、やはり一連の症状はSub dropによるものでしょう……。それも呼吸困難を併発していたのでかなり重度のものです。正直、発見が遅れていたらどうなっていたか分からないです」
「そう、ですよね……
「パートナー等はいらっしゃいますか?」
「いや、いないです。あと、そういったことも、なくて……
「分かりました。本来軽いものでしたら、薬の服用である程度の改善が見込めるのですが、今回は副作用による悪化の可能性も充分に考えられます……。あくまでも治療師として申し上げますが、私としては早急にプレイをされることをおすすめします」
……はい」
 それから治療師と2人して静かに肩を落としてしまった。
 だって、いきなりプレイしろと言われたところで、パートナーのアテがない。きっとそれは向こうも分かっているから、こうして気を使ってくれるのだろう。かなり優しい治療師さんだ。
 こうして診察が終わり、治療師さんは丁寧にこちらに頭を下げて退室した。



「診察お疲れさん」
 そう声をかけられて、ビックリした身体が一瞬跳ねた。そういえば、さっきからずっとこちらの様子を見ている人がいたんだった。どうにも気配が分かりにくくて、すっかり忘れてた。やっと存在を再認知した彼が、スッと俺の隣にまた座り直した。
「えと、すみません……ご迷惑をおかけして」
 まずは謝罪。そういえば、合流するはずの依頼人にも会えてない。これは本格的にやらかしてしまっている。あとでどれだけ謝罪に回ることになるのだろうか……気が重い。
「いや、構わない。それよりも、こちらから今の状況について説明してもいいだろうか」
「はい、お願いします……
 俺は改めてアウラの彼の方へと向き直る。真剣に聞くために、倒れないように、自分の身体に掛けられている布団とギュッと握りしめた。
「まずは俺についてから。俺の名前はディル、今はクガネでお役所の仕事をしたりしながら暮らしてる。それでここは一応、俺の家の屋敷……って説明したほうがいいか。とりあえず俺らの許可なくここに他人が入ることはないから安心してくれ」
……はい」
「それで、これまでの経緯についてだ。俺の知り合いが一昨日の夕方に三条花街の路地裏でお前が倒れているところを発見してな。治療師に診せたらかなり危険な状態だったから、容態が安定するまで俺のところで預かることにしたんだ。今は正午を過ぎた頃だから、大体一日と半分くらい寝ていたことになるか」
 そんなに時間が経っていたのか……。なら、もう依頼については取り返しのつかない状態かもしれない。きっとウルダハの商人のほうにも、俺が来ないことについて連絡がいくだろうし、派遣してくれたギルドにも……。このままでは職人としての信用も落ちてしまうだろう。あげくには全く関係のない人たちを巻き込んで、こうして迷惑をかけて。でも、仕方ない、これは体調管理を疎かにしていた自分のせいだ。やはり、慣れない土地に行くのであれば、最初からもっと効果の強い抑制剤を持ってくるべきだった。今更こうして対策を考えたところで何もかもが遅いけれど。
「大丈夫か、身体が震えているが」
……えっ、いや、だいじょうぶ、ですっ」
 気が付いたら、俺は俯いてさっきよりも強く布団を握りしめていた。考え事をしていたせいで周りが見えていなかった。慌てて布団から手を放して、もう一度ディルさんに向き直る。彼は軽く首を傾げて心配そうにこちらを見つめていた。
「そうか、無理はするなよ。辛かったらこちらのことは気にせず横になってくれ」
「ええ……、ありがとうございます……っ」
 ああもう、また気を使わせてしまった。とにかくちゃんと彼の話を聞いて、これからどうするべきか考えないといけないのに。これ以上失態を増やすわけには……
「そうだ、一つ連絡が来てるんだ。お前と待ち合わせていた奴からな」
……え」
 うそ、もう知られてる。ということは……これは俺、終わったのでは?
「『自分のことは気にせず、まずは体調が万全になるまでそちらでゆっくり療養してほしい』とのことだ。確か、宿の望海楼で待ち合わせていたんだよな?」
「ぼうかいろう……はい、多分そこだと思います」
 なるほど、あの宿の名前はそう読むのか。場所はクガネ文字で書かれていたので全然分からなかった。本当にそれで正解なのか俺では分からないが。
「ならば、こちらに来た連絡はお前さん宛てで間違いないだろう。そういえば、そちらの名前をまだ聞いていなかったな」
「あ、ごめんなさい……えと、クルーシュ、です」
「クルーシュ……
 名を告げると、ディルさんは腕を組んでしばらく考え込んでしまった。何かこれだと不都合があったのだろうか。
……そうか、ならクルーシュ。しばらくの間は我が家に滞在してもらうということでいいだろうか。滞在に関する手続きについてはこちらで代わりにやっておこう」
「え、でも、いいんですか……?」
「構わんさ。俺としても具合が悪い人をこのまま放っておくわけにはいかない。ああ、それに関連して、さっき言われていたプレイについても話があるんだが」
 そうだ、最大の問題があった。治療のためとはいえ、いきなりプレイしろだなんてあまりにもハードルが高すぎだ。こればっかりは最悪、専門の店とかのお世話になるのだろうか……全くもって気が進まないが。
「プレイの相手、俺でもいいか? 一応これでもDomなんだ」
……へ、えっ……ええっ!?」
 唐突な提案に、思わず過去一の素っ頓狂な声を上げてしまった。いや、いやいや……どう返事をすればいいんだこの状況!? 俺、まともなプレイ一度もしたことないのに、どうやって……ああでも、プレイのことについては知識としてはあるから、やることはなんとなくわかる。けど、あまりにもいきなり過ぎてどうしたらいいのか分からない!
 流石にこれ以上は状況の整理と感情が追いつかない。そう判断したであろう身体から急に力が抜けて、目を回した俺はパタリと布団に倒れ込んでしまった。意識が落ちる前、向こうからかなり焦った声が聞こえた気がする。



 次に目を開けた時、ホッと安心したような表情をしたディルさんがこちらを覗き込むように見ていた。どうやらあれからまた数時間寝ていたようで、丸い窓から見える景色は日が傾いていた。
「クルーシュ……! よかった、目が覚めて」
「いやっ、俺こそ、本当にすいません……!」
 プレイをすることにビビり、その結果が気絶ってどうなんだ……一応、成人越えた男性として。これ以上の恥があるのかどうか、もしかして生きていくのも向いてない? いよいよ思考がネガティブにより深くなってしまう中、コホンと一つ可愛らしい咳払いがした。
「あの、とりあえずもう一度診察します、いいですね?」
 ディルさんの横には、さっきの治療師さんが座っていた。しかし心なしか、ディルさんの方を見て少し怒っているような気がした。



 診断結果は先程と変わらずだった。さっきの診察の雰囲気とは全然違って、ディルさんはずっとそわそわとしながら俺のほうを見ていた。治療師さんは変わらずに丁寧に接してくれて、手間をかけて申し訳ないと俺が謝り続けていても、大丈夫だと諭してくれた。
 診察が終わって治療師さんが退室してから、すぐにディルさんは俺に頭を下げた。
「すまなかった、さっきのはあまりにもデリカシーがなかった」
「いえいえ、気にしないでください……、元々俺が悪いので」
「そんなことはない!」
 キッと急に声を荒げたので、また思わず身体が跳ねた。それに気がついたであろうディルさんが、また焦ったように声をかけた。
「あっ、しまった、重ね重ね申し訳ない……
「いえ……
……プレイについてなんだが、俺も実のところ不慣れなんだ。だから今みたいに……相手に対してどう接したらいいのか、分からない部分も多くてな。こんなの、言い訳にしかならないのは分かってる。けど、もし、クルーシュがいいのなら、簡単なものでもいいからプレイしてみないか?」
 その言葉を信じていいのか、俺にはよく分からない。俺はほぼ初めてで、向こうは不慣れ。互いの立場を考えるならそれなりに対等、なんだろうか。
「簡単、っていうのもよく分からないんですが。でも、それでもよければ……お願いしたいかなと」
「本当か、本当にいいんだな?」
 そうやって何度も確認を入れてくれる。ディルさんには、元から無理やりプレイに持ち込もうという意思はないのだろう。うん、それなら、少しだけならプレイしてみようか。ほんの少しなら信頼してもいいかもしれない。
「ええ、こちらとしても、出来る限り早くこの状態を治したいので。お願い、してもいいですか?」
「ああ! 尽力しよう!」
 途端にふわりと空気が変わって、嬉しそうに微笑むディルさんに俺も安心感を覚えた。



 それからしばらくすると、先程退室したはずの治療師さんが小さな鍋のようなものをお盆にのせて、部屋へと戻ってきた。どうやら俺用に食事を作ってきてくれたらしい。
 鍋の中身は、よく煮こまれた白米の上に溶いた卵がかけられているものだった。非常にシンプルだが、どうやらこれは東方地域における定番の療養食らしい。2人には食べられる分だけでいいと言われたのだが、幸い食欲に問題はなかったし、むしろ寝すぎたのとクガネに着いてからまともに食べてない影響でお腹はすごく空いていた。治療師さんがお椀に適量をよそってくれて、ディルさんが一口分ずつ匙ですくって、少し冷ましてから食べさせてくれた。初めて食べる物だから、味は見た目通り味気ないものなのかと最初はすごく気になった。けれどいざ食べてみると、柔らかく口の中で解けていく白米の食感と、塩の味の中にほんのりと卵の甘味と僅かに魚介系と思われる出汁の味がして、これが本当に療養のための料理なのかと驚いた。シンプルなのに、ものすごく丁寧に作られているのが分かる。だから俺は与えられるままにパクパクと頬張ってしまい、気が付いた時には鍋の中身は全て空になっていた。2人もこの食べっぷりにはとても驚いている様子だった。