この者を毒として、愛と成す(Dom/Subユニバース うちよそパロ)

うちよそオスラッテ、またパロった。リクエスト多かったDom/Subユニバース初めて書きました。



 その日のクルーシュの働きぶりといったら凄まじいものだった。いつものように家事を終えたかと思えば、自分が今まで使っていた部屋は隅々まで綺麗に掃除し直し、この1ヶ月で彼が作ってくれたエオルゼアの料理についてはレシピを事細かくメモをした紙を残してくれた。元々彼は暇さえあれば何かしらメモを書いていたし、俺やウゲツからクガネ文字についても聞いて勉強していた。レシピはどれもクガネ文字で書かれていて、まだたどたどしいものではあるが、それでも彼の心遣いは感じられた。
 それから日が沈む頃になっても彼はせわしなく働いている、はずだったが。夕食の時間になろうという時にも関わらず、彼が台所に姿を見せなかった。それに気が付いたウゲツが執務室で書類作業をしていた俺を呼び出し、手分けしてクルーシュを探しに屋敷中を歩き回った。
「最後に見たのは夕方ですね。今日は天気がよかったので庭に布団を干していたのですが、それらを取り込む時にクルーシュさんが通りがかって『自分が運びますよ』と申し出てくれたんです。なので手分けしてやりましょうということで半分ほどお願いしたんです。布団は既に全て片付けられてますし、その後にどこか別の部屋にいるんでしょうか……?」
 彼の自室にはおらず、他の部屋もある程度見て回ったがどこも綺麗に清掃されているだけだった。あと見ていないところ……と考えながら俺の自室の前にきたところで、微かな人の気配を察知した。もしかしたら。
 俺はすぐに部屋の障子を開けた。そこには部屋の隅にこんもりと重ねられた布団が鎮座していて、布団と畳の隙間から僅かに白い尻尾がはみ出ていた。
「クルーシュ?」
 声をかけてみるが返事はない。そのまま布団の塊に近づいてみると、すうすうと可愛らしい寝息が聞こえてきた。そーっと重ねられた布団を剥がしてみると、俺が普段使っている布団を抱きしめるようにしながら、身体を丸くさせて眠っているクルーシュがいた。
 ああ、なんて、この猫は愛しいのだろう!
 俺は彼を起こさないように一度布団の中から出してやる。そうして改めて俺の布団を敷きなおし、そこに彼を寝かせてやった。彼はしばらくは違和感があったようでもぞもぞと動いていたが、それでも起きる様子はなかった。やがて掛け布団を先程のように抱きしめてすりすりと頬ずりをすると、寝顔が嬉しそうな微笑みに変わっていた。
……もう、ダメだな」
 こんなことされたら、一生離してやれない。だから明日、何があっても俺はお前を仕留めてやる。そう考えながら眠る彼の頭をそっと撫でてやり、彼が目覚めるまでずっと傍にいた。
 目覚めた彼は最初はバツが悪そうにしていたが、きっと疲れが溜まっていたからだと言い聞かせて、しばらく抱きしめて撫で回していた。その間にもふわふわと揺れ動く尻尾が、彼の気持ちを表現している様に見えた。



 次の日、彼が出発する日。
 黒いスーツを来た彼は荷物を入れた鞄を背負い、この屋敷から出ていこうとしていた。
「とうとう行くんだな、分かってはいたが寂しいものだ」
……そうですね、でも、これ以上厄介になるわけにはいかないですから」
「なに、俺たちもお前が家のことを手伝ってくれたおかげで助かったんだ。特に武具のことを理解して扱える奴は少ないからな」
「お役に立てたなら、俺としても何よりです」
 ……ここで今、行くなと命令したい。
「そうだ、道順についてはこの封筒に入れてある紙に書いてある。屋敷から出たら開けてくれ、まあ、お前ならそこまで迷うことはないだろう」
 そう、迷うことは決してない。彼はもうしばらく、この国を出ることはない。
「分かりました、最後まで助けていただいてありがとうございます。いつかまた、こちらの地域に来ることがあれば、改めてお礼をしに伺わせていただきます」
……ああ、そうか」
 そうやって俺のことを想ってくれるなら、ここに居たいと、言ってくれたらいいのに。
 この気持ちはDomとしての本能か、俺としての愛情なのか。どっちにしても、見せられたものじゃないな。そう考えながら彼を見送った。
 彼の姿が見えなくなってからすぐに、隠しておいた細剣と赤いクリスタルを取り出した。かつて俺自身が叔父たちのいるエオルゼアに武者修行に行った時に身に着けた魔法を、久しぶりに使う時が来た。



 屋敷の門を出て少し離れた場所で、クルーシュは封筒の中に入れていた紙を見ていた。あれには元々何も書いていない。ここの地理についてはあまり彼には教えていないから、どのみち自力で行こうにも時間がかかるだろう。
 右手に細剣を構え、左手で浮かせたクリスタルに魔力を込める。黒い小さな魔紋が目の前に浮かびあがって、すぐに詠唱の準備が出来た。あとは、彼をほんの少し止めるだけ。

「待て、イオ

 彼に本当の名前で呼びかける。それに反応して動きが止まったところに、魔紋から魔力を込めた波動を放つ。彼に当たった魔法はすぐに効果を発揮し、力が抜けた彼がふらりと倒れていく。俺はすぐに武器とクリスタルを手放して駆け出し、彼が地面に当たらないように受け止めた。
「な、ん…………っ」
 最後にそう言葉を残して、彼は強制的に眠りに堕ちた。彼にとってこれがどういった影響を与えるかは、目覚めてからじゃないと分からない。けれど、道に転がっている細剣やクリスタル、土埃で汚れた白紙だったはずの封筒と紙を見て、己の愚かさを改めて自覚した。
「ごめんな、でも、俺はどうしてもお前が欲しいんだ」
 眠る彼を抱き締め、屋敷へ戻る。強請ることを許されず手に入らなかったものは、今ようやくここにあるのだから。