この者を毒として、愛と成す(Dom/Subユニバース うちよそパロ)

うちよそオスラッテ、またパロった。リクエスト多かったDom/Subユニバース初めて書きました。



 東へ向かう巨大な船の中は、とても居心地が悪い。
 ゆらゆらと薄暗い船内は常に波に揺れ、テーブルには誰かが食事をした痕跡が汚く残されている。昼も夜も誰かの話し声が聞こえてきて、静かに眠れるまともな場所はなく、ただ通路の端に座り込む。
 あまりにも気分が悪い。もう二度とこの船には乗るものかと両耳に力を入れて出来るだけ伏せて、余所行き用に新調した黒いスーツが汚れることも気にせず、座り込んだまま膝を抱えて尻尾まで丸くした。



 雇い主のウルダハの商人に今回の長期的な製作依頼について言われたのは、今から数日前のことだった。遥か東の島国、ひんがしの国のお偉いさんから錬金術に詳しい者を派遣してほしいとのこと。霊災の影響で家族を失くし故郷を捨て、あてもなくうろついていた俺は、せめてもの食い扶持になればとウルダハで冒険者ギルドに入った。その後はある程度の職人としての技術を学び、色々な商人の元で限定的なお抱えの職人として派遣され、定住の地はなくともそれなりの生活を送っていた。そんな中で次に派遣されたウルダハの商人から突然呼び出されたと思えば、ここではない遠い場所へ行けということだった。
「もう既にクガネに行くための船のチケットはとってある、着いたら向こうで雇い主の指示を仰げ」
 商人は冷たく言って、握り潰してくしゃくしゃになったチケットの紙を俺の目の前に差し出した。
 それから船に乗り込んで、今に至る。エオルゼアの方に仕事は残していないし、そもそも家もない。しかし、この仕事が終わってからエオルゼアに帰るための資金は自分で稼がなくてはならないだろう。それを考え出すと頭が痛くなって、誤魔化すように深いため息をついた。



 あれからずっと座り込んで、寝たか寝ていないか分からないほどの意識の浮き沈みが何度かあって、唐突に到着を告げる鐘の音で一気に覚醒した。
 あれよあれよという間に乗組員に船から降ろされて、目の前は朱色の建物だらけの知らない街並みだった。開けた海に反射する日光と、異様でカラフルな世界に目が痛くなってくる。
「はあ、さて、どこに行けば……っ」
 降ろされた港にある看板を見ても、ひんがしの国の言葉はよく分からない。雇い主に会うためには宿に行けばいいと聞いていたが、詳しい場所は商人も分からないと言っていた。現地の人に聞いてみるにしても、宿の詳しい名前が読めない。こうなったらしらみつぶしにクガネを回るしかないのだろうか。そんなことを考えたところで、港に男性の叫ぶ声が響き渡った。
「おいっ! どうなってるんだ!? 俺は確かにこの船に商品を詰め込んだんだぞ!?」
「いえ、ですから……僕が確認した時にはもう……
「ふざけんじゃねえ! 大事な商品失くしやがって、どうしてくれるんだ!」
 どこかの商船で言い争っている。ガンガンと頭に響くような声と、ビリビリと痺れるような威圧感。これは、まずい。ただでさえ知らない土地でこんなのを聞かされたら。
……っ、あいつ、くそっ」
 足から力が抜けそうになるのを何とか堪える。とっさに見えた建物の影にあった暗い小道へと逃げて、スーツのポケットの中から必死に包み紙を取り出す。その中に入っていた丸薬を急いで喉に押し込んだが、水分がない状態では上手く飲み込むことができず、玉の感覚が消えるまで違和感にむせていた。
「ゲホッ……う、ぐっ……ぅ」
 咳をしすぎた影響なのか、呼吸が上手くできず胸が苦しくなる。それでもしばらくその場で立ち止まっていれば少しだけ落ち着き、苦しさを我慢すれば何とか歩けるほどになった。
「はやく、宿を……はあ、はあ……っ」
 とにかく休める場所を。急いでそこへ行かないと。再び胸の痛みが強くなり呼吸が浅くなる中で、目の前の景色を己の勘だけで進んだ。



 石畳を歩いていたはずなのに、今歩いているのは砂の上。空はオレンジ色になっていて。視界は暗く狭くなっていく。
「どこ……だ?」
 誰かに話しかけられたような気がする。でも聞こえない。自分の呼吸音が、鼓動が、うるさ過ぎる。
 自分は今歩いている、はず? でも胸がずっと苦しいんだ。薬だってとっくに飲んだのに、効いてない。今までだって同じようなことあったじゃないか、だから、お願いだから収まってくれ……
「ぜぇ……っ」
 息を吸おうとして気づいた、喉が動かない。もう、これ以上、むりだ。
 さっきのような、暗い場所があった。そこへ行って、血の気が引いて、足が動かない。でも壁があった。寄りかかって、もう力が入らない。ズルリと視界が下がる。目の前に、地面の匂い。
……ひゅ…………っ」
 息の音が、鼓動の音がうるさかったのに、聞こえなくなっていく。苦しいのも、手足の感覚も冷たくなっていく。これで、全部真っ暗だ。
 そうか、俺、やっと死ぬんだ。それだけは分かった。



 目の前は暗いはずなのに、グルグルと視界が回っているような感覚がする。すごく気持ち悪い。
……ぅ、ぐっ」
 苦しい、くるしい! 息が出来ない!
 ずっとドクドクと破裂しそうなほどに心臓が動いている。身体も動かない。どうなってるんだ一体、死ぬのってこんなに苦しいのか!?
 しかしスルリと、目の上に何か暖かいものが被せられる。更に暗くなった世界からグルグルが消えた。気持ち悪さが少しなくなった。
「聞こえるか?」
 誰かの声、低い音だから男性? 苦しい中でもはっきり聞こえる、分かる。
「聞こえるなら、俺の声に合わせて呼吸してほしい」
 はいてー、すって。吐いて、吸って。何度も繰り返し。
 声に合わせていくと、強張っていた身体から力が抜けて、鼓動が大人しくなっていく。しばらくは声に合わせてずっと呼吸していた。
「もうよさそうだな、偉いぞ」
……ぁ」
 自然と声が漏れた。やっと血が巡って、全身が暖かくなっていくような感覚。苦しいのはその血に流されて薄れていった。
「その呼吸を忘れずに、今はゆっくり身体を休めてくれ」
 目の上の温もりに安心する。さっきとは全然違う、ふわふわと思考が浮いて、気持ちいい……