pinopipi
2026-07-14 08:08:32
26803文字
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きみがいい

ヌヴィフリ/貴族パロ/捏造&改変だらけ/1P目の注意書き必読


「大変だ、ヌヴィレット!!」

時は既に夕刻。ヌヴィレットの執務室の扉を蹴破る勢いで突破し顔を出したのは、第1王女フォカロルスだった。
フォカロルスはこの執務室の常連である。ここ最近は毎日のようにヌヴィレットに会いに来る。その目的はもちろん仕事ではなく、"フリーナの尊さを布教し、共有すること"だった。正直、ヌヴィレットは迷惑していた。執務の妨害行為とも言える程に執拗なそれは非常に目に余る行動であったからだ。
しかし相手は次期女王。大公の位を賜っているヌヴィレットであっても、立場上あまり強くは出られない。下手に扱って不敬罪だと言われても面倒だ。ヌヴィレットはいつも、フォカロルスの言葉を受け流すか、適当に相槌を打ってやり過ごしている。
つい最近、コリオの正体が第2王女フリーナであると知ってからはフォカロルスの行動が益々エスカレートした。「実は僕もあの子の大ファンでね。キミとは同担として推しについて熱く語らいたいよ。」とかなんとか言いながら、フリーナのことは"僕のフリーナ"と呼び、彼女の0歳から現在までの大量のフォトアルバムをヌヴィレットに半ば無理矢理見せつけ、聞いてもいないのに彼女のポンコツ可愛いエピソードを1人で延々と語っていた。初めこそヌヴィレットはフォカロルスからまるで最古参ファンマウント(フォカロルスとフリーナは姉妹なので幼少時代の話となるとヌヴィレットには全く勝ち目がなくて当然である)を取られているような気分になり、内心面白くないとも感じていた。しかし、そんな感情も遠くに感じてしまうほど怒涛の勢いで語られるフリーナの話。ヌヴィレットは"フリーナ"という単語を聞きすぎて半ばゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。それでも執務室の外でフリーナ本人から声をかけられれば、ヌヴィレットの中でフリーナの存在が輪郭を取り戻し、なんとかゲシュタルト崩壊を起こさずに済んでいる。むしろフリーナの姿が視界に入るたび、フォカロルスの洗脳によって「今日も可憐だな」「笑顔が尊いな」「やはり彼女はこの国でーーーいや、全世界で最も美しいのでは」などと思うようになってしまったことに驚いていた。フリーナが尊い存在であることは事実であるが、洗脳とは本当に恐ろしいものである。
ヌヴィレットはフォカロルスの推し語りについて、実は何か目的があるのではと睨んでいる。その実、フォカロルスは腹の読めない才媛だ。ここまで執拗にフリーナの尊さを惜しみなく語る真意を、ヌヴィレットは正直はかりかねていた。
いつもは昼休憩の時間を狙ってやってくるフォカロルスだが、現在終業時刻間近である。このままでは定時に上がれなくなる可能性が高い。ヌヴィレットの帰りが遅くなれば、屋敷で待っているメリュジーヌ達に心配をかけてしまう。
ヌヴィレットは小さくため息をつき、目の前に立つフォカロルスを見上げた。それはもう、気怠げな表情で。

またか、フォカロルス殿下。私の執務の邪魔をするならーーーー」
「邪魔だなんてとんでもない!今から伝えることは、キミにとっても一大事なんだよ!」
………はぁ。一体どうしたというのかね。間もなく定時なので手短に頼む。」
「僕のフリーナがね、他国に嫁がされてしまうんだ!」
…………………何?」

ヌヴィレットの片眉がぴくりと上がる。一瞬だけ不快そうな顔をした後、すぐに表情を正し、もう一度ため息をついた。

………それがどうしたというのだ。王位を継承しない王女の嫁ぎ先は他国であると、古より法典に記されているだろう。何を今更分かりきったことを………

ヌヴィレットが呆れたようにフォカロルスの言葉を一蹴すると、フォカロルスは珍しく不満げな表情でヌヴィレットの執務机をバンッと叩くように両手をついた。

「いいかい、ヌヴィレット。よく考えてみることだ。フリーナが他国に行ってしまうんだよ。フリーナのいない日々に、キミは耐えられるのかい?」
「耐えられるも何も、法は絶対だ。それに、王女の嫁ぎ先がどこであろうと私には関係のないこと。」

ヌヴィレットはこの国の法務の最高責任者、『最高審判官』である。誰よりも法を熟知し、遵守する彼の言葉はまさに正論だった。
しかしーーーーー

「僕は今、"最高審判官"と話をしているのではないよ。ヌヴィレット、キミ自身の心に問いかけている。キミは推しが結婚しても平気なタイプなのかい?……誰よりも賢いキミなら、僕の言いたいことが理解できるよね?」

フォカロルスは正義の国の王女とは思えない極悪な笑みを浮かべ、ヌヴィレットのジャボを乱暴に掴み上げた。そのまま強く引き寄せられ、至近距離でフォカロルスの鋭い眼光がヌヴィレットの朝焼けの瞳を真っ直ぐに捉える。
ヌヴィレットはそこでようやくフォカロルスの言葉を正面から受け止め、心で咀嚼した。
フリーナが他国へ嫁ぐ。もう滅多なことではこの国には帰って来なくなる。他国のことには詳しくないが、今よりもずっと厳しく王族の義務に縛られ、自由に身動きが取れなくなるだろう。そうなれば、もう二度とフリーナが舞台に立つことは無くなってしまう。
そこまで考えて、ヌヴィレットの瞳は大きく揺らいだ。
嫌だ。二度と彼女の演技が観られなくなるなど、そのような苦行ーーーーー

「耐えられるわけがないだろう!」

前言撤回。華麗なる掌返し。ヌヴィレットは苦虫を噛み潰したような苦悶の表情で珍しく声を荒げた。
フォカロルスの手を振り払い、襟を正す。

それでフォカロルス殿下、私の元を訪ねて来たということは、私に何か出来ることがあるということかね?」
「ご名答!理解が早くて助かるよ。まさに、キミにしか頼めないことさ。」

フォカロルスはにっこりと美しく笑む。それからヌヴィレットのデスクの端に置かれている法典を手に取り、パラパラとページを捲った後ーーーヌヴィレットの目の前にそれをドン、と差し出した。フォカロルスがトントンと指をさす箇所は、直接目で確認しなくてもヌヴィレットには分かっていた。

「この古臭い法律を早急に改正する。そして、フリーナの望まない婚約は当然白紙にする。"僕たちのフリーナ"の幸せのためなら手段は問わない。協力してもらえるね?」
「承知した。無論、私も全力を尽くそう。」

ヌヴィレットは即答し、フォカロルスと固い握手を交わす。2人とも一見微笑んでいるように見えるが、脳内では既にありとあらゆる策を練り始めていたため、目は全く笑っていなかった。まるで、悪神と悪龍が手を組んで悪巧みをするような恐ろしい絵面である。

時間が惜しい。直ちに草案を練るとしよう。」
「名案だね。あっ、でも良いのかい?もうすぐ定時だけど。」
「構わない。今日は帰れないと、今から屋敷の者に連絡するので。」
「ははっ!さすがは最高審判官殿だ、頼もしいね。キミがここまで本気になってくれるなんて嬉しいよ。フリーナのこと、大好きなんだね?」
……無駄口を叩いている暇はない筈だ。早くそこに座りたまえ。まずは殿下の案を聞こう。」

ヌヴィレットはフォカロルスへ、来客用ソファーへの着席を促す。それからすぐにデスクの引き出しからまっさらな紙を取り出し、サラサラとペンを走らせ、フォカロルスの言葉を書き留めていく。時折ヌヴィレットも意見し、草案は空が白むよりも早くーーーーたったの一晩で完成した。

よし。これなら頭の固い大臣達も納得してくれそうだ。彼らを全員納得させることができれば、お母様も頷いてくれると思う。」
「それは良かった。私は立場上、表向きは公平公正に振る舞わなければならないが、万が一賛成票が足りない場合の立ち回りは任せたまえ。上手く可決へと誘導しよう。」
「ありがとう、ヌヴィレット。それじゃあ僕は部屋に戻って一眠りしようかな。」
「ああ、私も一度屋敷に戻ろうと思う。」

フォカロルスはあくびを噛み殺しながら踵を返す。執務室を出る直前、小さく振り返り「そういえばさ、」とヌヴィレットへ話しかけた。

「今日の裁判は午後からだったよね?午前中、急ぎの仕事はある?」
「いや、午前は特にないな。簡単な書類整理くらいだろうか。」
「そっか。じゃあ半日休みなよ。昨日帰してあげられなかった分、メリュジーヌ達とゆっくり過ごすといい。」
「助かる。では休暇届を提出するので、少々お待ちいただけるだろうか。」

ヌヴィレットは休暇届を記入し、フォカロルスに渡す。フォカロルスはその場で承認し、今度こそ解散した。