pinopipi
2026-07-14 08:08:32
26803文字
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きみがいい

ヌヴィフリ/貴族パロ/捏造&改変だらけ/1P目の注意書き必読


「じ、女王陛下、並びにフォカロルス王女殿下、フリーナ王女殿下!ヌヴィレット大公閣下が至急謁見を求めておられます。如何なさいますか。」

ヌヴィレットが屋敷を飛び出してから数十分後。ヌヴィレットは王城に到着してすぐに女王への謁見を申請した。
女王の元へ伝達に来た兵士が若干怯えている。どうやらヌヴィレットが物凄い形相で迫ったらしいということが容易に想像できた。

「来たね。僕の予想より少し早かったな。」
「うぅっすごく緊張してきた
「フリーナ、大丈夫よ。王女らしく自信を持って堂々としていなさい。」

3人が兵士に聞こえないくらいのボリュームで短く会話をした後、エゲリアが「通しなさい。」と兵士に命じる。
すると、すぐにヌヴィレットが息も整わぬまま3人の前に現れ、想像通りの恐ろしい表情で高みの王座を見上げた。そして先程受け取った文書ーーー所々折れてしまっているーーーを懐から取り出し、高々と突き出した。

「女王陛下、この文書についてご説明いただきたい。何故私をフリーナ殿下の婚約者に?」
「あらあら。挨拶もなしにヌヴィレットの坊やはせっかちね。」

焦りを見せるヌヴィレットとは対照的に、エゲリアは王座から優雅に微笑む。

「そこに書いてある通りよ。ヌヴィレット、貴方をフリーナの婚約者に指名します。理由はーーーー」

エゲリアが理由を述べようとしたその時。女王の傍に控えていたフリーナが口を開いた。

「ぼ、僕がお母様にお願いしたんだ!」
「は?!」

ヌヴィレットの視線がフリーナに移る。全く余裕のないヌヴィレットの顔が、目が、あまりにも恐ろしい。フリーナはびくりと肩を震わせ、色違いの瞳にじわりと涙が滲んだ。

「うぅっやっぱりキミは僕と結婚するのは嫌かな?」

フリーナは俯き、今にも消え入りそうな声で問いかけた。ヌヴィレットは一瞬言葉を詰まらせたが、動揺と困惑を隠さぬまま疑問を投げかけた。

「っ、嫌とか、そういう問題ではなく!何故私なのだ?!私は、フリーナ殿下の婚約者には相応しくないと思うのだが!」

そんなヌヴィレットの必死の言葉に、エゲリアとフォカロルスが大きく首を傾げる。

「あら、そうかしら?とってもお似合いだと思うけれど。」
「うんうん、僕もお母様と同じ意見さ。ヌヴィレット、キミのフリーナへの愛はこの僕が認めているんだよ。それなのに、フリーナの婚約者として相応しい男がキミの他にいるとは思えないなぁ。」
「ふふ、フリーナのことが世界で一番大好きなフォカロルスがここまで認めているのは貴方くらいよ。もっと自信を持ってちょうだい。」

しかし、今度はヌヴィレットが首を傾げた。まるで理解できない、といった表情で。

「っ、だが!私はっ
ヌヴィレット、」

ヌヴィレットが反論しようとした、その時。フリーナは王座の傍から離れ、静かにヌヴィレットへ近付いた。
フリーナは、強く握り締められていたヌヴィレットの手にそっと触れる。それから、今にも泣きそうな表情でヌヴィレットの顔を見上げた。

「僕が、キミと結婚したいって我儘を言ったから嫌な思いをさせてしまったね。ごめんねキミは"王女の僕"なんて興味ないし、す好きじゃない、よね。」
「なっ
「お母様、姉様。やっぱり諦めるよ。婚約の話は取り下げて欲しい。僕の我儘でヌヴィレットを困らせたくない。」
「フリーナ
「ヌヴィレット、本当にごめんね。キミの気持ちも考えずに一方的に結婚して欲しいだなんて……僕が間違ってた。」

フリーナは涙をいっぱいに溜めながらも、こぼさないように必死に堪えていた。

「キミにはもう迷惑をかけないようにするからだから、これからもキミを好きでいることだけは許して欲しいな。」
「っ!?」

フリーナはヌヴィレットの手を離し、溢れた涙を隠すように背を向けてそのまま走り出す。
ヌヴィレットは引き止めることもできないままけれど、走り去るフリーナの背中へ無意識に手を伸ばしていた。先程までの恐ろしい形相が嘘だったかのように、すっかり表情が抜け落ちている。
フォカロルスはヌヴィレットをじとりと睨んだ。エゲリアは残念そうにため息をついている。
場の空気が凍りついたような感覚に、ヌヴィレットは困惑した。

「ヌヴィレット〜?僕のフリーナを泣かせた罪は重いよ。」
「こ、これは、私が悪いのか?」
「そうね、無自覚は時に大罪よ。」
「無自覚?な、何を
「はぁここまでお膳立てしてあげてもまだ自分の気持ちに気付かないのかい?鈍過ぎて呆れたよ。」
「自分の、気持ち
「いいのかい?フリーナはもうキミと会わないつもりかもしれないよ?」
「っ、」
「そうね、あの子は貴方に振られちゃったと思っているだろうから暫くは部屋から出て来ないでしょうね。」
「ああ、可哀想なフリーナ。勇気を振り絞って初恋の相手に結婚を申し込んだのに、こんな振られ方をしてしまうなんて。」
「〜〜〜っしかし、」
「「いいから早く追いかけて。」」

ヌヴィレットはエゲリアとフォカロルスに言われるがまま、追い出されるような形でフリーナの後を追いかけた。だが、ヌヴィレットにはフリーナが一体どこに行ってしまったのか見当も付かない。広間、書庫、食堂、執務室、中庭……思い付く限りありとあらゆる場所を探したが、フリーナの姿はどこにもなかった。
広い王城内をくまなく探し……残るは最上階にあるフリーナの部屋のみ。ヌヴィレットは一瞬諦めようかとも思ったが、フリーナを傷付けてしまったという罪悪感があり、やはり謝らなければと最上階へ繋がる通路へと足を運んだ。
警備の兵士に声を掛け、通行の許可を得る。いくら大公といえども王女の部屋を訪ねたいなどと言えば容赦なく門前払いを食らってしまうのではと思ったが、案外あっさり通されてしまった。おそらくヌヴィレットがフリーナの婚約者として正式に王城内へ通達されているからだろう。そう考えると、なんだかとても気恥ずかしくなったーーーーが、何故だか全く嫌な気はしなかった。

フリーナの部屋へ向かう道中、ヌヴィレットは考えた。
仮に、フリーナを娶るとする。あの、美しく可憐な王女殿下を。この世界で最も尊い我が国の宝ーーーーフォカロルスの洗脳といえば聞こえは悪いが、今ではヌヴィレットも何の疑いも無くそう思っているーーーーに愛されているのが他でもない自分であるというのは、この期に及んでまだ信じられなかった。だが、先程のフリーナの『僕が、キミと結婚したいって我儘を言ったから』『これからもキミを好きでいることだけは許して欲しいな』という発言からして、彼女から本気で好意を向けられていることは明らかである。いくらヌヴィレットが色恋沙汰に疎いとはいえ、本人から直接"好き"や“結婚したい"とはっきり言われたならば、その好意が友愛ではなく恋愛的な意味であるということを理解できる。
ぶわりと顔に熱が集まり、心臓が煩く暴れて痛みを感じた。

ヌヴィレットは思わず、フリーナとの結婚生活について想像をした。
屋敷に帰れば毎日フリーナがいる。メリュジーヌ達と仲良く他愛のない会話をしながら笑う彼女の姿が目に浮かんだ。ヌヴィレットがフリーナの名を呼べば振り返り、愛らしい笑顔で『ヌヴィレット!』と名を呼び返してくれるだろう。
ロマリタイムフラワーや湖光の鈴蘭が咲く屋敷の庭で時折開催する小さな茶会。紅茶とケーキを美味しそうに味わう彼女の笑顔を隣で眺めながら、ヌヴィレットは水を堪能する。なんと穏やかで幸せなひとときであろうか。
結婚すれば、未だ誰にも見せたことのないフリーナの特別な表情を日常の中できっとヌヴィレットだけに見せてくれるだろう。もし許されるのなら、心の柔い部分のひとつひとつを暴くことだって………

それは、舞台上で輝く彼女を観客席からだだ一方的に見上げるだけの日々よりも何十倍何百倍も魅力的だと感じた。
そう気付いた時、ヌヴィレットは自分の心の中にずっと存在していた温かな感情が一体何なのか、ようやく理解した。だが、フリーナの婚約者に指名された瞬間のような動揺や困惑は一切ない。ただ、先程フォカロルスから言われた『鈍過ぎて呆れた』という言葉はもっともで、『無自覚は時に大罪』と言った女王の評価は的確だと思った。
ヌヴィレットの思考は、どうすればここから挽回できるかという議題にシフトする。もしかすると、フリーナに嫌われてしまったかもしれない。婚約者としてヌヴィレットを望んだことを後悔しているかもしれない。もう顔も見たくないと、思われても仕方がない程に傷付けてしまった自覚がある。
だから一刻も早く誠心誠意フリーナに謝罪をして、少しでも誤解を解きたい。ヌヴィレットもフリーナへ恋心ーーー或いは、同じ種類の愛を抱いているのだと伝えたなら、フリーナは一体どのような反応をするだろうか。

長い長い階段を上がり、やっとフリーナの部屋があるフロアに辿り着いた。ヌヴィレットは急ぐ気持ちを抑えて一度立ち止まり、乱れた髪や服装を正してから再び目的地へ真っ直ぐに歩みを進めた。

フリーナの部屋の扉の前にはクロリンデが立っていた。「フリーナ殿下と話がしたい」と一言断りを入れる。するとクロリンデは何も言わぬまま一礼をして静かにその場を離れた。
ヌヴィレットはクロリンデの足音が聞こえなくなってから、扉越しにフリーナへ話しかける。

フリーナ殿下。私だ。どうか、もう一度話をするチャンスを与えてもらえないだろうか。」
…………

部屋の中にフリーナの気配は感じるものの、息を潜めているようで動く様子は全くない。
しかし拒絶もないことから、ヌヴィレットは沈黙を肯定と勝手に解釈をして話し始める。

「まずは謝罪をさせて欲しい。すまなかった。私は、殿下のなことが嫌いだとか、興味がないだとか、決してそういう訳ではなく……ただ、」
…………
「私は殿下に不釣り合いだと、そう思ったのだ。私はいつも観客席から殿下の演技を一方的に観ているだけのいちファンであり、舞台上に上がることはおろか、指の一本でさえ私が手を触れて良い相手ではないとそう思っていたから

ヌヴィレットは扉にそっと手を触れる。扉に施された金製の装飾が、手袋越しでもやけに冷たく感じた。
ふと、叶うことならこの手でフリーナの肌に触れてみたいと思ったが、まずはこの気持ちを伝えなければ何も始まらないと自らを諌めた。

「初めはコリオの演技に夢中だった。しかし……気付けば王女、フリーナ殿下自身に惹かれていた。恥ずかしながらたった今ようやく自覚した感情ではあるが、私は殿下のことを誰よりも特別に思っている。今までも……そして、これからも。」

扉の向こうから、小さく息を飲む音が聞こえた。フリーナの足音が一歩、二歩と近付きーーーしかし、扉は終ぞ開くことなく、足音はぴたりと止まってしまった。
暫く待ってみたものの、フリーナは沈黙したまま動く様子がない。
ヌヴィレットは眉を下げて薄く笑みを浮かべる。それから、とびきり優しい声色で扉の向こう側にいるフリーナへ再度話しかけた。

3日後、また会いに来る。もし嫌でなければ、今度は顔を見せてもらえたら嬉しい。」

フリーナは、切実に懇願するヌヴィレットの声に驚き、その場から動けず、声すらも出せなかった。
そして数分後。ヌヴィレットの去る足音が完全に聞こえなくなってから、ガチャと扉が開く。
泣き腫らした瞼を隠すことなくフリーナはきょろきょろと辺りを見回したが、当然ヌヴィレットの姿はない。しかし、微かにヌヴィレットの香水の香りがその場に残っていた。フリーナは先程のヌヴィレットの声が幻聴ではなく確かに現実だったのだと知り、顔を真っ赤に染めながらその場にへたり込んだ。