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pinopipi
2026-07-14 08:08:32
26803文字
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きみがいい
ヌヴィフリ/貴族パロ/捏造&改変だらけ/1P目の注意書き必読
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王都の片隅にある小さな劇場は、今夜も満員御礼だ。立ち見席まで定員以上の人で埋め尽くされ、賑わいを見せていた。
劇団のトップスター・コリオが舞台に立つ夜は決まって快晴で、瞬く無数の星々すらもその演技を見逃さまいと集う観客のようであった。
コリオは彗星の如く現れた演劇の天才である。舞台に立ったその瞬間、彼女の表情・声色・所作は万象一切、全ての者の視線を奪い、魅了する。だが、残念なことに彼女はこの小さな劇場のソワレにしか出演しない。それに、コリオという名前と性別以外、個人情報は一切明かされていなかった。本人の意向で取材はNG、顔写真の掲載もNGで、劇団に在籍する役者の中でコリオだけがブロマイドの発売がされていない。ファンからは残念がる声が多数出ているが、むしろそのミステリアスさこそが人々を惹きつけ魅了し続けているのだと、とある新聞記者は語る。
フォンテーヌ王国で唯一、大公の位を賜っているヌヴィレットも、コリオの演技に魅了された観客のひとりだ。この劇団には彼の忠実な家臣にして慈しむべき家族でもあるメリュジーヌが数名在籍しているため、毎月一定額の資金援助をしている。その関係でヌヴィレットは毎公演必ず良席ーーー最前列中央で観劇をしていた。初めこそメリュジーヌの晴れ舞台を見守る目的で観劇していたが、最近は兎に角コリオの演技に夢中だった。ヌヴィレットはコリオが初めて舞台に立った瞬間の第一声ですぐに彼女の世界に引き込まれた。それから早半年、今では毎公演コリオ個人宛てに大きな花束を用意し、前回の舞台の感想を仔細に書き綴った分厚いファンレターを添えて贈る程、彼女を熱心に推している。
ヌヴィレットの推し活はそれだけに止まらず、彼女がより良い環境でのびのびと舞台活動ができるよう、先月からは支援金を何倍にも増額した。それによって劇団総プロデューサーのグザヴィエを震え上がらせる程に驚かせてしまったのは記憶に新しい。
このようにヌヴィレットが水以外のものに執心することは非常に珍しいことであり、彼のプライベートに関してもよく知るメリュジーヌ達ですら驚く程であった。
ヌヴィレットは今日も、期待に満ちた瞳で舞台を見上げ、熱烈な視線でコリオの姿を追う。彼女の演技は素晴らしい。彼女が演じれば、幻想も虚構も全てが現実であるかのように感じさせられる。心地良い非日常感に、ヌヴィレットは思わず感嘆を漏らした。感情を揺さぶる美しい歌声は、舞台照明よりもコリオを明るく照らし、輝かせる。舞台上を自由に舞う彼女の動作は頭の天辺から爪先まで美しく、伝承に語り継がれている水の精霊が本当に実在していたのならばきっと彼女のように美しかったに違いないとヌヴィレットは確信し、目を細めた。観客は皆、コリオの輝きに圧倒されている。だが、例えコリオが観客の目が眩む程に輝きを放てども、ヌヴィレットだけはただ真っ直ぐに彼女の姿を視界の中心に捉え続け、たった一度の瞬きすらも惜しんでいた。写真にも映影にもレコードにも記録されない一夜限りの舞台だからこそ、彼女の演技の全てをこの目に焼き付け、鼓膜に歌声を記憶しなければならないと、ヌヴィレットは考えている。
そして夢中になって観劇していれば時間はあっという間に過ぎ去り、気付けば幕が下りていた。公演は無事大盛況に終わり、ヌヴィレットの心は今宵も満たされていた。
ーーーーしかし。
公演後。ヌヴィレットがいつものように花束とファンレターを係の者に預けた後。劇場の外でメリュジーヌ達を待っていると、その朝焼けの瞳は今この場所にいる筈のない人物の姿を捉えた。
「
…
フリーナ殿下?」
「
…
っ!」
淡い青が混じる白波のような美しい髪。特徴的な青のオッドアイ。やや幼なげで控えめな雰囲気。それはこの国の第2王女ーーーフリーナ・ドゥ・フォンテーヌその人であった。
「殿下、何故コリオの衣装をーーー」
しかし、ヌヴィレットが疑問を投げかけるよりも前にフリーナはフードを目深く被り、その場から逃げるように去って行った。
その瞬間、突如暗がりから姿を現した紫髪の女性がヌヴィレットの方を振り返らないまま、フリーナの後を追うように素早く走り去った。あれは確か、フリーナの近衛・クロリンデ。つまり、あれは本物のフリーナであることを示していた。
ヌヴィレットは混乱する。何故夜遅くに王女がこのような場所にいるのだろうか?何故、コリオの衣装を着ていた?王城の警備体制はどうなっている?だが、近衛と共にいたということはつまりーーーー
ヌヴィレットは思考を巡らせ、考える。何度も何度も劇場へ足繁く通ってこの目に焼き付けたコリオの姿と、第2王女フリーナのシルエットが重なる。背丈、体格、顔付き、声質。今改めて思い返せば、それらが全て一致することに気付いた。コリオの所作は常に指の先まで美しく、髪の一本でさえも乱れを知らない。きっと育ちが良いのだと勝手に思っていたが、その正体が王女であるのならば納得がいく。あれは幼少の頃から特別な教育を受けていなければ身に付けられない品性であり、平民には真似のできないものだ。特徴的な瞳と髪の色は違っていたが、それらはカラーコンタクトやウィッグ等でどうとでも変えられる。むしろ正体を隠すために使用していたのだろうと推測するのは容易だった。大きな瞳、小さい鼻、綺麗に弧を描く薄い唇、陶器のように透き通る白い肌は可憐な薔薇色に色付いていて。ソワレにしか出演しない理由も、彼女の正体を知った今なら理解ができた。
ーーーーゆえに間違いない。コリオの正体は第2王女フリーナなのであると、ヌヴィレットはそう確信した。
いつも次期女王である第1王女フォカロルスの後ろに隠れ、あまり目立たない大人しい第2王女が。まさか、これほどまでに堂々と大勢の前で素晴らしい演技と美しい歌声を披露する逸材であったとは。
刹那、ヌヴィレットの胸の奥にじわりと熱が湧き立つ。それと同時に生まれた温かな感情の名を、この時はまだ知る由もなかった。
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