私は歩きながらでも、先程メモしたパスワードを共有するつもりだった。けれどそれは、剣城に静止されてしまう。
「パスワードさえあれば、勝手に閲覧できます。単独行動を許してしまう。伏せてください」
ツンケンするくせに集団行動に対して協力的だなあと不思議に感じた。彼なりの最善を尽くす上で、非合理的な事に対して悪態が出るタイプなのであれば、確かに綾瀬や蔭山、NEMIちゃんとは相性が悪そうだ。
「(なんだか、意地悪してるみたいで気分が良くない
……)」
要は、私の持つパスワードを皆知りたい。教えてもらうにはついて行くしかない。そんな意図はサラサラないのだが、状況的にそうなってしまっている。はぁ、と嫌なため息が漏れた。薄暗くなった地下都市を16人でゾロゾロ歩くのも、もう少し楽しい気持ちなら幾分マシだっただろう。疑心暗鬼と、これだけの人目の数があれば大丈夫という、ある種の綱渡り状態が緊張感を強める。
「多分ここだよ、レストラン。開いてるかな
……」
噴水広場から北上したあたり。左前方の大きな建物に、ぼんやりと明かりが灯っている。
「見るからにそれっぽいな。でもオレらこのあたり彷徨いてたんだけど、明かりなんてついてなかったよな?」
「それに賛成だ!
……であります。建物の照明は全部消えててまっくろくろすけじゃったぞい」
この方向は、綾瀬と蔭山が歩いてきた12時のエリアだ。NEMIちゃんと私が降り立った場所もこんな感じで薄ぼんやり閑散とした雰囲気で、建物に明かりはついていなかった。点灯はおそらくラプラスがやったのだろう。
「な、中に誰かいたりしないかしら〜
……?」
「こ、怖いこと言うなよ福ちゃん
……!! オレそういうのダメなんだって
……!!」
「ゾンビ映画やったらバァーン!!やなあ。
……え、イヤイヤイヤ開けるとか絶対無理無理無理無理!! 見てこんなにか弱いおれ。ひとたまりもないでホラ、ようたろうくん5ちゃい」
そりゃ必然的に、扉にいちばん近い人が開けると思う。視線を独り占めして冷や汗をダラダラかいた難波は
か弱いアピールをする。
「それ押すなよで押せよ的なフリ?」
「あそれボクも思った。テレビで見たことあるやつ」
「アホ抜かせほんまに嫌やねん、ホラーもジャンプスケア系が、」
「はやくすすんでください。うしろがつまってます」
がちゃ。なんの躊躇いもなく鷹栖さんが扉を開けて中に足を踏み入れた。チリンチリンと軽快なベルが鳴る。
「「ギャー!!!!」」
「煩いですよ! ちょっとは落ち着いた行動ができないんですか貴方たちは!!」
「賑やかねぇ。さっさと入りましょ」
「元気なのは良いことだと思いますわ。こんな状況ですし
……」
「とはいえ緊張感なさ過ぎだし。いいんだか悪いんだか」
ゾロゾロと続いて中へ。元気だけど心臓の小さい綾瀬と難波はギャーギャー騒ぎ、それを見て爆笑するあおい。それに比べて如月さん、宝生さん、NEMIちゃんの
スクールカースト上位の落ち着きたるや。
「ほのかお腹空いたー。誰かごはん作って」
「
………じつは私も、くうふくがつらみです。力がでない
……」
レストランは2階建て構造。1階は調理場と食事スペースが設けられており、2階はテラス席と室内ラウンジが併設されてるらしい。ドタドタと元気組がレストラン内を探索して報告してくれた。
「地下だから時間の感覚が変になるわね〜今って何時かしら〜
……?」
「19時9分、ちょうど晩ごはんの時間だよ!」
「ホントね。もうそんな時間?」
あおいは懐中時計を。如月さんはスマートウォッチを確認した。いずれも同じ時間を示しているそうだ。私の携帯の待受画面にも同じ時刻が表示されているし、ちょうどお腹も空いている。色んなことがあって麻痺しているが、普通に夕飯時だ。
「んじゃ、晩御飯食べてから色々話しよ! この中で料理できる人いる?」
シーン。全員が他人に押し付けようとする、または授業中先生に当てられないよう目線をそらす動きをした。超高校級の料理人、シェフ、板前
……誰かしら居てくれたらよかったのにね。
「
……逆に苦手な人、または自信の無い方は?」
「ハイッ! 得意料理はカップ麺!!」
「卵かけご飯は料理の内に入る? オレめっちゃ得意」
「あたしも料理無理! 見てこの爪、料理する気ゼロ」
「俺ん家シェフがやるからねー。パスで」
「わ、わたくしもお恥ずかしながら
……料理人の方がおりまして、からっきしですの
……」
「たとえ死んでも、おれは女は蹴らん
……! けど、残念ながら吾輩非コックどす」
「フヒ
…………お、奥は料理なんて
………そんな時間すら勿体ない
……」
「アタシパス。専ら外食だから作らないの」
「ほのかは農家さんだから、材料専門なの」
「たべ専です。まことにかたじけないなの」
自信の無さを自信ありげに言うのはどうかと思うが上から順に、難波、綾瀬、NEMIちゃん。お金持ちで料理の機会がないらしい早乙女と宝生さん。蔭山、奥さん、如月さん、御畝さん、鷹栖さんもダメらしい。
「(無言で目をそらす)」
「"ごめんなさいm(._.)m"」
九十九がふい、と若干冷や汗をかきながら目を逸らし、ヤミクモくんはブンブンと首を横に振っている。携帯の画面の顔文字も謝罪の意を示しているようだ。
「申し訳ありませんが、僕も
門外漢ですので」
剣城もダメらしい。少しずつ目線がこちらに集まってくる既視感、デジャブ。なんだかとんでもない事になりそうな気がする。可能なら今すぐここから逃げ出した方がいい。
「
……未回答なのはキミらだけだよ、綴りんちゃん?」
もうヤダ。この人たちキライ。
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