望野おもち
30059文字
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DRAPLS/Prologue④

楽しんで書けました。頑張って読んでください。
感想などは #DRAPLS を付けたりfusetterを使ったり何なりでお願い申し上げます。


……あ、あのさ! とりあえずなんかその、校則だっけ? 確認しようよ! このままウジウジしてても何にもならないし!」
「そ、そうだな! さっきラプラスが言ってたパスワードとかってあれ、Wi-Fiっぽいし! ワンチャン外に助け呼べたりすんじゃね」

 疑心暗鬼の重い空気、文字通り薄暗くなった地下都市の中、一番に口を開いたのはNEMIちゃんだった。超高校級のラクロス部綾瀬あやせもそれに追随した。

「いや〜どうかな。外に連絡できるなら苦労しないでしょ。多分校則の閲覧とか、よくて内々で使う連絡手段程度じゃない?」
「それよりどこか座れたりする場所とか無いかしら。とりあえず休憩しない? アタシヘトヘトなんだけど。足痛いし喉も乾いたわ」
「でっでででっでもでもでもでも、こ、こっこの中に絶望の残党さんがいっいいいる事はかかかか確定ですよね…………? い、いっ一緒にいるのここここ怖くないですか…………お、おお奥はその、できたら独りにしてほしいというか、関わりたくないというか……

 考え方、価値観、全てがバラバラの超高校級。人によっては俗世離れした、文字通り雲の上の存在までいる。心情的には先程のNEMIちゃん、綾瀬に同意だ。集団の雰囲気がすこぶる悪いのを何とかしようと努めて明るく振舞っている。このままバラバラになって疑心暗鬼バトルロイヤルのようになれば、武力でも知力でも劣る私は超高校級の人たちの的そのもの。
 ただ、事実ベースで考えるなら諦観スタンスの早乙女、関わり合いを拒否する奥さんの言葉を否定しきれない。

「それに賛成だ、と同意しておきます。し、しし、死にたくないお、こんなとこにいられっか、部屋に帰らせてもらう! 状態なんですが! フラグなんか知るか! フラグクラッシャーに、おれはなる!!!!」

「しょうにんできません。ふたりとも、かってな行動はつつしんで」

「ギョエ!?」「オッフ」

 地面はコンクリートのような固い素材。私の膝だって擦りむくほどの、よくある地面だと言うのに、ガン!と鈍い音が巨大地下都市に反響する。先程低い姿勢だったはずの鷹栖さんはもうその場におらず、俊敏な猫のようなしなやかさで身を躍動させ、この広場から逃げようとした奥さん、蔭山の前に着地。ガン!は着地の際地面にできたブーツの踵が地面を抉った破壊音。……あの人コンクリ割ったよ。

「ひ、ひ、ひぇ…………!? こ、こここ、殺すつもりですかーーーーッッッッッ!!!?!?!?!!!?!」
「わーおパワフル。ものすごい身のこなしとコンクリ破壊、拙者でなきゃ見逃しちゃうね」

 すっかり腰を抜かした奥さんは無論取り乱しているが、鷹栖さんに殺意はないようで。大きなインバネスコートをささっと払ってマフラーを整えると、スンと無表情に戻った。

「さ、流石に規格外過ぎ………キミ体力自慢でしょ、勝てるのアレ……
「どっからどう見ても人の動きじゃねーだろ勝てるかふざけんな!!」

 先程小学生みたいな小競り合いをしていた早乙女と綾瀬がヒソヒソしている。どっちも声が震えていた、仲が悪いようで案外ただの同族嫌悪なのかもしれない。

「ころすなんてとんでもない。……あ。もしかして、こわがらせてしまいましたか。……………やっちまった」

 今の状態をまとめると、この地下都市に閉じ込められて、この中に絶望の残党が紛れ込んでいる。ラプラスはその場合、絶望の残党対策規定に則って施設ごと破壊する必要があるらしいが、超高校級の高校生はかつて超高校級の絶望に勝利した実績がある。希望と呼ばれる超高校級の高校生は特例としてラプラスの破壊行為の保留を求めることができ、その権限を行使して今に至る。こんなところだろう。

 なら優先するべきはまず、身の安全。そのために必要なのは、ラプラスが提示する校則の理解だ。これを犯す事があれば絶望の残党以前に、ラプラスに殺される可能性がある。共通理解を持ち、正しい手順を踏めば、きっとさっきのように話がちゃんと進むはず。

「あ、争ってる場合ですか!? これだから凡人の脳みそは……今はとにかく、ルールの確認が先でしょう! なぜ分からないんです!!」
「ひ、ヒィィィ………………!! や、やややや、役立たず無能ゴミカスに怒鳴ったって何もなりやしませんよおおおお………!!!!!」
「む。あらそってなどおりません。わたしはただ」

 タタタタ、とパスワードを打ち込んでみれば、自動でアプリが複数インストールされる。めぼしいのはやはり校則だ。他は後で確認するとして、ホーム画面に出てきたラプラスアプリを躊躇なく起動した。

「もー! なんでもいいからどうするか決めるの。めんどくさーい! ほのか疲れたの!」
「みんな喧嘩しないで! 全員で一緒の方がいいよ、ほらその方が相互監視になるでしょ、ね! ボク平和なのがいいと思うな」
「せやせや! 多分! 絶対! おそらく!」
「"ケンカはよくない"(アワアワしている)」

 意見がぶつかって摩擦が強くなる。ここにいるのは様々な領域で未来を引っ張る超高校級の希望たちだ。個性の強さだって超高校級。歪な形のパズルがいきなりカチッとうまくまとまる訳がなかった。 

……こ、校則! みんなで見よう、その……今は、絶望の残党対策規定13条で猶予してもらってるに過ぎないから。絶望の残党に殺されるか、ラプラスの施設破壊か校則違反で死ぬか、ラプラスの言う市民として正しく保護されるか、3つに1つしかないよ」

 ちょっと言葉がキツかったかな。ちゃんと伝わったかな。なるべく刺激したくないけど、事実は事実。その上で不安は1つずつ取り除いて良い方向へ持っていきたい。私は画面を明るくして自分の携帯の画面を皆に見せた。細かい文字が並ぶ校則が閲覧可能となっている。

「私が暗闇の中で何を言ったかもちゃんと説明します。だから今はちょっと落ち着いて、話をしよう。大丈夫、さっきの電気消える前みたいに意見を出し合うだけだし………絶望の残党だって、紛れ込んで隠れてるならって事じゃないかな。できるならもう瞬殺でしょ」

 15人分の視線が刺さるのはとてもじゃないが居心地が悪い。元々大人数の中で話すのは慣れていないし苦手なのだ。でも走り出したら、走りきる選択肢しかない。

「た、確かに……? そもそも同じ空間にいること自体謎ですな……? 今即座にデストロイ、もっとさらに言うなら地下都市で全員集合!する前のバラバラの段階で各個撃破されとるハズ……?」
「そうしないって事は多分、ラプラスの校則とか……何らかに障害があるからできないんだ。ならちゃんと正しくルールを理解して、どうするか話し合えばそんなに怖くないはず、だって」

 だって。なぜなら、ここにいるのは才能溢れる未来の金の卵たち。世の中を牽引し、日本を良い方向へ導いていく希望の光。だからこそ、正しく力を合わせたらきっと。

「だって──あたしたち超高校級だからね! ほら、休戦休戦。みんな気が立ってるだけだって。とりあえずトリセツちゃんと読む、そっからはひとりでいるも集団でいるも自由! これで決まり! ね、ごめんけどみんなそうして。あのままだとラプラスが施設丸ごと破壊してぺしゃんこで死んでた、綴りんが何かして助けてくれたんだよ? なら、綴りんが話しよって言ってんだから1回は聞かないと」

 それは、まあ。トゲトゲしていた空気が、それなら仕方ないと少し柔らかくなる。私だけじゃきっとこうはならなかった。NEMIちゃんは私に小さくピースして見せた。流れを察して上手くまとめてくれたのだ。やっぱりNEMIちゃんは凄い。これがUtubeウーチューブなら「さすNEMI」とコメント欄が加速していたに違いない。

「なら、お茶でも淹れようかしら〜。わたし、なんだかお腹が空いちゃったし〜……その方がリラックスできるんじゃないかしら〜」
「おお! 超高校級の茶道部がいれるお茶! うまそう!」
「お抹茶点てる道具があればいいけど〜……なくても、何か温かいものがいいと思うわ〜」

 バンザイして喜ぶ綾瀬ああい難波体力有り余り勢がキャッキャしている。よっぽどお腹がすいていたのだろう。楽観的ですねと肩を竦める剣城も、食ってかかるような真似はしなかった。

「和歌ちゃん和歌ちゃん、このあたりで落ち着いて座れる場所ってないかしら〜。できれば食堂かレストランみたいな……昔人が住んでたなら、きっとあるはずよ〜」
「確かに! 利用制限?を解除とか言ってたし、建物の中入れるんじゃないかなあ。ボクまだ元気だから探しに行けるよ!」
「ほのかも何か食べたい、ほのかも探すー!」
「綴りんちゃん画面見せて。マップの機能とかない?」

 場の雰囲気が一気にまとまった。おお、と内心感動していると私の手元の携帯を覗き込む早乙女の顔が近い。おお、の次はうわ、だ。切れ長の目に吸い込まれそうになる。

「さっきWi-Fiのパスワードメモしたでしょ。それで見たのは多分ラプラスの言ってた校則。詳しくはラプラスアプリ?とか言ってたしね」
「(自分ので見ろよとは言えない……)」

 私は身長が163cm。平均よりは少し高めで、スラッとしてると言われるのは数少ない自慢のひとつ。おそらく私より20cm以上背が高い早乙女は一挙手一投足が世の女性をときめかせる、のだと思う。断定しなかったのは、その顔面ビームが私に効かないからだ。

「ラプラスアプリの中に何個か入ってるみたいで……あった」

 分からないままポチポチしていると、先程流し見した校則の他に施設マップの項目を見つけた。他の機能もゆっくり読み込んでいきたいが、今優先すべきではない。

「レストランがある。そんなに遠くないよ」