「(
……で、今日はお開きになったけど
……)」
レストランを出たのが21時半。夜時間まで残り30分。私たちはレストランの隣に並ぶフラットタイプのアパートにやって来た。室内を全て確認したが全く同じ構造で、怪しい荷物も特に無かったため好きな部屋を適当に選んで入室することになった。詳しく誰がどの部屋に入ったかまでは、疲労困憊の脳で全員分処理しきれず明日の自分へ任せることにする。
今日最も悪い運勢なのは牡羊座のあなた。
細かい「ツイてない」が重なった日。ショッピングモールで絶望の残党に襲われた日。恐ろしく高いハシゴを命綱無しで降りた日。沢山歩いて、転んで、怖い目にあって、勇気を振り絞ったり、何人ものご飯を作ったり。こんな濃い1日は、この先の人生でそう何度もないだろうと思いたいほどの情報量が、そろそろ容量の限界に達しそう。
「(
……だめだ、このまま寝たら朝まで起きない)」
朦朧とする意識をなんとか引っぱたいて、洗面所でコンタクトを外す。湯船に浸かったら間違いなく寝落ちするし、熱いシャワーだけにした。タオルや支給品の下着類、ワンピースタイプのナイトウェアは未使用のままクローゼットの中に入ってて、疑問より先に封を開けていた。考えるのはもう無理、明日。私のスイッチはもう切れている。
「ゥ"~~~~
………」
いつもなら寝る前に明日の時間割の教科書を準備して、宿題忘れがないか確認して、のんびり寝落ちするまでゴロゴロするのだが、もうそんなエネルギーは1ミリたりとも残っていない。ベッドに倒れ込むと、壊れたおもちゃのガビガビの電子音のような声が漏れ出た。
ゴロンと仰向けになった。フラットタイプの2階部屋。確か1階は一福さんがお隣さんね、と言いながら手を振って入っていったっけ。
「(
…………あ、
………ん? あれ? ちょっと待って)」
色んなことを沢山見落としていないか。そういえば違和感はなかったか。
◆ラプラスが夜10時をお知らせいたします。
これよりラプラスはスリープモードとなります。
市民の皆様におかれましても、
どうぞごゆっくりお休みくださいませ。
◆超高校級の図書委員 綴目 和歌子 様
ラプラスの権限により当個室は
「鍵」で完全に施錠されました。
これより朝7時までの退室はできません。
予めご了承くださいませ。
◆それでは良い夢を。
「(イージスの鍵に選ばれた
……のか?)」
瞼がどんどん落ちていく。
「(これ、報告したら、ダメなんだよね
……)」
瞼は閉じ、間接照明のぼんやりした明かりすら視界の外。
「(
……ていうか
……そもそも
……)」
意識が薄くなっていく。ふかふかのベッドに吸い込まれて、まるでベッドの一部になるような。
「(
……絶望の、ざん、とう)」
こんな人数の誘拐と、大規模な地下空間。さっき目が合ったのは1人だったけど、果たしてそれは、本当に1人だけなのだろうか。
1人の力ではなし得ないほどの、大掛かりな計画だぞ。
「(ひとり
……なわけ、無くないか
………?)」
絶望の残党が紛れ込んでいる。ラプラスはそれを1人、とは明言していない。絶望の残党は狡猾に正体を隠す。この16人の中に紛れ込んだ狼は、果たして何人なのか? 複数いたとして、束になって襲われでもしたら、イージスの鍵なんて役に立つのだろうか。
「
………………」
他にも見落としがあるのでは。違和感は。おかしな部分は。推理小説の手掛かりを拾い損ね慌ててページを戻すように、今日の記憶を遡ろうとする私の意識はまるで激流に逆らっているようで。異常な眠気が意識を放り出し、ざばんと溺れるまで全く時間はかからなかった。
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