望野おもち
30059文字
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DRAPLS/Prologue④

楽しんで書けました。頑張って読んでください。
感想などは #DRAPLS を付けたりfusetterを使ったり何なりでお願い申し上げます。



 今日最も悪い運勢なのは牡羊座のあなた。買い物運が低下。出先でトラブルに巻き込まれそう。赤いものに気をつけて!

「(赤い目、が)」
 
◆当施設は絶望の残党により汚染されました

◆絶望の残党対策規定第11条により
当施設はまもなく破壊されます

◆ご注意ください

◆ご注意ください

 ヴー!ヴー!と不快感を増幅させるサイレンが鳴り響く暗闇。サイレンに掻き消される阿鼻叫喚。ペンを探すことも忘れて、まるでメデューサに石化させられたかのように、私は指一本すら動かすことができない。口の中が渇く。喉が張り付いて呼吸が浅くなり、頭に血が回らないぼんやりした感じは、まるで意識と身体が切り離されたようで。

 今度こそ本当におしまい。
 為す術もなくこのまま殺されてしまうんだろう。
 星占いが最下位は当たってたんだ、ああ今日は本当にツイてない。
 お父さんお母さんごめんなさい。妹も、朝ちょっと素っ気なくてごめんなさい。

◆ご注意ください

 もっと親孝行したかったです、親不孝な娘で本当にごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、今までありが──

◆ご注意ください

「!」

 パッと淡くて小さな光が左側で点灯した。すっかり石化した私は目玉だけそちらを追いかける。携帯の待受画面の光だ。それを灯した持ち主はキョロキョロして、1番近くにいた私にすぐ気がついた。

「(危ない、光ったら居場所がバレる!!)」

 目が合ったとはいえ、右前方から私を見下ろす絶望の残党は、暗闇の中に居る私には気づいていないはず。携帯の持ち主は慌てて私の元へ駆け寄る。あの目がもしこちらに気付いたらまずい。

◆ご注意ください

「消して!!」
「!?」

 私に合わせてしゃがみ込んだ人に、このサイレンとラプラスと阿鼻叫喚の中で声は届かない。後で謝るから、と断って携帯に飛びつくように脚に力を入れた。大きな手の中にある携帯に手が届き、うまく電源ボタンに触れたようで画面の光はフッと消える。すっかり緊張で足が固まったらしく、勢いそのままその人を押し倒してしまった。

「(……ば、バレてはいない……!? けど見失った………!!)」
「だ、だい、」

◆ご注意ください

 あの目はどこへ消えた。光は一瞬だったからバレてない? ドンドンドンと心臓が痛いほど鳴っている。肺を突き破って出てくるかもしれない。落ち着け、大丈夫、多分バレてない。心配事の9割は起こらない、もしかしたらあの目だって見間違えたのかもしれない。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせることで何とかギリギリ正気を手放さないようにする。

「だ、い、丈夫!?」

 人の声が私の下から聞こえた。そういえば携帯を出した人に飛びついて押し倒したままだ。あまりの安定感に人の上だということを忘れてしまっていた。

「ヤミクモくん!? ごめん!」

 ブンブンと縦に頷いているのが揺れる様子で分かった。喋る事すら恥ずかしがって携帯の画面で会話をしていた彼、闇雲創一やみくもそういちくんを下敷きにしていたようである。確かに身長はこの中で1番大きかったように見えたし、安定感には頷ける部分がある。割と細身とはいえ私だって女子高生、それなりに体重はある。慌ててよろけながら降りた。

「あ、待って! 携帯!! 出さないで! 画面の光! 残党に位置がバレる!」

 サイレンとラプラスと悲鳴が邪魔で、腹から大声を出さないと聞こえない。理解してくれたらしく、彼は携帯を出さなかった。

「(とはいえこのままじゃ……)」

 16人の中に絶望の残党がいた。見間違いじゃなければ、赤い目がぼんやりと浮かんでこちらを見ていた。暗闇の中だから私の位置はバレていないはずだけれど、このサイレンは絶望の残党がいた事を検知した証明でもある。しかもラプラスは、絶望の残党対策規定に則ってこの地下都市を丸ごと破壊すると言っていた。このままでは諸共吹き飛ばされる。絶望の残党に殺されるか、ラプラスの完全破壊に巻き込まれるか、いずれにしろ死だ。最悪の二択過ぎる。

「(なんとか、なんとかしないと)」

 絶望の残党。赤い瞳の犯罪者。人を騙し、陥れ、あらゆるものを否定し破壊する。あの絶望テレビの中で狂ったように躍ったカリスマツインテールを崇拝する彼らを、専門家は「脳に異常をきたしている」「一種の病気だ」など、様々な論説を解いた。肝心な、じゃあどうしたらいいのか、という部分には誰も答えることができない。私たちは彼らの破壊衝動の前には無力なのだ。

 例えば喧嘩が強がったり、頭が驚く程賢かったり、何か特別な力があればよかったのに。私には何もない。超高校級の図書委員なんて何の役にも立たない。こんな異常事態に出てくるのが、勇気ではなくネガティブな劣等感なのが自分の嫌いなところだ。悔しくて情けなくて奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばった。

「(なにか、考えないと!!)」

 何か、何か何か何か何か。何か方法はないか。なんでもいい、この状況をどうにかできる何か。絶望の残党はどこに潜んでいるか分からない、誰かも不明。ラプラスは絶望の残党対策規定に従って私たちを守ってくれるはずだが、守ると言うより全部無かったことにする破壊だ。合理的ではあるが巻き込まれる側からしたらたまったもんじゃない。

「(! 絶望の残党……対策規定)」

 記憶。
 記憶には様々な種類があると言われている。脳というブラックボックスの中には、まだ解明されてない不思議が沢山隠されているらしい。

 ついさっきの記憶。すぐ取り出せる1番近い本棚の目線の先にある、手を伸ばせば届くそこに、答えはあった。駄目だったら、間違ってたら。色んな不安が摩擦を起こして火花が脳の裏側を焦がし、押し出すような勢いが私を突き動かした。

「──ぜ、つぼうの残党対策規定第13条!! ラプラス!!」

◆ご注意ください

「アルターエゴは、本規定の運用において平等かつ公正な法律と同等の最終判断権限を有する! 当該判断に対する異議申し立ては認められない!! ただし! 超高校級の能力を有する高校生に限り、特例として異議申し立てを行うことができる!!!!」

◆ご注意ください

◆ご注意ください

「ラプラス!! 超高校級の図書委員綴目和歌子つづりめわかこが、絶望の残党対策規定第11条に異議を申し立てる!!!!」