「長い長い長いわからんわからんわからん」
「無理だ、1文字も入ってこねー」
「つまりどういうことなの?」
プシュン、とまたもや頭から煙が出た
難波綾瀬御畝さんは、画面からすぐに目線を外してしまった。
「1から3は、簡単にまとめるならラプラスの言うこと聞いてね、って感じかな。逆らったらまたビービー煩くなりそうだし」
ブラックコーヒーを傾ける早乙女が、つまらなさそうに画面をスライドしている。もうおよそ理解してしまった様子だ。
「4に関しては、先程の通りですわね」
(破壊措置)
第11条
次の各号のいずれかに該当する場合、当該施設は絶望の残党に加担したものとみなし、建物ごと破壊される。
一 処理が困難であるとアルターエゴが判断した場合
二 残党又は市民が施設外へ脱走した場合
ラプラスが破壊モードになって、アラートがガンガン鳴っていた暗闇の地獄絵図。あの瞬間、私は赤い目の絶望の残党を見てしまった。この中に、あの目は擬態して紛れ込んでいるのだ。
「(
……なんか、それって悲しいな)」
皆、美味しい美味しいと食べてくれた。至って普通の、各分野で凄い高校生の集まり。超高校級の冠を貰ったまま各地で活躍する通信制を選んだ私たちは、本来こうして出会うことも無かっただろう。全員と話して分かったが、個性は各方面へ強いけれど皆悪い人ではない。だというのに、その皮を被って虎視眈々と破壊行動を目論んでいる絶望の残党が潜伏している。──そもそも絶望の残党とは。何故犯罪に手を染めるのか、何故絶望の残党に成り果ててしまったのか。
(権限)
第13条
アルターエゴは、本規定の運用において、平等かつ公正な法律と同等の最終判断権限を有する。
2 当該判断に対する異議申し立ては認められない。
3 ただし、超高校級の能力を有する高校生に限り、特例として異議申し立てを行うことができる。
「絶望の残党対策規定13条第3項を思い出して、11条の破壊を止めてもらった
……のが、暗い中私がやったことです」
「綴りんて、なんかそういう細かいトラップに引っかからないタイプだよねきっと。契約書に小さく書いてる!?的なアレ。おばあちゃんになっても詐欺とか無敵かも。あたしそのへん読み飛ばしちゃうわ」
「隅々までちゃんと見るの偉すぎ。ほんとありがとね綴りん。オレらの命の恩人」
ようやく状況が飲み込めたのか、わかってなかった組もおお、と驚嘆の声を漏らした。これが無かったらラプラスによってこの地下施設は破壊され、全員まとめて埋められていた。
「5番の鍵?って何や?」
「12番にも書いてありますね。要は──」
夜時間と呼ばれる10時から7時は、ラプラスはスリープモードになって殆どの機能を停止する。おそらく絶望の残党が暴れてもラプラスは起動しないのだろう。その中で唯一機能するのが、このイージスの鍵と呼ばれるものらしい。
「
……もう少し噛み砕いてもろて。離乳食くらい」
「(このくらい理解しろよ、の顔)」
「要は、毎晩確定で無罪の人がランダムで3人選ばれるってことだね。
……汝は人狼なりや、って知ってる?」
剣城が面倒くさそうな顔をして、肩を竦めた早乙女が説明を肩代わりした。
「米国で発売されたゲームが浸透したものだ。市民の中に、市民のフリをした人狼が紛れている。人狼は毎晩市民を1人選んで、襲って食べてしまう。日中の間に、市民は会議をして人狼と疑わしき人を処刑する。これを繰り返して、人狼を駆逐できたら市民の勝ち。市民の数が人狼と同数、またはそれ以下になったら人狼の勝ち。心理ゲームの1つだね」
一時期少し流行ったゲーム。1度だけクラスでやったことがある。私は序盤で襲撃されて退場し、呆気なく観戦側になった。最も市民らしかった人が人狼だったので人間不信になりかけたものだ。
「ラプラスはイージスの鍵でランダム3人を選んで守る。これはゲームで言う"騎士"とか"狩人"みたいな役割かな。例えば俺が人狼だとする」
ティースプーンをピ、と私に向けて切れ長の目を細めた。九十九の事を「何を考えているのか分かりにくい」と思ったけれど、きっと早乙女は「何を考えているのかわざと分かりにくくしている」が正しいのかもしれない。なんだか弄ばれているような気がして、ぎゅっと身体に力が入った。
「人狼の俺は、ラプラスがスリープモード中の夜時間、市民の綴りんちゃんを襲うとする。ラプラスの"鍵"が綴りんちゃんを守っていたとしたら、人狼の襲撃は失敗になる」

「何らかの方法でおびき出したりで襲撃が成功したら、6から10の校則の通りだろうね」
イージスの鍵。これはラプラスの権限により付与される絶対の密室だ。内からも外からも解錠は不可能。人狼ゲームでも、人狼の襲撃から騎士は誰か1人を守ることができるらしい。イマイチピンと来てない人がまだ多数いるので、もう少し私が噛み砕いて説明することに。
「えっと、多分だけど」
イージスの鍵は、ラプラスが絶対守ってくれる【完全密室】。
毎晩【ランダム非公開】で【3人】選ばれる。
もし絶望の残党に襲われるターゲットにされても、その犯行は必ず防がれる。絶対侵入不可の要塞がこの鍵の持つ力だ。
「まずここまではOKだよね。内からも外からも開かない、破壊・侵入・脱出は不可、って13番に書いてるよ」
「要は
……その3人はラッキーってことねえ~」
「まあそういうことになるかな
……で、もう少し分解すると、」
①毎晩3人がランダムで選ばれる。
②安全の公平性の為、二日連続で鍵に選ばれることはない。
③安全の公平性の為、利用記録は公開されない。
④内からも外からも絶対開かない。
⑤全員が同意したら、鍵の使用者を任意で決められる。
「簡単にまとめるとこの5つだと思う。②と③は
……事件になった時のアリバイになったりするものかもしれない」
「その通り。これね、多分絶望の残党すらランダムで選ばれちゃうから⑤もルールとして明示されてるんじゃないかな」
「そのこころは? 説明をもとめます」
「じゃあ鷹栖ちゃんに問題。人狼の俺がイージスの鍵に選ばれたらどうなる?」
「
……内からも外からもあかないから、個室にとじこめられますね。なるほど、かぎはあんぜんゾーンであると同時に、敵を封じ込める牢屋にもなるわけですか」
ふむふむと鷹栖さんが頷いている。もし万が一、夜時間に事件が起こった時。イージスの鍵に守られている人は確定でシロ、無罪が確定する。人狼ゲームでは確定市民を「共有者」などと呼んだりするそうだ。ただし、イージスの鍵は二日連続で選ばれないルールがあるから、無闇に「前日自分はイージスの鍵に選ばれていたから無罪だ」と主張しても、翌日確定で襲うことができるガード無しガラ空き状態を宣言するのと同じ。しかもそれを、ラプラスは公平性から利用記録は出さないとした。
「が、がががっ学級裁判
………って
…………昔の"絶望テレビ"でやってたとかいう、あの
…………アレですか
………………!?」
「多分そうだろうね。悪趣味だなあ」
「アルターエゴが未来機関製なら、希望ヶ峰学園での出来事を模していても違和感はないでしょう。悪趣味なのは同意ですが」
早乙女はティースプーンをカップに戻した。それよりも、と話の主導権を取りに行ったのは剣城だ。
「11の残党狩り裁判なるものが、僕は気になりますよ。今すぐにでも残党狩り裁判をして、疑わしき人間を処刑できるわけです」
「じ、冗談キツイって
……」
「おや。珍しく意見が合いましたね綾瀬さん。その通り、この11番はあまり期待できません」
悪態が飛んでくると構えた綾瀬が肩透かしを食らってポカンとした表情。剣城は確か年下の学年のはずだから、後輩にいいように転がされている綾瀬がちょっと可哀想に思えてきた。
「人狼ゲームは所詮ゲームですから、毎日会議をして誰かを処刑しても、結局最後に勝利条件を満たせば市民陣営が勝ちます。問題なのは11番の続き──この裁判の結果および処理は、学級裁判と同等の扱いとなります。
……これ、どういうことか分かりますか?」
「ええとつまり、絶望の残党では無い人を残党狩り裁判で指摘した場合、間違った我らパンピーは全員デストロイ!?!?」
「ご名答です蔭山さん。証拠不十分のまま残党狩り裁判を開くのはオススメできません。尻尾をだしてもらわないことにはね。ゲームと違って1発アウトなのが、残党狩り裁判の注意点です」
校則が少しずつ浸透していく様子だ。特段難しいことは書いていないものの、イージスの鍵に関する知識は無知を晒せば絶望の残党に狙われることになる。ラプラスに聞いてみないと分からない部分もあるが、夜時間はおそらく絶望の残党を現行犯で摘発できない。絶望の残党の襲撃があるとしたら夜時間になる。だからこそラプラスはイージスの鍵をランダム付与するのだろう。
「イージスの鍵
……由来はイージスの盾でしょうね。ギリシャ神話の女神アテナの盾、アイギスを用いたものかと」
「洒落てるねえ」
およそ校則の確認は完了した。ざっくりだが、全員の共通認識は得られたようだ。
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