Nagisa_burn
2025-10-25 00:39:42
32070文字
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破面パラレル

尸魂界生まれの一護が死んで破面になるお話です(未完)
ベースは白黒、海一あたりです



髪を引っ張られる感触がして、一護の意識はゆるやかに覚醒した。
ぼんやりと、夢見心地にまばたきをする。背後から「起こしちゃった? ごめんなさいね」と鈴のような声がした。柔らかなソファに沈み込みながら、首を動かしてわずかに振り向く。
……チルッチ?」
「ええ、おはよう一護。できたわよ」
…………なにが?」
「なにって、あなた。確かに寝ててもいいとは言ったけど、でも寝る前に聞いたでしょ? 髪、好きにしていいかって」
言われたような気がする。いいよ、とも答えた気がする。何せ一護はべつに頓着がない。髪が長かろうが短かろうが気にしない。一度、グリムジョーと遊んだときにばっさり切って戻ったとき、目にしたスンスンがめずらしく悲鳴をあげたけれど、一護としてはすっきりして楽だった。きちんとそう告げたのに、何故だかグリムジョーがアパッチたちに袋叩きにあって、一護はどうすることもできずうろうろして、後日謝罪を兼ねて会いに行った。グリムジョーに怪我はひとつもなかったけれど、かわりに苦い顔をして、元に戻った髪をぐちゃぐちゃにかき回すとフンと鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまった。
「ほら綺麗。やっぱりアタシ天才だわ」
渡された手鏡を受け取って、手と首を動かしてさまざまな角度から確認する。見慣れたオレンジ髪が耳の後ろから丁寧に編み込まれ、後頭部で結ばれた髪がぐるりとまとめられていた。これをなんと呼ぶのかはわからないが、彼女の器用さには感嘆する。
……全然落ちてこねえ」
「あ、こら、頭振らないで。まだ飾り付けてないの」
「飾り?」
「髪留めよ。カワイイやつ探すから」
……チルッチの、仮面みたいなやつ?」
「そーそー。一護の髪は綺麗な色だから、あんまり主張しないのがいいかしらね。どうしたってツノが目立つし、そっちに目が行くし。金と銀ならどっちがいいかしら。べっ甲もなかなか……
なにやら箱の中を探り始めたチルッチを横目に、一護はソファにもたれ直した。そして、今の今まで意識を向けていなかった、膝に寝転ぶ男の白い髪を梳く。
一護の腹に顔を埋めるようにして眠るのは、文字通りの半身だ。チルッチが気を利かせたのか、ブランケットがかけられている。一護が気に入っている、ふわふわで、触り心地のいいものだ。
「白」
名を呼んで、前髪をはらう。頭を撫でる。仮面の向こうで金の瞳がまたたいて、もぞもぞと身じろいだ。
…………ンだ、その頭」
「チルッチがやってくれた」
「ふうん」
「まだ仕上げが終わってないわよ。ねえシロ、アンタが選んで。髪留めどれがいいと思う?」
「あ? あー……
緩慢に体を起こした白が、渡された箱の中を物色する。ガチャガチャと音が鳴って、そんな乱雑にしなくていいのに、と思った。チルッチに気にした様子はない。わかった上で渡しているのだろう。
「これ」
……なるほど? さすがね」
「そりゃそうだろ」
「一護、ちょっとだけ下向いて。……そう、そのまま。ハイできた」
……チルッチのと全然違う」
「アタシはバレッタつけるつもりだったのよ。でもアンタのとこのがこれがいいって言うから」
「なにこれ」
「なんだったかしら、忘れたわ。昔、現世で拾ったの」
頭を振る。しゃらしゃらと音が鳴る。鏡を持った一護からはよく見えないが、木製の棒が髪に突き刺さっていた。その先端部に赤い玉飾りがついており、垂れ下がる細い金属が揺れるたび涼やかに鳴った。
しゃらしゃら。しゃらん。しゃらん。
「かんざしだ」
「かんざし……
「なんだ、アンタ知ってるの?」
「まあな」
しゃらん。しゃら、ん。───しゃん。

『───■■ちゃん、みて! ■■ちゃんとおそろいで……
『■■、まってよ! ■■困ってんじゃん!』

…………一護?」
はっと顔を上げる。チルッチが不思議そうに覗き込んでいた。
「具合悪いの?」
……なんでもねえ。ありがとう」
「そう? なら、いいけど……
机の上に広げた私物をまとめて、チルッチが立ち上がる。スカートの埃を払って「また来るわ」と笑った。
「ヒマなのかよ」
「ヒマなのよ。どうせ戦争なんてまだまだ起こんないんでしょ。アタシらの部屋は遠いし」
「なんも出せなくてごめん」
「いいわよそんなの。アタシが勝手に来てるんだから」
じゃあね、と手を振って彼女は去っていった。途端に部屋がしんとする。二人で過ごすには広すぎる部屋は暇を潰すためのものであふれているが、今は手をつける気にはならなかった。
「一護」
白の手が頬に触れる。そのままぐいと引き寄せられて、先ほどとは逆で今度は白の膝の上に転がった。ブランケットが広がる。気に入りの感触と、いちばん安心する半身に包まれる。
「寝ろ。ここにいるから」
……うん。おやすみ」
白の腹に顔を埋める。低い体温が心地よい。チルッチがまとめあげた髪を崩さぬように、指先が何度も頭を往復する。
ノイズがかった映像が、ゆるやかに色をなくして霧散した。鈍い頭痛が遠くなるのに合わせて、濁流のように眠気が押し寄せる。
「いい夢を」
白の声がやさしかった。それだけで、もうほかには何もいらなかった。