Nagisa_burn
2025-10-25 00:39:42
32070文字
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破面パラレル

尸魂界生まれの一護が死んで破面になるお話です(未完)
ベースは白黒、海一あたりです




※以下ここが書きたくて始めたと言っても過言ではない部分なのでめちゃ普通に設定のネタバレ有り
前後なんにも繋がってないです 




夢を見て起きた日は、いつも雨が降っている。
もう、四十年近くになる。何年経ってもあの感触は手から消えず、何年経ってもあの瞳が忘れられない。抱きしめた体の冷たさも、崩れ落ちた右腕の残骸も、光のない濁った眼も、何もかも鮮明に思い出せる。
布団から這い出ると、外は雨だった。支度を済ませたところで伝令用の地獄蝶が飛んでくるのを確かめて、指先に止まらせる。―――招集だ。

……どういう、ことだ」
一心の声は硬かった。海燕はといえば、言葉を発することもできず、半ば呆然と拳を握りしめるばかり。隣で息を呑んだルキアも似たような状態だ。
「オヤ、聞こえなかったはずがないがネ。―――まあいい、君たちのためにもう一度言ってやろう」
深いため息を吐いてから、涅マユリは面倒そうにこちらを見た。手元にある資料は、海燕たちが持つものと同じ内容だ。
「先日、君たち先遣隊が交戦した破面―――……正確には、交戦の上虚圏に逃げ帰った破面だネ。撃破した個体はせいぜい中級大虚だが、逃した二体は残存霊圧から見て最上級大虚だと思われる。そしてそのうち一体の霊圧パターンが、護廷十三隊の故人名簿に載っている隊士一名とほぼ完全に一致した」
知らず、手に力がこもる。ぐしゃりと潰れた書類を見かねてか、ルキアが「海燕殿、」と声を上げたが、それもどこか遠い。
「四十年近く前に死亡した隊士の名は、黒崎一護―――……そこにいる志波十番隊隊長の嫡男で、志波十三番隊副隊長殿の手によって、虚として処理された男だヨ」
ガァン、と、鈍い衝撃が部屋に響く、殴りつけられた壁は大きくへこみ、ぱらぱらと木片を落としていた。
……………………一護が、破面、だと?」
「過程についてはまだなんとも言えないがネ。寄生型の虚と交戦したとあるから、それこそ斬魄刀で斬られたのち、虚と見なされて虚圏に流れ着いたのか……。ただ流れ着くだけで最上級大虚に成るとも思えない。十中八九、藍染の手が加わっているだろうネ」
マユリの声が脳を素通りする。ぐらぐらと、視界が煮えるように揺れた。やわらかな腹に捩花の切っ先をめりこませたときの感触がよみがえって、咄嗟に口を手のひらで覆う。
「霊圧パターンが一致したとは言ったが、それはあくまで大元のものだ。表面上の霊圧は当然死神ではなく虚に近い。共喰いか、実験か……かなりグチャグチャに混ざっていたからネ、いやはや、解析に手間取ったヨ」
「もういい」
遮った一心に、マユリは肩をすくめてみせた。隣に控えていたネムに資料を渡し、「それでは話は終わりだヨ」と言って踵を返す。去っていくその背中を目で追うこともできず、海燕はじっと、眼下の木目を睨んでいた。



(とっても中略)




「アイツは見誤ったんだ、ざまあみろ。おまえが出来損ないだって? バカが、俺の王だぞ。そんなワケがねえだろうが」
白が笑う。言葉の意味をはかりかねて黙る一護を見て、やわらかく目尻を緩めた。
「魂を分けるのに失敗したんじゃない。あれはスタークとリリネットだから出来たことだ。本来、ほかの誰にもできやしない。ひとつの肉体にはひとつの魂しか宿らない。だから、おまえは失敗しなかった」
……なに、どういう、」
「成功したんだ。おまえは間違えなかった。寂しくて、苦しくて、悲しくて、忘れたくなかったから、俺を切り離した。俺はそれを知ってたから、全部受け取って離れたんだ」
「しろ、なにを」
「一護」
白の指が、頬を覆う。金の瞳に宿るのは慈愛だった。二人になってから今までずっと、白が一護にだけ向けていた、まっすぐな感情。
俺を・・覚えてるか・・・・・?」
………………………………、えっ?」
視界にノイズが走る。縦横デタラメになった世界が映る。
幼い自分の前に、白い男が立っていた。刀を背負い、なにごとかを口にする。
『───よう。お早い到着じゃねえか、王よ』
「俺は、全部覚えてる」
世界がブレた。もとの、本来の視界を取り戻す。揃いの片角と仮面をつけた白が、一護の右手を握りしめた。
「おまえの記憶も、感情も、力も。何が好きかも、何が嫌いかも、全部だ。あたりまえだろ。俺は、ずっとおまえと一緒にいたんだ」
こうなる前から。うまれたときからずっと。
頭が痛い。喉が渇く。体が震える。なだめるように握られた手は、嘘みたいに熱をもっていた。
「俺の名を呼べ、一護。そうすれば、───それだけで、いいんだ」
……ぁ、」
「この先何があっても、俺たちはずっと一緒だ。おまえがそう決めた。俺はそれに応えた。……だから一護、もういいんだ」
頬を拭われて、そこで初めて自分が泣いていることに気づいた。とめどなくあふれる液体が、顎を伝ってぼたぼたと地面を濡らしている。
「もう、楽になっていいんだ、一護。……俺たちは、ふたりでいるほうが、ひとりでいるよりもずっと寂しいんだ」
「─────────…………斬月、」
男が笑った。満足そうに、嬉しそうに、満面の笑みで。
どうして、忘れていたのだろう。どうして、忘れたままでいられたのか。
ずっと一緒だった。ずっとともにあった。垂直に流れる雲を見ながら、何度も何度も剣をとって戦った。ちっとも名前を教えてくれなかったから、仮の名として、仕方なく色をみて白と呼んだ。結局、初めて会ってから名前を聞くまで三年かかった。護廷入隊前にぎりぎり間に合ったけれど、本当に頑固な男だった。
強く、気高く、まっすぐできれいな俺の刀。
握るだけでなんだってできるような心地になった、無二の相棒。
黒崎一護の斬魄刀がそこにいた。虚に堕ち、仮面を被り、歪み果ててもなお、変わることなくずっとそばに。
「ざん、げつ」
「ああ」
「斬月、ごめ、ごめん、おれ、……っおれ、ッ」
「泣き虫なところは変わんねーな。まったく、情けねえ奴だぜ」
だが、と言葉を切って、斬月が一護を抱きしめた。触れたところから熱が伝わる。彼のからだが薄れてゆく。
「───それでこそ、俺の王だ」
そうしてそのまま、真っ白い男は消えた。ずっと探していた還るべき場所を、ようやく見つけたかのように。
あとに残ったのは、こらえきれず声をあげて泣く子どもだけ。
その手の中には、うつくしい巨大な刀が、宝物のように握られていた。





「おや、これは。……面白い事例だね」
「いかがいたしますか? ここ一帯の虚は、アーロニーロに喰わせる予定でしたが」
「いや、持ち帰って様子を見よう。いいね、予想外の収穫だ」
「これ、どうなってますのん? なかなかグロめですけど」
「融合しきれていないようだ。まだ彼のほうに主導権があるから、こうして苦しみ続けている」
「はあ、かわいそうになァ」
声が。声がしていた。会話の内容はわからなかった。ところどころ、ノイズが走ったかのように欠落している。

「ホワイトに?」
「ああ。こうしてメタスタシアに打ち勝ったんだ。どこまでいけるか試してみたくてね」
「しかし、これは……
「君が手塩にかけていたのは知っているよ。けれどこれ以上の素材が現れることも、きっとない」
場面が切り替わる。痛い。寒い。ずっと飢えていた。ずっと苦しかった。
「有効に活用しようじゃないか」
熱い。痛い。苦しい。声がうるさい。だれの。痛い。声。わからない。だれ。おれは。おれ、は。

「藍染隊長。これも予想通りですか?」
「いや。……想定外だよ。いいね」
「まァたそんな好奇心出して。要が泣きますよ」
「ふふ、ああ、いや、すまない。悪い癖だね」
「ホンマに」
「飢えているね。このまま荒野に放ってみよう。私の想像が正しければ、この子はきっと生き残るよ」
「そうでなければ困ります。まさか、ホワイトまで食い潰すとは」
「そうだね。けれど、これだから面白い」
いたい。いたい。あつい。さむい。だれか。だれ。
「彼がどこまで成長するか、楽しみだね」
だれか、たすけて。

「それにしても、こんなこと起こるんですねえ。虚に魂魄を喰われた死神の死体が、そのまま破面になる、なんて」
「珍しくはあるが、何も不思議なことじゃないさ」
「そうですか?」
「ああ」
透明な壁の向こうで、男が笑った。
「死にきれなかった生き物の情念はね。時に理を曲げるんだよ」
笑う男を、俺は見ていた。痛い熱い寒い寂しい苦しい誰か誰か誰かだれかたすけてと泣き叫ぶ一護の中から、ずっと。
「───でなければ、人が虚に成るものか」
いつか、殺してやると思いながら。





男は、すべてを見ていた。赤ん坊の頃からだ。庭を駆け回る様子も、肩車をしてもらってはしゃぐ様子も、母に撫でられて笑うところも。
死神になり、力をつけ、憧れた従兄弟と同じ隊に入った。志波の名にはあやからないのだといって、母方の姓を名乗った一護は、言葉通り実力でもって、わずか二年で一桁台の席官にまで昇りつめた。心底から誇らしかった。
『あなたも、海燕さんにいいところ見せたいわよね』
うなずいた一護は、けれど内心では、それもあるけど、と否定の意を示していた。海燕にはもちろんだが、都にも見てほしかったのだ。一護はまっとうに、褒められるのが好きな子どもだった。成長して恥ずかしさが勝ち、素直には受け取りづらくなっていたが、頭を撫でられるのが好きな、護廷の中ではまだまだ年若い少年だった。
先陣を切ったのは一護だった。刀を振り上げ、斬りつけ、そして。
虚の能力により、手の中の斬魄刀は霧散した。
あとはもう、一方的な蹂躙だ。動揺の隙をついて傷口から一護の中に入り込んだ虚は、わざと嬲るように意識を残しながら、右腕を完全に支配して暴れ回った。手近にいた隊士の首を折って殺し、落とした斬魄刀を拾い上げ、都を含めた全員を斬り伏せた。
『おねがい、だから、──────もう、ころして』
人を殺した罪は、殺されることでしか償えない。一護はそう考えてしまったし、そのときにはもう、彼の心は壊れきっていた。
死を望んだのは救われたかったからだ。この絶望から抜け出したくて、解放されたくて、その選択が海燕を苦しめると知っていながら、突き出された槍を避けなかった。
一護は死んだ。そこで終わるはずだった。
───そうして、次に目を開けたとき見えた黒い空に、白い砂に、肉のある体に。それらが意味する事実を知って、一護は喉をかきむしって絶叫した。
死は救いだった。救われたかった。だから死んだ。だから一護は、助けてくれとは言わなかったのに。
死んだあとも生きるのは、死んだ者にとっての拷問だった。何もかもがうまくいかない。体の裡には寄生したままの虚が潜み、痛みと苦しみとでのたうち回っていたところに現れたのは、手頃な実験体を見つけて気分をよくした男だった。
痛い痛い痛い寒い熱い寂しい苦しい悲しいいたいやめてもうやめてたすけていたいやめてころしてしなせておねがいもういやだいやだいやだだれかだれかだれか、だれ、か、おねがい。

───だれか、たすけて。
───ああ、助けてやる。

『死にきれなかった生き物の情念はね。時に理を曲げるんだよ』
だって俺は何もできなかった。なにひとつできなかった。存分に力を振るう前に、虚によって消滅させられた。
そんな体たらくで、素直に死ねるわけがないだろうが。


壊れゆく一護の代わりに、男はホワイトを喰い尽くした。死にたがりがようやく伸ばした手を掴み、二度と離さぬよう握りしめた。
実験が終わったあとに訪れたのは、気の遠くなるような放浪の時間だった。砂漠に足を取られながら、何に飢えているのかもわからないまま、一護は必死に歩いた。歩いて歩いて、目に映るものすべてを殺して食べて、また歩いて、時おり耐えられなくなって座りこみ、近寄ってきたものを殺す。毎日毎日その繰り返し。
食べながら吐いていた。泣きながら壊れていった。死にたいほど苦しいのに、死にたくないから生きていた。
死ぬのは怖い。死ぬのは辛い。もう二度と、味わいたくはない。
摩耗していく一護の精神を護るために、斬月はすこしずつ、一護の裡から表層にまで顔を出した。そのたびに死神と虚の境界線が溶けあって、破面へと近づいてゆく。大切だったはずの記憶も感情も、胸に空いた孔の先へと、欠片となってこぼれてゆく。
それらを拾い集めながら、斬月はひたすら、一護に声をかけた。
───大丈夫だ。ひとりじゃない。俺がいる。おまえが死ぬまでずっと一緒だ。約束する。おまえのことを助けてやる。
───だから、死ぬな。俺のために生きろ。
果てのない砂漠の中心で、足を止めた一護が顔を上げる。沈まない月を見上げながら、ぼろぼろと、子どものように涙を流した。
───ほんとうに?
───ああ、必ず。絶対に、何をしてでも、逢いに行くから。
───ほんとうに、助けてくれる?
───おまえが、俺にそう望むなら。
───なら。……それなら、ずっと、そばにいて。
───ああ。
───もう、…………ひとりで、歩く、のは、……つらい。
──────……ああ。
やがて失くす記憶だと知っていた。このやり取りも、感情も何もかも、一護は取りこぼしてしまう。何もかも忘れて、一度まっさらになって、そうして破面にうまれ変わる。
それでもよかった。そんなことは、どうだってよかったのだ。
覚えていてもらえなくても、なかったことになっても、たとえこの先嫌われても、疎まれても怪しまれても拒絶されても。
助けてくれと願われたその事実だけで、どこまでだって走っていけた。

───そして、数十年の夜を渡り、運命に出会う。
持っていたものをすべてなくして破面となった一護は、スタークたちに見つけられた。彼らと行動し、彼らのかたちを聞き、寂しさを埋める術を知った。
一護は"白"を生み出した。ひとつしかない魂をふたつには分けられなかったから、できる限りのことをした。
藍染は見抜けなかった。スタークとリリネットという前例があったからだ。彼らを参考に見様見真似で切り離されたかのように見えたそれを、そういうこともあるのだな、と、面白く思って納得した。何せ、自分の手で作り上げた破面だ。イレギュラーは興味の対象だった。そうでなくては、とすら思っただろう。
一護がおこなったのは、斬魄刀の具象化・・・・・・・だ。
ただ、その斬魄刀が、主が落としてきたそのすべてを、拾い集めて手放さなかっただけのこと。一護よりも多く"黒崎一護"を抱えていたから、存在の強度が高かっただけのこと。
そして、ふたつに分かれたものは、ひとつに戻る。
一護の───……黒崎一護の力として、あるべきかたちへ。








手も足も震えがとまらない。勝てる気、なんて、しない。
だって出来損ないだった。戦いなんてちっとも好きじゃなかった。スタークもリリネットも、戦わずに済むのならそのほうがいいと笑って、そんな一護のことを責めなかった。
「どうした」
息がうまくできない。視線を逸らすこともできない。足もとを固められたかのように、その場から動けない。ガチガチと聞こえる不快な音が、己の歯の根の合わぬ音だと気づくのに時間がかかった。
「私に、歯向かうのかい? 一護」
…………ッ、ッひ、」
痛みと恐怖と孤独と悲哀とがぐちゃぐちゃに混ざって襲い来る。あの地獄のような日々を、覚えている。思い出して、しまった。
切り刻まれ、反応を見て、液に浸けられ、治され、傷口を抉られ、治され、腕には虚がいて、ほかにもたくさん、食べさせ、られ、て。
「仕方のない子だ」
刀が抜かれた。防がなければ、と思うのに、指先ひとつ動かせない。
斬月を握りしめた手から血の雫が落ちていた。心のなかから声が聞こえる。彼が叫んでいる。聞こえているのに、動けない。怖い、怖い、怖い、だってこのひとには、藍染惣右介という、男、には、逆らえない。
だって、いまの己をつくったのは、紛れもなく。
―――よう。ずいぶん、好き勝手してくれたじゃねえか」
振り下ろされた刃が受け止められる。動かなかった体は引き寄せられていた。だれかの胸に背を預けるかたちになって、体からどっと汗が噴き出す。斬月を取り落として座り込みそうになったところで、片腕一本で支えられた。
おそるおそる顔をあげる。黒髪の、男。怒りをたたえたまっすぐな光が藍染を射抜き、止めていた刀を弾き返す。反動で抱えられたまま背後に跳んで、震えの止まらない体を地面に降ろされた。
―――ッ、ッは、はあッ、ッふ、ッ、ぅ……ッ!」
男の霊圧に護られて、藍染の威圧からようやく逃れる。途端ぼたぼたと地面に垂れたものが汗ではなく涙なのだと気づくよりも先に、うつむいた頭に手が乗せられた。
「悪い、遅くなった。よく耐えたな」
…………ぁ、」
……ごめんな、一護。つらかったろ。痛かっただろ。怖い思いばっかさせちまったな」
髪をかき混ぜる手はやさしかった。どうしてやさしくされるのかわからなくて、困惑のまま必死に呼吸を整える。斬月はなにも言わない。死神の姿をしているけれど、敵、では、ないのだろうか。
混乱する一護に気づいたのか、男の手がぴたりと固まって離れてゆく。次いで目の前にかがんだ男と目があった。じり、と、腹が痛む。
「一護」
この男を、知っている。痛む腹を押さえる間もなく、視界の裏で光が弾ける。斬月から受け取った記憶は、まだちっとも処理できずに胸の奥にしまわれていた。それが、ひらく、音がする。
抱きしめられて、吐息混じりの声が漏れた。怖いのに、恐ろしいのに、―――どうしようもなく泣きたくなって、不思議だった。



殺してほしいとまで願った子どもが辿った末路のことを思うと、何もかも叩き壊して叫び散らしてやりたくなった。
身を操られ、殺しを強要させられ、自死もできず絶望のままに死んで、かと思えば砂漠の中に放り出されて。それだけに飽き足らず、実験体として体を弄り回され切り刻まれ試され傷つけられ、何年も何十年も、たったひとりで泣きながら暗い世界を歩き回って。
『一護のこと、助けてやってくれよ』
破面の男の声は、同情と哀しみとに満ちていた。空っぽのままさまよう一護を放っておけず、砂のなかから拾い上げた男。
『あいつ、ずっと、死にたくないから生きてるんだ』
痛いのは嫌だ。怖いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。死にたくない。
死んだって救われないのなら、もう二度と、死にたくなんてない。
『生きる理由がそれしかないんだ。……寂しいだろ、そんなの』
だから、助けてやってくれ。雁字搦めになって動けないあいつのこと、手を引いて連れ出してやってくれよ。
『きっと、月よりも太陽の下のほうが、似合うはずだからよ』
手の中の刀を握りしめる。座り込んで呆然とこちらを見上げてくる一護は、片目こそ仮面に覆われているものの、記憶よりずいぶんと幼く見えた。恐怖と絶望と孤独とに身を蝕まれ、終ぞ助けを求めることもできずにここまできてしまった、悲しい子ども。
志波海燕の罪の象徴。ずっとずっと、助けてやりたかった大事な子。
「一護」
澱んだ瞳がこちらを向く。しゃがみこんで視線を合わせ、痩せた体を抱きしめた。震えの止まらない体がこわばって固くなる。乱れた呼吸は整わないままだ。血が滲むまで刀を握っていた手のひらが、びくりと跳ねて地面を引っ掻く。
「待たせてごめんな」
―――遅えよ、海燕さん。待ちくたびれちまった。
―――悪い悪い。ちょっと仕事がな。でもほら、よく言うだろ?
「助けに来たぜ」
―――ヒーローは遅れてやってくる、ってよ。な? 機嫌直せって。
―――ったく、仕方ねえなあ。そう言えば許されると思ってんだろ!
……………………かいえん、さん、」
か細い声だった。震えて、固くなって、ようやく絞り出された音。
けれどそれは確かに、もう一度聞きたいと何度だって願った、大切で大事な家族が、己を呼ぶ声だった。