mishiadd
2025-09-27 18:20:16
36460文字
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傾城傾国

【IF軸】生前のセイバーを「可哀想だな」と思った側面だけを抽出された(マスターだけに優しい)アルターエゴサーヴァント・宮本伊織(讐)が生前のヤマトタケルに喚び出されて「おまえは可哀想だね」って言いながら汚染聖杯的すごい願いの叶え方をして国もマスターの人生もめちゃめちゃにする性癖の展覧会【剣伊】
後日談『始まりの日』:https://privatter.me/page/68ecf2bbcf33a


五、

――この世のものではあり得ない程に、美しい男を見た。



ヤマトタケルが『キャスター』を召喚したと聞いた時、女はなんの興味も抱かなかった。女が喚び出したのは『アサシン』で、痩せぎすの異郷の男だった。それが強いか弱いのかにも大して興味がなかった。大臣の娘である女に仕えているその他大勢の下男となんら変わらない、薄汚れていて無教養で無口な、取るに足らないつまらぬ侍従がひとり増えただけだった。

ヤマトタケル自体にも大して興味がなかった。確かに見目麗しくはあったが女の趣味ではなかったし、たまに見掛けたと思えばいつも陰鬱とした顔をして宮中をうろついている。寵愛していた妻が死んでからというもの、ますますふさぎ込むようになったとすら聞いた。面倒な男は嫌いだった。

そのヤマトタケルがひどく明るい顔をして歩いているのを見た。見たことのない純白の衣裳を身にまとった、見たことのない男を連れて歩いているのを見た。



――たった一瞬で、何もかもを奪われた



目を奪われた。心を奪われた。時間の感覚を奪われ、食欲を奪われ、それ以外のことを考える思考力を根こそぎ奪われた。寝ても覚めてもあの日見た純白の男のことばかりを考えていた。あの、宵闇にぽっかりと浮かぶ満月のように眩く純白の、常世へと誘う神秘のように美しく微笑む男。

あれが欲しくなった。どうしても欲しくなった。もともと何を願いとして『儀』への参加を了承したのかもすっかり忘れてしまっていた。いまや彼女の願いとは、ただひたすらにあの『キャスター』を己のものとすること――手中に収めてあの美しい姿を観賞し、手で触れて愛玩すること――ただそれだけだった。

そのためには、ヤマトタケルが邪魔だった。たまたま召喚したからというだけで、あの『キャスター』を我が物顔で占有していることも気に食わなかった。たかだかちょっとクジ運がよかったからというだけで――あいつから、『キャスター』を奪い取らなければならない。
うまくやれば、他のマスターからサーヴァントを奪うことができる、という話は神官から聞いていた。だが、正面からぶつかればきっと幽鬼サーヴァント同士の戦闘になる。しくじれば手に入れる前に『キャスター』を消滅させてしまうかもしれなかった。だから、ここは慎重に――搦め手を使わなければならない。

そんな折、たまたま朝廷の内外で不審な死が相次いでいるという話を父親から聞いたのだった。胸に槍が刺さっていたという明確な他殺から、疫病とも何とも判じることのできない突然死まで――身分や性別、年齢もバラバラで、ただ『死』という事象が増加している、としか表現しようがなかった。

「『死』の一部は確実に『儀』に関係している」と彼女の父親は言った。「故に、朝廷としてもこれ以上の調査はできん。公表できないとわかっている調査結果を求めても詮無いからな」。
だから、一連の『死』は――ひいては、もし黒幕がいるのなら、その者は――そのまま捨て置かれることとなった。深入りもされず、己のしでかしたことを罰されもせず、無傷で逃げおおせることができる。――好機だと思った。

一連の『死』に便乗し、ヤマトタケルに疑念の目が向けられるように仕向けようと女は考えた。女にとっては幸運なことに、実際『死』の多くは――いっそ不自然なほどに、ヤマトタケルの周辺で発生していた。女はただ、そこに更なる薪をくべてやればよかった。女にとっては更に都合のいいことに、彼女の手駒は『アサシン』であった。――マスターでも幽鬼サーヴァントでもないただの人を殺すことなど、造作もなかった。

『アサシン』にはヤマトタケルの住居に張り込むように命じていた。殺しの罪と穢れを彼に押し付けるのならば、物理的に彼の傍を通りかかった者を殺すのが手っ取り早いし――それに、もしも誰か『キャスター』に色目を使うような身の程知らずの女がいたとしたら、その存在をすぐに捉えることができる。――そのまま命を奪えば、一石二鳥だった。『キャスター』に近づこうとする身の程知らずの阿婆擦あばずれをひとり間引いて、それをヤマトタケルを陥れるための手段へと転じることができる。我ながら効率のよい方法を思いついたものだと、女は自らの聡明さに満足した。

その晩、報告のために女の居住へと戻ってきた『アサシン』は、無感動な口調で――それでいて、叱責を恐れてわずかに震える声で――女に告げた。

「『キャスター』に、私の存在を勘づかれました。――ヤマトタケルの住居まで『キャスター』の姿を覗きに来ていた娘を始末したところ、残留した魔力を嗅ぎ取られました」
……ほう、そうか」

たっぷりと間を置いて女は言い、それから弾む声で言った。

「それで? 『キャスター』は何と?」
――は?」
わらわに感謝しておったか? 自分にたかるうるさい小蠅どもを今まで払っていたのが一体誰であったのか、ついに知ったのだろう?」
……い、いえ、そこまでは。――ただ、自分以外のサーヴァントがどこかに居る、ということに気付いただけかと」
「ふうん、そう。――なぁんだ」

至極つまらなそうに言い、手に持った扇でゆるりと顔を仰ぐ。それから言った。

「なれば、そろそろ迎えに行こうか。――これまでわらわが『キャスター』のためにしてきてやったこと、そしておまえを使役してきたことそれ自体で示されるわらわマスターとしての才覚――これだけ見せてやれば、きっと『キャスター』もあの出来損ないの楔を捨てて自主的にわらわのものとなろう。
ヤマトタケルは一度も『キャスター』をまともにサーヴァントとして使役した様子もなく、まるで身の回りの世話をさせる下男のように便利に使っているのだろう? わらわとあの男、どちらが仕えるに値するかは明白じゃな」
――は」
「『アサシン』、マスターはふたりのサーヴァントと契約することができるのか? ――まあよい、ひとりしか選べぬというのなら、おまえはどこへでも行くがよい。ヤマトタケルの軍門に下ってもわらわは構わぬぞ、その頃にはあちらも誰か『キャスター』の代わりを探しているだろうからな」

ははは、と笑って女が立ち上がる。片膝をつき俯いたまま、ぐっと口許を引き結んでいるアサシンの頭上から言った。

「そうと決まれば早速出るぞ、『アサシン』。――『キャスター』をわらわがこの目で見るのは久方ぶりじゃな。……相も変わらず、まるで常世の誘いのように美しいだろうか……
――はい……

門へと向かうマスターの後を、音もなく『アサシン』が追った。