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mishiadd
2025-10-13 21:38:19
3368文字
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傾城傾国:始まりの日
【IF軸】『傾城傾国』後日談。ふたり仲良く闇堕ちして特異点のラスボスになってる剣陣営いつだって見たいよあたしは【剣伊】
『傾城傾国』:
https://privatter.me/page/68d7ac50af8e9
カルデアが、やってくる。
◆
タケルが目覚めたとき、イオリは既に閨にいなかった。
誰もいなくなった世界で、たったふたりきりでの生活を始めてどの程度経ったかも知れなかった。どうやらその『器』で時を自在に操ることのできるイオリは、タケルを退屈させぬよう、まるで部屋の模様替えをするように頻繁に四季を入れ替えていたし、生身の人間であるタケルの肉体が老いぬよう、彼の体にも何かを施しているようだった。タケルとしては何不自由なく暮らしていたが
――
時の経過というものに関してだけは、ひどく鈍感になっていたと思う。恐らくは不老不死の神々というものの日々の感覚はこのようなものなのだろう、ともタケルは思った。
たったふたりで無人の宮殿を散策し、市街地を見て回り、荒野を巡り、山々を歩いた。海辺に下り、寄せては返す白波につま先をつけて笑った。そうして、ひとしきりはしゃいだ後
――
屋敷に戻る。「布団というのだ」と言ってイオリが仕立てた寝具を敷いて、隣に並んで眠った。
「サーヴァントに睡眠は必要ない」と言っていたイオリに、添い寝をしてくれるように頼んだ。イオリはタケルが頼みさえすれば
――
なんの理由も聞かず、なんの不平も漏らさず
――
ただ一言「わかった」と言って聞き入れてくれる。最初はふたつ並べていた布団でそれぞれ寝ていたのが、やがてひとつの布団で眠るようになった。やがて、寝かしつける際にタケルに腕枕をしてくれていたイオリの頬にタケルが手を伸ばし、寝る前の「習慣」として深く唇を合わせるようになった時も、イオリは何も言わなかった。
――
イオリが聖杯を保持している以上、もはや『魔力供給』という言い訳もない中で、イオリはタケルに何も尋ねなかった。
――
あるいは、イオリとタケルしか存在していないこの世界において
――
イオリがタケルに対してなんらかの
娯楽
を提供することは、自分に課された当然の義務であると考えているようだった。
寝入る前の夜毎の深い口付けは、やがて身体の接触を伴うようになった。あるいはそれも、「たったふたりしかいない」世界の中で
――
永遠とも思える退屈を埋めるために必然的に発生した娯楽であったのかもしれなかったし、タケルにとっては決してそうではなかったのかもしれなかった。どのみち、タケルがイオリに触れるとき、イオリが彼に何かを尋ねることはなかったので、彼がその真意を口にすることはなかった。
――
そして、イオリにとってはどのみちすべて同じだった。タケルがどういうつもりであったにせよ、彼が望むのならばすべて与えるまでだった。
毎晩のように、タケルがイオリを抱くようになった。
他に娯楽のない中で
――
タケルにとってそれが本当に娯楽になっているのかイオリにはイマイチわからなかったが、求められる限りは与え続けた。毎晩求められる割に、タケルの手つきやイオリを抱く仕草はひどく気遣わしく落ち着いていた。あるいはそれは、単なる性欲の発散とも違うように思えた。
ある夜、タケルの指先にイオリが小さく声を上げたことがあった。それまで別段声を我慢していたわけでもなかったが特に反応を示したこともない中で、それはイオリとしても不意打ちで、かといって単なる生理的な反応に過ぎなかった。たったそれだけのことにもかかわらず、タケルがいたく感じ入った様子でイオリを見た。ほんのりと頬を上気させたイオリの顔をじっと見つめて、今にも泣き出しそうな顔で、「嬉しい」と言った。
――
だからイオリは、それ以来積極的に反応を返すようになった。演技をしているというわけではなかった。ただ、わずかにでも何かを感じたのならば相手に伝えようと思っただけだった。タケルが「嬉しい」のならば、それはイオリにとっても嬉しいことだった。
日中はふたりで散策をして、料理をして、食事をし。夜は、互いの身体に触れ合いながら、やがて眠りにつく。そんな生活を繰り返した。
――
木々は育ち、花々は咲き乱れ、波は岩を削った。
……
何を得るでもなく、何を失うでもなかった。ただ、お互いだけがあった。
――
足りないものなど、なにひとつなかった。
「セイバー」
閨を出て、外に出る。草花の茂るに任せた庭に、薄衣一枚を素肌に羽織ったイオリが佇んでいた。すらりとした立ち姿のまま、タケルを振り返った。
「
カルデアが来る
。
――
頃合いだとは、思ったよ」
「そう
……
か」
「おまえにひとつ、尋ねなければならない」
涼やかな風が吹く。イオリの、昨晩の情事から解いたままの栗色の癖毛が、ふわりと風に舞う。同じく薄衣を肩に掛けたままのタケルに、イオリが尋ねた。
「このまま、カルデアに
――
降伏することもできる。戦わず、歯向かうことなく
――
この永遠の時を終わらせることも、おまえにはできる」
「おまえは、どうしたい?」とイオリが尋ねた。そこに、イオリ自身の感情はまったく含まれていなかった。弟に「あずきとみたらし、どちらがいい?」と尋ねる兄のような、ただ純粋に希望を尋ねている声音だった。
タケルがぐっと口許を引き締める。やがて、フフ、と笑った。
「私はな、イオリ。
――
ひとつだけ心残りが
――
足りないものがあるとするならば」
「
足りない
」と聞いてイオリの眉がぴくりと不安げに寄る。その顔を見ながら、タケルが不敵な笑みを浮かべた。いたずら盛りの子供のような表情だった。
「きみと
共に戦ったことがない
、ということだ。
――
きみ、結局私に一度も剣を抜かせなかったろう。一緒に作戦会議のようなこともしたことがなかったな。全部、きみが勝手に進めてしまって」
「
……
ん」
ふ、とイオリの口許が緩む。口角がわずかに上がり、笑みのようにも見えた。
「いいだろう。
――
カルデアを迎え撃つなら、まずはおまえがこの特異点の
大王
おおきみ
となる」
「きみではなく、か?」
「俺はおまえに仕えるサーヴァントだ。
――
こちらへ来い、セイバー」
イオリの手から魔力が巡り、庭に転がっていた大岩が削れて玉座を象る。それがさらに丘のように盛り上がり、周囲を見渡す高さまでせり上がった。
「意外と形から入るのだな、きみ」とタケルが苦笑しながら、戯れに大岩の玉座に腰掛ける。その肘掛にイオリが浅く腰かけて、両脚を肩幅に開いて座るタケルの肩にしなだれかかる。
――
その距離感の親密さは、昨晩の情事を引き摺っていた。
丘の上から、ふたりで無人の世界を見下ろしている。やがて、閨での睦言のように、ひそひそとイオリがタケルの耳元で囁いた。
「町に人を戻そうか。
――
普通の生活をさせるとしよう、まるで何事もなかったかのように」
「カルデアの目を欺くのだな? 案内役も置こうか、わざと」
フフフ、と鼻先の触れ合いそうな位置で互いにクスクスと笑い合う。悪だくみをする少年同士のような表情だった。
「『ヤマトタケルは遠征に行っていて不在』と言わせたらどうだ。『ヤマトタケル』が原因で異常が発生した筈なのに、当のおまえがどこにもいない、という寸法だ」
「と思っていたら、実際は
大王
おおきみ
が私なのだな? カルデアからしてみれば、配役が入れ替わっている。
……
それで、きみはどうする?」
「顔を見られたらすぐに事の委細がバレてしまうだろうな。仮面でも被っておこうか。『正体不明の謎のアヴェンジャー』という触れ込みで、ちょいちょいカルデア一行の前に現れては意味深長な言葉を残して去っていく。敵か味方かわからない
――
と思っていたら、最終決戦で
大王
おおきみ
であるおまえのサーヴァントであることが明かされるのだ」
「
……
きみ、割とノリがよい方ではあるよな」
ヒヒヒ、と笑い合う。それから、ふと互いに真剣な顔をした。額同士がつくような距離で、互いの瞳をじっと見つめ合いながら、イオリが言った。
「
――
いいんだな?」
「私にはそれしかないよ。
……
たとえこれが、最良の
ハッピーエンド
めでたしめでたし
ではなかったのだとしても」
「これこそが、きみが精一杯、私にくれた結末なのだから」と囁くように言い、タケルがイオリに唇を重ねた。うっとりとけぶるような長い睫毛を伏せ
――
イオリがタケルの背中に両腕を回して、その口付けに応えた。
傾城傾国:始まりの日・了
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