5話✧狷械

✧執筆協力
まめこ様

✧スチル協力
ふかひれ。様米2ろう様めんま様



十日後。

ルフレは珍しく、談話室のソファーで休んでいた。静かな室内には、微かに壁時計の音だけが響いている。

先週の襲撃……あの事件のあと、人間たちはどうなったのか。そして、これからの自分たちはどうなるのか。考えたところで答えは出ない。けれど、どうしても忘れて過ごすことなどできなかった。

(このまま人間達が争い始めたとして一体何になるんだ)

今自分達が行っていることは確実に悪だ。
そしてこの行為の先にあるのは自分達が生きてきたような混沌とした世界いや、きっとそれよりも残酷で、目も当てられないような世界になるだろう。

もともとこの時代には『悪』を裁く法が存在しない。秩序というもの自体が存在していない。そんな世界で、人々が暴れ出せば、収拾などつくはずがなかった。

今、この時代は、法も秩序も何も無い、力こそ全ての世界。

そんな世界になったとして本当に自分達の目的は果たせるのか。

「血塗られた歴史それに自分達の存在

ふと、ルフレは小さくつぶやく。そして静かに決意を固めた。

(やっぱり、僕の案を進めるしかない。)

だが、やはり問題は山積みなのだ。ナーデルやラート、カラベラフィルムあの三人は、フィリップや樊凌のように簡単に説得できるとは思えない。まず、彼らをどうにかしなければならない。

彼らの心の奥底、その核心に触れられれば、何か糸口が見つかるかもしれない。

(ラートさんは、嘘がバレたら厄介だし……カラベラフィルムさんは……

そう考えたそのとき、ルフレの脳裏にふと、ある疑問がよぎった。

「そもそもナーデルさんはどうやって錬成されたんだ?」

どうやって生まれたのか、普段何をしているのか、何を考えているのか。彼女は確かに存在しているはずなのに、どうにもその輪郭はぼやけて感じる。

「血塗られた歴史を思い出させたい」という願いは、まるで自分たち全員に共通した意志であるかのように刷り込まれていた。だが、そもそもその願いのために械達を生み出したのは、本当にナーデルなのか? あるいは、さらに別の存在なのか? もしかすると、ナーデルもまた、自分たちと同じように“誰かによって”錬成された存在なのではないか。

そっと自分の核心に触れる。しかし、錬成された頃と何も変化はない。

「やっぱり核心を伝えても消えはしない

ルフレは先日、樊凌に自分の核心を伝えていた。
核心、と明言はしてないものの察されているだろう。

過去にナーデルから聞いた「核心を伝えると消える」という仕組みそこに、ルフレはずっと違和感を抱いていた。

一番強い思い、というのはあまりにも抽象的だ。物であった自分たちに意思が生まれ、思考を始めれば、一番の強い思いというものが変わる可能性も大いにある。

そして樊凌の話ではグラディエーターの核心は「不完全燃焼を果たすような熱い戦いをしたい」ということ。
いかにもグラディエーターが言いそうなことだ。

あのとき、核心に触れることで事態がどう動くかを確かめたかった。そして、言わなければならない状況でもあった。それで、ルフレは賭けに出た。

「核心、と明言しなくては作動しないのかいや、そもそもナーデルさんが嘘を言っている可能性は

ふと沸き起こった疑問で、ナーデルへの不信感が高まる。

(もう、何を信じれば良いんだ……)

ルフレは大きなため息をついた。