5話✧狷械

✧執筆協力
まめこ様

✧スチル協力
ふかひれ。様米2ろう様めんま様



数分後─。

血だらけの剣を握りしめたままその場に立ちすくむ8人の人間。

「フィリップさん、扉を開けて良いですよ。」

ナーデルの指示に、フィリップは扉を開いた。

地獄のような光景から逃げ出す者が半分。残る者たちは、魂を抜かれたように動けず、ただその場に立ち尽くしていた。

その中のひとりが扉を開けたフィリップに、ふらつく足取りで近付いてきた。返り血を浴びて、嗅いだことの無い臭いにまみれた男の顔は絶望に染められていた。

フィリップはその男の様子に何事かと警戒する。

しかし、男は誰かを殺した剣を握りしめたままなにやら呟いていた。

どうして
「?」

掠れた声で話しかけてくる彼の声にフィリップは耳を傾けた。

「どうしてどうして僕は、こんなに酷い仕打ちを受けているんですか?」

虚ろな目で問いかける男にフィリップは冷静に答える。

「この世の全ての悪事は魔女の仕業です。」
「魔女?それって架空のものじゃ
「いえ、魔女はいます。現にあなたの足元の消し炭は魔女だったものです。」

男は足元と言われ恐る恐る視線を落とす。
そこには、ほんの数分前までは確かに自分と同じ生き物だったであろう、炭化した塊が転がっていた。熱で解けた脂身、焼けこげた衣服が放つ異臭、プスプスと、まだ熱がくすぶるソレは、とても同じ人間だったとは思えなかった。いや、彼が言うには、これらは魔女という悪事の根源。

ここから早く出ないんですか?怪しいですね

そう言ってガベルを構えるフィリップに怯え、男は慌ててその場から逃げ出す。何度も、何度も躓きながら、振り返ることなくここから逃げ出していった。

残された数人はまるで壊れた人形のように動かない。
ナーデルは彼らを無視して、扉の外へと歩き出した。

「あとは彼ら次第です。私たちは帰りましょう。」

そうして械たちはその場を後にする。



そんな中、カラベラフィルムは一人その背中を見送っていた。

(これで良いのだろうか)


足下の醜い死体に視線を落とす。

作戦では「人間を減らしながら、正面玄関に集める」予定だった。しかし、自分の記憶が正しければ、東側樊凌とルフレの区域から逃げてきた者は、ほんの数人だった。

残りは、全て殺された。

ルフレの「間引き」の行動も気にかかる。
結果的に生存者の数に差は出なかったため、口にはしなかったが……心のどこかで、引っかかる感覚があった。

故意に人間を減らしているのでは……

そう疑いの念を抱いてしまう自分がいる。

この世界だけじゃない。自分達の関係にまで歪みが生まれてきている、無意識にそう感じた。

ん?」

そのとき、ふと背後から物音が聞こえた。西館につながる道。

見つけたところでどうする訳でもない。しかし、他にも生き残りがいるのかもしれない、そう思うと不思議と脚がそちらに向かった。

音がした方に向かう。そこには母親らしき人物の無惨な体を抱え、声を殺して泣いている少年の姿があった。

「貴殿達は

初めてこの街に来たとき、通りで見かけた親子。その姿が、今やこんな形で目の前にあるとは。

少年はカラベラフィルムに気がつくと一層強く母親の体を抱きしめる。その表情は恐怖に満ちていた。青ざめた顔と、恐怖に震える体。その目だけは爛々として見えた。



彼らはそっとしておくべきだ、見なかったことにしよう、そう思い踵を返す。

そのとき、少年とは別の呼吸音が、耳に届いた。

はっとして振り返り、彼らのそばへと駆け寄る。母親らしき女性はまだわずかに息をしていた。

(僅かであれば延命ができる)

瞬時に察したカラベラフィルムは彼女の腹部の傷に手を当てた。水を凍らせるように血液の流れを制御し、止血を図る。ただの水とは性質が離れた血液の操作はかなり難しい。
それでも、カラベラフィルムは必死に念じた。

……っはぁ

止血と一時的な修復を終えると、カラベラフィルムは肩を落として息を吐いた。

彼女の顔色はさきほどよりも穏やかに見える。

少年は困惑しながらもうれしそうに母親を抱きしめる。そんな彼に複雑な心境になりつつカラベラフィルムは立ち上がった。

一時的なものだ。一時間程度の延命にすぎない。」

そう言い残し立ち去るカラベラフィルムの背中に、青年は何度も感謝の言葉をなげかけていた。

(どうか彼らに安らかな死が訪れますように)

カラベラフィルムはそう心の中でつぶやき、先を行く械達を追った。