5話✧狷械

✧執筆協力
まめこ様

✧スチル協力
ふかひれ。様米2ろう様めんま様



その後彼らは、館に戻った。
館に戻ると、ナーデルが告げる。

「ひとまず、これを各地の役所で行います。五箇所ほど繰り返せば、すぐに効果は出るでしょう。」

こうやって人間の中に『恐怖』と『悪意』を根付かせていく。

械達は一先ず翌日に備え、その日は休むことにした。汚れた体を洗い流し、自室へと戻っていく。

この時代で人が人を殺したのは、おそらく生き残ったあの8人が最初だろう。『悪意』と『恐怖』の次にどんな感情が彼らに生まれるのだろう。『罪悪感』それとも『殺人の快楽』だろうかいずれにせよ、彼らはもう昨日までの彼らとは違う。それだけは械達にも想像できた。

翌日もまた、政府の管理下にある建物が襲撃された。
標的は前日と異なり、中枢から離れた地方の小規模な役所。
規模が小さいぶん、制圧もより容易だった。

出口を塞ぎ人間を一箇所に集めると、容赦なく半分を殺し、その半分を戦わせる。生き残った人数はさらにその半分になる。生き残りを逃がし、二箇所目の襲撃も難なく終える。

その翌日も翌々日も同じ。繰り返しだ。

その翌日も、またその次の日も。
同じことを繰り返した。まるで、整然とした実験のように。

人間たちは突然襲ってきた男たちに理由もなく蹂躙される『恐怖』と、自分が生き残るために殺す行為に『恐怖』を抱いた顔。殺される恐怖と、殺す恐怖。

生き残った人間たちは逃げ出した後、どうなったのだろう。今のところ、それを知る術はない。

五箇所目の襲撃を終えると、械たちは突如として活動を止めた。

行動を自粛してから一週間が過ぎた頃。連続して起こった『悪意』の具現化つまりあの襲撃事件の噂は、人間たちの間にじわじわと広がるはずだ。

そして、次に人々の心に芽生えたのは『恐怖』。
それは、あの惨劇そのものに対する『恐怖』でもあり、中枢機関が壊滅したことで起こる食糧不足への『恐怖』でもある。
特に田畑のない中枢都市では、食料の供給が深刻な問題となるはずだ。
機能を失った政府からの配給は止まり、飢えが人々を追いつめていく。

もしも、人間たちの心に根付いたばかりの『悪意』が暴動というかたちで表に出たとしたら。

「政府が食料を隠しているのではないか」
そんな疑念を持つ者が現れたかもしれない。

それまで、“疑う”という感情すら持たなかった人々が、初めて『疑念』を覚えたとしたら。ごく普通だった隣人が、明日にはあの械たちのように豹変して殺戮を始めるかもしれない。
一度でも疑うことを知ってしまえば、それまで当たり前だった“平和”など、一瞬で崩れてしまうだろう。

それが械達の狙いであった。