5話✧狷械

✧執筆協力
まめこ様

✧スチル協力
ふかひれ。様米2ろう様めんま様



太陽が沈み、夜風が吹き始める頃。
すべての人間に凌遅を教え終えた。満足げな顔をした人々は、家族の亡骸を抱えそれぞれ家路についた。

例の男は、辛うじて息がある状態だった。械たちは彼の拘束を解いた。
とは言え立ち上がることなど出来るわけもなく、ただ地面に寝転び、呻き声を上げながらその瞬間を待つだけだ。

「この男はどうする?」

ラートが瀕死の男を見下ろしながら問いかける。

「放置で良いでしょう。どうせすぐ死ぬでしょうし」

フィリップは冷たく吐き捨てた。械たちは帰る準備をしている。

「あとは食糧難がより悪化して、人間達がどのような行動をするか様子見しなければなりませんね。」

ナーデルがあたりを見渡しながら話す。

「夜に誰もいないなんてやはりまだまだ治安が良いですね。」

そんな中、フィリップがふと目を向けた先に、カラベラフィルムが立っていた。彼はまだ生きているその男をじっと見下ろしている。

「カラベラさん、なにしてるんですか?」


「あぁとどめを刺すべきだろう。」

静かにそう告げると、カラベラフィルムは一瞬で男の首を切り落とし、開いたままのまぶたをそっと閉じた。

放置でいいのに。」

フィリップは、はぁ、とため息をつき、視線を逸らす。
逸らした視線の先に、地面にしゃがみこむルフレが見えた。

(ルフレさんはルフレさんでなにを)

彼は、樊凌が消えた場所に小刀を突き立てていた。それはきっと、彼なりの墓標なのだろう。

カラベラフィルムもルフレも、どこか重く沈んだ空気をまとっている。

その空気感に息が詰まりそうになったフィリップは、すすっとラートに近づいた。

彼は車輪に問題がないかを念入りにチェックしている。そして空を見上げ、太陽が沈んだことに落胆していた。

(暇だな早く帰りたいのに)

フィリップが心の中で呟いたとき、ルフレも立ち上がってこちらに向かってきた。

「はやく帰りません?体が血だらけで気持ち悪い

そう言って乱れた前髪に手を伸ばしかけるが、血にまみれた自分の手に気づき動きを止めた。

彼の言葉に、誰もが無言でうなずく。そして全員で森の奥、館へと戻るため歩き出した。

「?」

ふいに背後に気配を感じたルフレはとっさに振り返った。しかしそこに人影はない。

(伝承をされて、まだ脳が困惑してるのか

そう思い直し、ルフレはナーデル、フィリップ、ラート、カラベラフィルムのあとを追った。

4人

確かに、目的には近づいたはずだった。
これで正しいはずだった。何度も検証し、選び取った選択肢だった。
なのに……どうして、こんなにも虚しいのだろう。

ルフレの胸に、唐突に虚無感と無力感が広がった。
成し遂げたはずの達成感はそこにはなく、あるのはただ、ぽっかりと空いた心の穴だった。

空を見上げれば、日が落ち、濃紺の空に細く尖った月がかかっているだけ。
あの時、もしも過去に戻ることを選ばなければ……
あるいは、誰かがそれを止めてくれていたら、今とは違う未来があったのだろうか。

「ルフレ!」「ルーちゃん♡」「ルフレ殿!」「ルフレ……

耳の奥に、失われた4人の声が、はっきりと響いた。
懐かしくて、温かくて、でももう、どこにもいない声。
心の中にこだまするその音は、今にも消えてしまいそうで。
それが何より、怖かった。
自分が、彼らを本当に「忘れてしまう」日が来るのではないかという恐怖。

もう二度と、目の前の仲間を失うわけにはいかない。
あの声を完全に忘れてしまう前に、すべてを終わらせなければならない。

そのためには……

やはり、自分の考えを貫くしかない。
『この世界は、械が支配すべき』なのだ。
人間に任せていては、同じ過ちを何度でも繰り返す。
制御し、選別し、管理し、自分たちに都合の良いものだけを飼育する世界。
自我など必要ない。人間を"生かす"のではなく、"使う"べきなのだ。
道具としての価値だけが、生存を許す条件。

ルフレは懐から、鋭く光る刃の欠片を取り出した。
それは夜の月光を受けて、ひときわ強く煌めいた。

彼の眼差しにはもう、躊躇いはなかった。
過去への悔恨も、失った痛みも、そのすべてを燃料として、
ルフレはただ、真実の平和を創ることに意志を向けた。

それが、彼の決意だった。

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*5話 「狷介」✧ 終*